2-14 蹂躙戦と通達ミス まてまて、試練って何個かあるのかよ!?
なぜか続く迷宮編。さっさとイベント編に入りたいのに……。
《汝、試練を受けし者。黒の神の試練を与える》
《ここは世界の裏側。すべての災厄が封じられし場所》
《汝の力を示せ。強き力、気高き力を》
そんなアナウンスが鳴り響き、部屋の振動が収まる。それと同時に祭壇以外の床、壁、天井にびっしりと魔法陣が浮かび上がった。アナウンスの内容、力を示せと言っていた。なら、この魔法陣の意味は……!
「『炎よ燃え盛る翼となりて薙ぎ払え 羽ばたきは紅蓮と破壊をまき散らす』、【緋翼】!」
両腕を横に勢いよく開くとともに、業火の翼が床の魔法陣から這い出てきたモンスターを薙ぎ払った。炎の光に照らされるのは、全く別の種類のモンスターが集まった集団。ゴブリン、スライム、インプ、オーク、リザードマン、スケルトン、ゾンビ、グール、レイス、ゴーレム……。まるでモンスターの見本市だ。
【緋翼】が薙ぎ払った後には、粒子が舞う。大群に対しての初手範囲攻撃は基本だと偉い人も言っていた。残っているモンスターもいるが、それも体中が焼け焦げていたりする。
だが、【緋翼】で倒せたのは床のモンスターだけ。壁と天井からは浮遊するモンスターが姿を現してこちらに襲い掛かってくる。鍵言詠唱の暇は……ない。
「問題……ない!」
なので、目の前に来たケイブバットに、思いっきり拳を叩き込んだ。ほとんど使う機会のなかった[格闘術]のスキルがここにきて活躍するとは……習得しておいてよかった。
拳と蹴りを使って上からのモンスターを捌く捌く。そうしている間も、集中と詠唱は途切れさせない。こうもモンスターの数が多いと、複雑なイメージは必要なくなる。ただ風を吹き散らし、炎を舞い上がらせるだけでも何かしらのモンスターに魔法が命中する。数は多いが質はそれほどでもないようで、俺の極振りの知のステータスから放たれる魔法で一撃で倒れていく。
「―――【緋翼】!」
モンスターの勢いが弱まったところで、今度は上空に向かって紅蓮の翼を羽ばたかせる。天井から湧き出てくる魔物を一掃した。堕ちろ蚊トンボ! と言いたくなったが寸前のところで我慢する。
「よし……! ……ちっ、次から次へとキリがないな。―――【石壁】!」
床の魔法陣からまた陸戦型のモンスターが表れ始めた。とりあえず時間稼ぎとして【石壁】を祭壇の周りに張り巡らせる。上と下から、上下左右古今東西全方位から攻めてくるモンスターをすべて相手していては、MPもなくなっていしまう。とりあえず、床のモンスターだけでもなんとかすれば、MPの問題は解決するんだが……。こう、放置するだけでモンスターが死んでいくような、そんな魔法を作れないだろうか?
と、天井と壁から湧き出る空戦型モンスターの群れを粒子に変換していくと、あることに気が付いた。モンスターの動きが単調すぎるのだ。魔法陣から出てきては、ただまっすぐに俺に向かってくる。攻撃も直線的でわかりやすいものばかり。
「試してみるか……。――――【黒盾】!」
突っ込んでくる鳥型のモンスターの前に漆黒の盾を配置。十分に距離があったのにも関わらず、鳥型のモンスターは【黒盾】に頭から突っ込んで墜落した。想像通りの結果に、思わず笑みがこぼれる。
なぜかはわからないが、このモンスターたちは『俺へまっすぐ攻撃を加える』という行動しかしないようだ。回避も防御もフェイントも考えず、ただ向かってくるだけ。行動が俺に集中しているのなら、対処方法はいくらでも存在する。
「『風よ鋭き刃となりて集え 汝は結界 すべてを拒む障壁なり』、【飆断】」
属性は一番使い慣れている風。これは風の刃をとどまらせ、ふれるものを斬り裂く壁を作り出す魔法。【石壁】を解除して【飆断】を代わりに祭壇の周りに張り巡らせる。刃の障壁はこちらに向かってくる陸戦モンスターを触れる端から細切れにしていく。さて、これで床の魔法陣は放っておいても大丈夫だな。MPもそろそろつきそうだし……。
「――――【黒座】。よっこらせっと」
移動用の闇魔法、【黒座】の上に、胡坐をかいて座る。この魔法なら、移動しながらあのスキルが使える。
「[瞑想]。……さぁて、蹂躙の時間だ」
急速に魔力が回復していく感覚。魔力の枯渇、回復を繰り返すのは結構つらいからあんまりやりたくはないけど……。この状況なら仕方ない。
天井と床の中間地点に浮かび上がり、ひたすらに魔法を放ち続ける。属性、性質は問わず、攻撃魔法をばらまき続け、モンスターを粒子に変換する。かなりのスピードで湧き出ているようだけど、途切れることない連撃なら意味はないでしょ?
すべてを破壊しつくさんとばかりに俺から放たれる魔法の数々。唯一与えられた役割すら果たせずに死んでいくモンスターの群れ。これぞまさしく、蹂躙。
「くく、くくくくく! なんだこれ、結構楽しいぞ! あはははははは!」
モンスターを蹂躙し続ける俺の顔に浮かんでいたのは、愉悦。圧倒的な力ですべてを薙ぎ払うというのは、やはり抗いがたい魅力があるものだ、と頭の片隅で考えながら、俺はモンスターに魔法を放ち続けるのだった。
「ん? もう出てこないのか…?」
モンスターの群れが魔法陣から湧き出なくなった。かれこれ二十分くらいは魔法を撃ち続けていただろうか? 途中から、試練だということも忘れ、オリジナル魔法の実験台にしたくらいだ。魔法をバカスカ撃てるのって楽しー。
少し待ってみると、部屋中に刻まれた魔法陣が薄くなっていき、消えた。
《第一の試練の突破を確認≫
《これより、第二の試練に入る≫
「まてまて。試練って何個かあるのかよ!?」
なんで最初に言わないんだ。不親切設計にもほどがあるだろ。
アナウンスが消えた後、今度は北側の壁に大きな魔法陣が表れた。これが第二の試練ということなのだろう。第一の試練が数。なら、第二の試練は?
「そりゃ、質のいい奴を出してくるよなぁ…」
魔法陣を突き破るようにして現れたのは、牛頭の巨人。上半身は筋骨隆々な男のもの、下半身は牛。全身が黒く、その手には三メートルくらいはある巨斧を持っていた。見上げるほどの大きさは五メートルを超える。
ミノタウロス。迷宮の奥で出会うモンスターの中で、こいつほどふさわしいやつはいないだろう。全身が黒いから、漆黒牛頭巨鬼とでも言うのだろうか?
「BUOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」
魔法陣から生れ落ちたミノタウロスは、部屋中を震わせるほどの雄たけびを上げた。漆黒の中に光る赤い目が、祭壇に乗る俺をまっすぐに射抜く。
「こいつは、まともに相手をしても勝てないな。―――【風衣】」
身軽に動けるように、【風衣】をまとう。そして巨斧を構えたミノタウロスに向かって魔法を放っていく。弱点を見極めるように、全属性の魔法を一発ずつ。第一階梯の魔法ではろくなダメージにならないのか、ミノタウロスのHPはほとんど減らない。しかし、属性によって与えたダメージが変わったのは確認できた。
「弱点は風と光か! ………って、まずい!」
魔法を打ち込まれたのが煩わしかったのか、ミノタウロスは苛立たし気に斧を振り回し始めた。一歩一歩床を砕きながらこちらに向かってくる。とりあえず距離を取ろうかと身をひるがえした瞬間、いきなり頭の中にアナウンスが流れ始めた。
《言い忘れていたが、汝が立つ祭壇は神聖なるもの》
《ゆえに、祭壇を破壊された時点で試練は失敗とみなす》
《命を懸けて祭壇を守り、かつ迫りくる敵を殲滅せよ》
《健闘を祈る》
……………………………………うん、少し落ち着こうか。さぁ、目を閉じて。
「……『風よ吹き荒れる衝撃をもって我が敵を吹き飛ばせ それは巨鎚の一撃』、【嵐鎚】」
ミノタウロスに風の塊をぶち当て、その巨体を壁際まで下がらせた。大きく息を吸い、閉じていた瞳をカッと開き、あらん限りの力を込めて叫ぶ。
「先に、教えろよぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」
まだ続きます。
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