4 チュートリアル前編とおわび ドアをくぐると実験室でした
チュートリアルが続きます。
「ステータスの確認は終わりましたか?」
「一応、終わったけど……」
「では、チュートリアルに移動します。景色がいきなり変わりますので、ご注意ください」
「はい?」
ユリィさんがパチンと指を鳴らした。すると、まるでテレビ画面が入れ替わるかのように景色が変わった。
周りを見回してみると、観客席みたいなものにぐるりと囲まれている。中世の闘技場みたいなところだ。
「では、チュートリアルを開始します。まず、メニューの開き方から。メニューはステータスと同じように、「メニュー」とつぶやくことで開きます。では、実際にやってみてください」
ステータスで聞きたいことがあったが、話が進んでいるようなので、後にしとくか。
ユリィさんの言うことに従ってメニューを開いてみる。ステータス、アイテム、装備、GMコール、掲示板、ログアウト。その他もろもろの設定などが表示される。
「まず、装備を確認してください。装備画面からは、自分の姿を確認できます。種族がカーバンクルになったことにより、外見にいろいろと変化がありますので」
外見の変化か、カーバンクルってどう変化するんだ?確認確認っと。
装備と書かれている部分に触れると、画面が切り替わった。そこに映し出されたのは、俺のものと思われるる人物の全体図。これが……俺?
ちょっと信じられない気持ちで手を頭にもっていく。長くなった髪の感触、そして、何やらモフモフしたものが手に当たった。手を動かしてそのモフモフの形を確かめる。えーっと……。こう、先っぽがとがっていて、後ろ向きに生えてる。で、モフモフしててあったかい。長さは引っ張って下せば肩に余裕で届くくらい……。
なんでケモミミ?
俺が頭をわしゃわしゃしていたら、ユリィさんが無言で指を鳴らした。そしたら、音もなく服屋に置かれてるような大きさの姿見が表れる。
「…………」
少しためらいながらも、その前に、目を閉じて立つ。数秒そのまま待ってから、意を決して…………。
「可愛いですよ、アカツキ様」
「くっそがぁああああああああああああああああ!!」
―――そこに映っていたのは、変わった形のケモミミを生やし、額にサファイアのような色をした宝石を付けた、深蒼色の髪の女の子。つまりは俺だった。片目が隠れているのがチャームポイント見たくなっている。
「こうしてみると、ケモミミも似合いますねー」
「うっさい!早くチュートリアルを続けろぉ……っ!」
「わかってますわかってます…………スクショとっていいですか?」
「いいわけあるか!」
冗談です。とにこりともせずに言うユリィさん。いい人なんだろうけど、こういう悪戯は勘弁してもらいたいです。切実に。
「さて、初期装備はちゃんとありますね」
「初期装備?」
もう一度姿見を見てみる。さっきまではケモミミと顔に集中してたから気が付かなかったけど、服装が変わってる。真っ黒なローブだ。ローブの下は白のシャツに黒の長ズボンとシンプルなもの。靴は、革靴かな?装備画面を見ると、初心者のローブ(黒)、初心者のシャツ(白)、初心者のズボン(黒)、初心者の靴(革靴)らしい。靴下も履いてるけど、表示されない。
「あるみたいだな、初期装備」
「そうですか、では、次です。アイテムを開いてみてください」
装備画面の戻るを触り、メニュー画面に戻して、代わりにアイテムを触る。切り替わる画面。そこにあったのは……って、なんにもないな。
「なんにも入っていないぞ」
「はい、では、こちらを差し上げますので、入れてみてください」
ユリィさんが指を鳴らす。その音とともに現れたのは、薄緑いろの液体の入った瓶。……あの指パッチンはいったい何なのだろうか?
「これは?」
「『初心者ポーション』です。HPを十パーセントだけ回復します。レベルが十になるまではなくならないという、いわば初心者救済用のアイテムですね。体にかける、飲むなどして使用します。掛けると効果が少し下がりますが……飲むのには勇気のいる味をしています」
「まずいんか」
「まずいです。まぁ、それは置いておいて、これをアイテム画面に近づけて、『収納』と言ってください。取り出すときはアイテム名を触れば出てきます。では、やってみてください」
ユリィさんから渡された瓶をまじまじと見てみる。これがポーション……。どんだけまずいんだろう。気になるな。
レベルが十になるまではなくならないということなので…………ごくごくごく……。
「…………げほっ、げほっ!に、にがいぃ………」
「何をしているんですか、アカツキ様。だからまずいと言ったじゃないですか……」
「ど、どのくらいまずいのかなって思って……あ、青汁に魚の肝入れたみたいな味してる……」
まじでまずかった……。錬金術でポーションって作れるのかな?作れるなら、せめて飲めるレベルのポーションを作ろうと固く決意した瞬間だった。
そのあとはおとなしくアイテムの出し入れをして、ログアウトやらGMコールやらの説明を受けた。これでメニューの説明は終了らしい。
「アカツキ様、もう一度アイテム画面を開いていただけますか?」
「わかった……メニュー……って、よし。開いたぞ」
「ありがとうございます、では」
ユリィさんはまたまたあの万能指パッチンをした。すると、初心者ポーションとしか表示されていなかったアイテム画面に、『ランダムスキルの書』、『身代わりの依り代×3』、『錬金術の亜空工房』が新しく表示された。
「……これは?」
「運営からのお詫びです。アカツキ様がカーバンクルとなってしまったのは、こちらの落ち度ですから」
「気にしてないんだけどな……。ま、もらえるならもらっとくよ。ちなみにこれらはどんなアイテムなんだ?」
「ランダムスキルの書は、ゲーム上に存在するスキルを一つだけランダムで手に入れることができます。でもまぁ、アカツキ様的に、ランダムは……」
うん、カーバンクルを引き当てた時点でそれはわかってる。しかし……さすがに次もってことはないだろう。うん、有能なスキルが来てくれると信じているよ。
「大丈夫大丈夫。心配することなんて何もないさ!」
「アカツキ様、フラグって言葉、知っていますか?」
「知ってるけど今このタイミングで言うのはやめてくれないかなぁ……」
「失礼しました。でも、使用する際には、十分注意してくださいね」
そういってくれるユリィさんのやさしさが身に染みるぜ……。
「それでは、説明に戻りますね。身代わりの依り代は、HPがゼロになった時に自動的に消費され、HPが全回復します。簡単に言えば復活アイテムですね。そして錬金術の亜空工房。これは一度実体化させてみてください」
言われた通りに実体化させてみる。なんだこれ、鍵……?アンティーク調の落ち着いた感じのやつだ。インテリアとして飾っておきたい感じである。
「その鍵を空間に差し込み、右にひねります。やってみてください」
「空間に差し込む……?こうか?」
何もない空間に、あたかも錠前があるかのように手にした鍵を突き刺してみる。そしてその鍵を言われた通りにひねってみた。
すると、なんということでしょう。目の前の空間がぐにゃりと歪み、そこに重厚な木製のドアが表れたではありませんか。何だこれ。
「さ、行きましょうか」
「あ、ちょ、はやっ!」
さっさとドアを開けて中に入ってしまったユリィさんを追って、俺もドアをくぐる。
「おわっ、何だこれ……。すっげぇ……」
ドアを抜けたら、そこは実験室でした。
ビーカーやら鍋やらよくわからない機器が並び、いろんなところに魔法陣が描かれている。隅の本棚には本が並び、その上にはよくわからない植物の植えられた植木鉢が置かれていた。照明は最小限になっており、少し薄暗い。しかしそれがいかにも『らしさ』を醸し出している。
「なんか、いかにもって感じだな」
「雰囲気的にはそうですね。ここは亜空間に作られた錬金術の工房。錬金術を行うのにあたって必要なものが一通りそろっています。また、錬金術スキルのレベルが上がると、設備が高レベルのものになります」
「それはすごいな……でもいいのか?こんなものをもらって」
「錬金術の工房は、街にしかありませんから」
「あ、そういうことね……」
これがなかったら、錬金術スキルは死にスキルと化していたということですね。
錬金術工房をあちこち見ていたら、奥の方に入ってきたドアとは別のドアがあった。ここから出られるのかなーっと思って開けてみたら……。
畳が敷かれた、純和風の部屋が表れた。
「突然の和のテイストっ!ユリィさん、これはいったい!?」
「ああ、生活空間もあるんですね。ここがログアウト用の部屋ですよ。ログアウトしたときのアバターは体がそのまま残りますから。街で宿をとってログアウトするのが普通なんです。街以外のフィールドだと、テントみたいなアイテムを使うしかないんですけど……アカツキ様にはどちらも無理ですからね」
「そうだね、めっちゃ大変だね」
もう、乾いた笑いしか出てこない……。レア種族欲しいとか言ってた頃の自分を殺してやりたいです。
作者はMMOというものの経験がほとんどないので、ここはおかしいんじゃない?といったご指摘などは、ありがたく頂戴します。
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