2-11 暗がりの罠と地下神殿 ダンジョン……迷宮か
先月のラノベの新刊が私の財布を殺しにかかってきてる件。
スケルトンを倒した後も、次々とモンスターが襲い掛かって来た。天井からいきなり降ってくる蝙蝠、ケイブバット。石でできた体を持つ動く人形、ストーンパペット。動く獣の骨格標本、スカルビースト。スケルトンの上位種であるスケルトンウォーリアーやスケルトンアーチャーなどなど。いかにも洞窟に出てきそうなモンスターが勢ぞろいだった。モンスターは進めば進むほどに強くなっていき、弱点属性の魔法でも一撃で倒せなくなってきた。その分、レベルの上りはよく、俺とユリィのレベルは30まで上がっていた。
そしてこの洞窟、厄介なのはモンスターだけではなかった。ランダムで仕掛けられている罠が、俺たちの行く手を阻んでいる。落とし穴や矢が飛んでくる物理的なものや、ランダムでモンスターを引き寄せる罠などがあった。しかし、俺とユリィがかかった罠の数は、仕掛けられていた罠の数の、一割もない。
「アカツキ様、そこもです。気を付けてください」
「おっと、悪い悪い。……それにしても、なんでユリィは罠のある位置がわかるんだ?」
「……勘、ですかね? なんとなく、その辺が怪しいってことがわかるんです」
「さすがに運営も、仕掛けた罠を冠で突破されるとは思っていなかっただろうな」
そう、罠が仕掛けてある場所を、ユリィがほとんど察知してしまうのだ。ユリィが指さしたところに向かって魔法を打ち込んでみると、その場所の天井から岩が降って来た。一撃でアウトになるほどではないが、確実にダメージを受けるだろう。
仕掛けられている罠の数々は、ユリィの人間離れした直感によって、ほとんど無意味になっていた。たまに見落としがあっても、ユリィは罠が発動した後でも十分に対処できる。飛来した矢をなんともないような感じで斬り落とした時は、開いた口がふさがらなかった。
岩落としの罠の先は、分かれ道になっていた。これまでも何度か分かれ道があったが、そのすべてをユリィに選んでもらっている。俺が選んだらどうせろくなことにならないだろうし。
「……今回は、左にしましょうか。右の道はなんとなく嫌な予感がします」
「よし、じゃあ左だな。これで分かれ道が十三回目……この洞窟、どこまでつながってるんだろうな?」
「洞窟に入ってから、すでに三時間近くたっていますし……。そろそろ、何かしらの変化がありますでしょうか?」
「この岩肌も、だいぶ見飽きてきたし。何かこう、驚くようなことが起きてくれると、気分転換になっていいんだけど」
と、俺がそう言った瞬間だった。地面に下した左足のしたから、「カチッ」という音がしたのは。
「…………………………」
その場を沈黙が支配する。俺は恐る恐る左足をどかし、そこの地面を光球で照らし出す。そこには、地面と全く同じ色のスイッチらしきものが、すでに押された状態で存在していた。ユリィのほうに視線を向けてみると、頬を引きつらせて俺の足元を見つめていた。たぶん、俺も同じような顔をしているのだろう。
驚くようなことが起きると。そんな風に言った瞬間にこれだ。さすがにフラグ回収早すぎるだろ!? と内心でツッコミを入れる。
さてと、とりあえず冷静になろう。このスイッチらしきものが何なのか、クリアな頭で考えてみようじゃないか。
一、罠
二、罠……と見せかけて何もない
三、自然の神秘によってできたスイッチらしきもの
「あ、アカツキ様! 後ろから岩が転がってきます!」
「一番に決まってますよね、わかってました。……逃げるぞぉおおおおおおおお!!」
ゴゴゴゴ……。と轟音を上げながら転がってくる大岩。テンプレにもほどがある罠だった。坂道でもないのにどうやって転がってるんだろうなー。……って、現実逃避してる場合かっ!
【風衣】を自分とユリィに発動。全力で岩から逃げる。あれに押しつぶされたら死に戻りは確実だ。死に戻り以前に、岩にミンチにされるとか嫌すぎる。トラウマ確定だろう。
走りながら【石壁】や闇属性第三階梯魔法、【黒盾】を使ってみるが、ことごとく粉砕され、勢いが衰えた様子もない。完全に無駄足だった。
「あっ」
魔法に集中していたせいだろうか? 足元にある突き出た石に気づかず、それにつまずいてしまう。ここで転んだら、確実にミンチ……。そう思っても、勢いよく前倒しになる体は止まってくれない。近づいてくる地面に絶望しかけた瞬間。
「アカツキ様!」
耳を撃ったユリィの声とともに、俺の体がふわりと浮かび上がる。そして、なにやら柔らかい感触がしたと思ったら、すごい勢いで景色が後ろに流れ始めた。いきなりの急加速に思わず目を閉じる。
「しっかりつかまっていてください。行きますよ!」
ユリィの声がして、さらにスピードが一段階上がった。それと同時に、大岩が転がる音が、少しづつ遠ざかっているのが分かった。そして、今の俺の現状も、理解した。
……また、お姫様抱っこか!
全速力で駆けるユリィの腕の中で、俺は羞恥に顔を赤くするのだった。
「アカツキ様! 前方に部屋らしきものが!」
「とりあえず入って! 通路じゃないなら岩をかわせると思うから!」
ユリィに抱えられたまま進むこと数分。ユリィの言う通り、部屋の入口みたいなものが見えた。光源があるのか、暗い通路に光が漏れている。ユリィはその部屋にスピードを緩めずに突っ込んだ。部屋に入りすぐ横っ飛びで壁際による。
部屋は、神殿のような作りになっており、黒い鉱石で作られた柱が等間隔に立っていた。壁にはモンスターや人の彫像が彫られており、壁に掛けられた松明には赤い火が揺らめいていた。
俺とユリィが部屋に入った数十秒後、転がって来た大岩が部屋に入って来た。大岩は部屋に入った途端その勢いを緩め、ぴたりと止まった。
「「…………はぁああ……」」
た、助かった……。岩にミンチにされるのは何とか避けられたな。単純だけど凶悪すぎる罠だった。
「ありがとう、ユリィ。助かったよ」
「アカツキ様を助けるのは私の役目ですから。それに、私が罠を見落としたのが悪かったですし……」
「それを言ったら、俺だってユリィに頼りっぱなしで罠の警戒を全然してなかったんだから。お互いさまだ」
「……ふふっ、そうですね。お互いさまです」
「うんうん。……それはそうと、そろそろ下してほしいんだけど……」
「え……。も、もう少しだけ……」
「恥ずかしいから無理です」
しぶしぶといった様子で俺を下ろすユリィ。ユリィはお姫様抱っこをする趣味でもあるのだろうか? だったらレイカとかちっちゃくて可愛い娘を抱っこすればいいのに。
「さてと、何やら意味ありげなところに来たな。パッと見神殿みたいにも見えるけど……。こんな地下に作られる神殿なんて、きっとろくでもないものだろうね」
「隠された神殿……。あの洞窟は、ダンジョンの入口だったのでしょう。次々に襲い来るモンスター、数々の罠。ダンジョンの特徴と一致します」
「ダンジョン……迷宮か。なら、この部屋は最深部なのか? それとも……」
「こここそが、本当のダンジョンの入口……ですか?」
「その可能性もあるってことだよ。まぁ、どっちにしろ嫌な予感がするのは変わりない。ギドベグを相手にしたときと同じ空気を感じる」
ピリピリと張り詰めていて、重力が倍になったかのようなプレッシャーが蔓延している。洞窟に入った時に感じた空気を強力にした感じだ。そして、その空気は部屋の奥。松明の光が途切れている向こうから流れてきている。
「とりあえず、少し休んだらここを調べてみよう。そのあとに……あの奥に行ってみる」
「わかりました」
さて、この場所には何があるのだろうか?
次回、ボス戦……!
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