2-16 魔法霧散結界と自爆技 お前の相手は、ちょっと普通じゃないぞ?
黒の神の試練、終結。
『魔法霧散結界』。
メタルゴーレムの全身に張り付いた、魔法殺しの結界。結界に触れた魔法の構築に干渉し、その構築をばらばらにしてしまう。正確には、結界に使われている魔力が結界に触れた魔法に反応し、魔法の構築を瞬時に読み取り、構築の核となる部分を探し当て、そこを破壊する、というアホみたいに高度な技術が使われている結界だ。どれだけの魔力とイメージがあればそんな魔法が使えるのか見当もつかないが、そこは神の御業ということで納得しておこう。
納得したところで、さて、どうやって倒そうか? 相手は魔法使い絶対殺すマン。正直俺に勝ち目があるとは思えない。当たり前だ、魔法使いが魔法を無力されるなんて、ボールのないサッカー選手みたいなものだ。石でも蹴るのかね?
状況は絶望的。でも、俺は自然と笑みを浮かべていた。
絶望的? だからこそのの試練。できない事、不可能なこと、途方もない難題。そう言ったものを打ち破るからこそ、意味があるんじゃないのか?
それに、この世界はゲームだ。難易度イージーじゃあつまらないとは思わないか?
これまでのこの世界での冒険。そのすべてで、俺はユリィに助けられてきた。ユリィがいたからこそ、いろいろと乗り越えることができたんだ。
でも、いつもユリィがそばにいるとは限らない。ユリィに頼り切るのはやめると俺は誓った。なら、それをここで証明しようじゃないか。それに、守られっぱなしって言うのも情けないしな。
「なら、やることはひとつ」
この難しすぎる問題。目の前の天敵とも呼べる存在。
「それを打開するために、あがいてやる」
だから、覚悟しろよ、メタルゴーレム。
「お前の相手は、ちょっと普通じゃないぞ?」
◇
魔法使いメタメタルゴーレムとの戦闘が始まってから、すでに三十分近くがたっている。しかし、メタルゴーレムのHPは微動だにしていない。
ついでに言うと、俺のHPも全く減っていない。
何でかって? メタルゴーレムが動かないからだよ。
攻撃はしてくる。しかし、それは魔法やらビームやらミサイルやら……まぁ、ツッコミどころは多いが、遠距離系の攻撃ばかり。攻撃に『魔法霧散結界』は張られていないらしく、普通に防御魔法で防ぐことができた。
で、こちらの攻撃はすべて防がれている。一点集中の貫通魔法や、複数属性融合魔法なども試してみたが、まるで効果がない。
一度、物理攻撃をしたらどうなるかなー、と思って接近して【剛拳】を叩き込んでみたが、逆に殴った俺の手のほうが痛かった。攻撃力が足らなかったようだ。知のステータスに極振りしていたツケがここで巡って来たか。
「うーん、どうしたものか……」
こちらに向かって飛んできたミサイルを【黒盾】で防ぐ。威力は高いみたいだが、スピードはそれほどでもない。
メタルゴーレムの攻撃は低い頻度で行われるので、それほど警戒する必要はない。[遅延]で防御魔法を待機させておけば問題ない。
さて、正直手詰まり感が半端ではないが、いろいろ考えてみた結果、二つの結論にたどり着いた。とりあえず、その二つの可能性にかけて、試していきますかね。
瞑想の体勢から立ち上がり、体勢を低くする。飛びかかる前の獣のような恰好をする。右手は軽く握って脇まで引き、左腕は脱力させ下に垂らす。なんちゃって拳法の構えだ。
これから行う魔法は、魔法使いとして間違っているとしか言えないような魔法だろう。でも、魔法を使って魔法が効かない相手を倒そうとするなら、この方法は有効なはず。
……あんまり、進んでやりたいとは思わないけどな。
さて、じゃあ行こうか。いや、逝こうか、かな?
魔力を高ぶらせ、全身に張り巡らせるようにして展開する。内側に凝縮するように魔力を操作し、常に体内を流動させる。
属性は火、土、闇の三属性。属性の融合は今のところ三つが限界だからだ。そして、この魔法は普通の魔法と違い、いくつかの段階を踏むことによって最終的な結果を生み出す魔法だ。
「『炎よ汝は猛きもの その熱を以てわが身に灼熱の苛烈を与えよ』」
鍵言とともに、体全体が焼けるような熱を放ち始めた。体中の血が煮えたぎっているような感覚。正直、めっちゃ熱い。
「『地よ汝は堅牢にして強固 鈍き輝きを我に宿しその力を体現せよ』」
熱さを我慢して詠唱を続ける。土属性の魔力が全身に浸透していく。だが、魔力光は見えない。魔力を操作し、全身の骨と筋肉と皮を硬化させる。
「『闇よ不可視の領域に干渉し我を縛る枷を解け』」
そう詠唱すると同時に【重脚】で地面をける。炎属性の身体強化、そして闇属性の重力操作で俺の体は天井近くまで跳ね上がった。天井にぶつかりそうになったところでくるりと反転。天井に着地する。
「『炎の苛烈 地の堅牢 闇の重圧 すべての力よ混ざり合え 放たれるは――――』」
天井でぐっと膝をたわませ、両足で【重脚】を発動。両の眼は鎮座するメタルゴーレムをまっすぐ貫く。
「『流星の一撃』」
ドンッこいう轟音。天井を蜘蛛の巣上に沈めながら、俺はメタルゴーレムに突っ込む。落下のエネルギーに強化された身体能力からはなたれる【重脚】二連。そして何倍にもなった重力が俺の背中を強く押す。
超加速のなか、時間が引き伸ばされたような視界で、ゆっくりと近づいてくるメタルゴーレムに当たる瞬間を狙って【剛拳】を発動。そして、最後の鍵言を解き放つ。
――――【堕天之崩撃】
それは、確かに流星のごとく一撃。着弾とともに俺の体に交通事故かと思うような衝撃が走るところとか、まさに流星。輝くのは一瞬。刹那の綺羅星は夜空に散る。
メタルゴーレムの半球体の頭部を押しつぶすようにして放たれた一撃は、確かに金属製の体を粉砕し、爆散させた。俺の拳はメタルゴーレムの体を粉々にし、そのまま地面までを粉砕させた。それと同時に、俺にもとんでもない痛みが襲い掛かって来た。
この魔法とアーツを組み合わせた―――魔闘技とでも呼ぼうか?――――近接の一撃、【堕天之崩撃】。これはぶっちゃければ自爆技だ。着地……いや、着弾後のことを何も考えていない鉄砲玉のような技。はっきり言ってまともじゃない。
地面にめり込んだ俺は、ぎりぎりで意識を保っていた。自分のHPゲージを見ると、ほとんどゼロに近い。ミリ単位で残ってるだけだ。MPも残り少ない。[生命魔法]で直しておこうか。ああ、習得しておいてよかった……。
まぁでも、そのまともじゃない方法のおかげで……。
《挑戦者の最終試練の突破を確認しました》
無事、クリアだ。
実際はこんなに長くする気はなかったんだけどな……。
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