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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
魔導と初イベント
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2-12 黒の神殿と黒神の試練 立ちふさがる試練を乗り越えし時、漆黒の祝福を授からん

 ユリィと手分けをして部屋の中を探索する。俺が右側、ユリィが左側だ。部屋の広さはかなり広く、小学校の体育館くらいはある。黒い鉱石で作られた部屋は、無機質な冷たさをこれでもかと放っている。壁に掛けられている松明の火は、なぜか熱を持っておらず、手をかざしても熱くもなんともない。壁や床、に罠らしきものもなく、等間隔に立っている太い柱を調べてみるが、これと言って変わったものはなかった。


 次に調べたのは、俺たちを押しつぶそうとしてきた大岩。直径が二メートル近くあるそれは、部屋の真ん中にドンっとおかれている。


「古典的だけど、おっそろしい罠だよな……。これに押しつぶされるとか、悪夢以外の何物でもない」


 ぺちぺちと岩の表面を叩いていると、ふとあることを思いついた。大岩の表面に手を触れながら、メニュー画面を開き、アイテムボックスを展開。そして、収納と念じてみたら……。


「おわっ! ほ、本当に入った……。これってアイテム扱いなのか。何に使うのかはわからないけど……」


 アイテム欄の一番下に、《魔鋼の鉱石球・特大》という名前があった。普通の岩じゃなかったんだ。クロさんにでもあげようかな? この魔鋼ってやつは武器の素材とかになりそうだし。錬金術で分離させて渡せばいいか。


 さて、あと調べてないのは……壁の彫刻とか? どんなものが彫られているか、調べてみるか。


「『闇は集いてすべての力奪う盾となる』、【黒盾】」


 闇属性第三階梯魔法、【黒盾】。魔力、物理問わずエネルギーを奪いとるという概念を持つ盾を横向きに展開した。黒いひし形の盾が宙に浮いている。防御のための魔法だが、この魔法の本質を叡智で調べた時、俺はあることを思いついた。それは……。


「よっこらせ」


 ――――展開した【黒盾】にのると、そのまま浮かべるんじゃないの?


 【黒盾】は、この魔法に触れたものが発生させているエネルギーを奪い取る。魔法を受け止めればその魔法を構成する魔力を奪い、剣を受け止めればそこに発生している運動エネルギーを奪いとる。ということは、落下の運動エネルギーを奪うことも可能ということだ。無理やりな感じもあるが、とりあえず試してみたところ……ものの見事に成功した。こうして【黒盾】は俺の浮遊ボードになったというわけだ。


 ………そうだな。こうなったらもう、【黒盾】という名前はふさわしくないな。詠唱も変えて………。


「『闇は集いて我が王座とならん 傲慢なる我を高みへと導くものとなれ』、【黒座】」


 オリジナル魔法、【黒座】。完成である。


 完全に移動用の魔法になったため、座り心地とかが向上している。移動速度は早歩き程度か? 別の魔法を組み合わせればスピードを上げることもできるだろう。魔法の改良はこのくらいにして、壁の彫刻を早く調べよう。


 【黒座】に座ったまま、彫刻が彫られている高さまで浮かび上がる。光球の数を増やして見やすくしてからじっくりと彫刻を眺める。


 精工に作られている彫刻は、どうやらモンスターと人の戦いの様子を表しているようだ。翼の生えた大蛇、六頭の狼、天を衝く巨人、天使の軍制、十翼の龍。どれもこれも強そうなモンスターだ。それに立ち向かうのは、一人の女性。ローブと三角帽といかにも魔女、という恰好をしている。雷を操り、劫火ですべてを燃やし尽くし、天変地異を指先一つで発生させる。人の身を超えた力と力のぶつかり合い。まさに神話の戦い。


 だが、これが何を現しているのかはわからない。魔女とモンスターとの戦い。過去にこの世界で、実際にあった戦いなのか。それとも空想の出来事なのか。


「これが本当のことなら……。レベルを上げていけば、こんな魔法を使えるのか? ……って、今はそうじゃないだろ。この部屋のことを調べないと」


 壮大すぎる光景に魅入られそうになるのを、頭を振って打ち消す。今は調査に集中しよう。


 彫刻は横に広がるように存在し、そのすべてで魔女がモンスターと戦っていた。そして、彫刻群の終わり、松明の光が届くぎりぎりのところに、何かの紋章のようなものがあった。月と星が絡まりあったような模様をしている。なんの紋章かはわからなかったが、とりあえずスクショに取っておく。


「うーん、モンスターと戦う魔女。地下に作られた謎の空間。神殿のような作りの部屋…………。もしかして、この彫刻に書かれているモンスターが封印されてるとか? ……ははは、まさか、な」


 松明の明かりも、魔法の明かりも届かない暗闇のほうをそっと見る。


 形のないはずの闇が、身動ぎをするようにうごめいたような気がした。




 部屋の右側をあらかた調べ終えたので、左側を見て回っていたユリィに声をかける。ユリィのほうもほとんど終わっていたようだ。


「ユリィ、そっちはどうだった? こっちは彫刻がいっぱいあるくらいだったけど」

「私の方は、普通の壁でした。でも、一つ気になるものが……」


 ユリィに連れられて左側の壁の松明の光の境界線のところを見る。右側の紋章があったあたりだ。そこには、壁にはめ込まれるようにして一枚の金属板があった。その表面には文字が彫られている。



 ――――ここは黒の神殿。


 ありとあらゆる災厄と絶望が集い、封じられし箱。


 黒き神が住まうこの地は常に闇に沈む。汝資格を持つものならば進むがよい。


 資格を持たぬものは、黒き神の試練を受けよ。


 立ちふさがる試練を乗り越えし時、漆黒の祝福を授からん。



「ゲーム的に要約すると、何かしらのイベントをクリアすると、漆黒の祝福とやらを受けることができる……ってことか?」

「雰囲気とかそういうものを全く考えないなら、そういうことでしょうね。試練、というのは?」

「向こう側の彫刻群が全部モンスターと戦ってるものだったから、戦闘系じゃないか?」


 黒き神か……。ということは、あの紋章はその黒き神を現しているのだろうか? 黒→夜という単純な連想ゲームだな。


 まぁ、松明の届かないあの暗闇。あの先が試練の場なのだろう。戦闘は確実と思っていいだろう。本来、レベル上げ目的で来ているのだ。強敵との戦闘はむしろ望むところ。


 ステータスを確認し、レベルアップで手に入れたSPを知力に割り振る。スキルレベルを確認すると、新しく手に入れた魔法スキルのレベルが、軒並み三十まで上がっていた。ダンジョンの奥の方は、格上の敵が多かったのだろう。新しく習得した魔法を調べ、叡智でその効果を確認しておいた。オリジナル魔法は結構土壇場で思いつくこともあるから、こうやって詳細なデータを見ておくことも大切だ。


 神の試練……。ギドベグのときも、洞窟の神とやらの試練を押し付けられた。この世界にはどんな神がいて、どんな神話があるのだろうか? 町に入れるような手段を見つけたら、そういうのを調べるのも楽しいかもしれない。あの彫刻の人物は誰なのか、というのも気になるし。


「アカツキ様、どうかしましたか?」

「ん? ああ、何でもない。準備はできたか?」

「はい、いつでもいけます。しっかりとアカツキ様をお守りしますね」

「……前衛と後衛って役割的に間違いじゃないんだけど……なんか、釈然としない」


 まぁ、ユリィには助けられてばっかだし、今更と言えば今更か。恥ずかしいってだけで嫌なわけじゃない。


 不気味な気配を放つ暗闇の前にユリィと並んで立ち、一度瞳を閉じる。大きく息を吸い、吐き出すと同時に目を開く。闘争の始まりの気配。暗闇から放たれる威圧感のようなものはまるで変わらないが、隣にいるユリィの存在が、俺を支えてくれている。



「さぁ、行こうか」

 

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