2-10 レベル上げと謎の洞窟 いや、全属性使いとかなんかかっこいいかなって思って
テスト週間終わる。その次の日に実力テスト。
……舐めてんのか。
運営から発表されたイベントとアップデートのお知らせ。それは、プレイヤーたちを大いに湧き上がらせた。
アップデートの内容は、いくつかのスキルの追加。PvP、つまり、プレイヤー対プレイヤーの解禁。さらに、職業のランクアップだ。職業のランクアップは、プレイヤーのレベルが三十五まで達すると行うことができるようになる。自分のスキルやこれまでの行動や所持しているスキルなどで、ランクアップする職業は変わるらしい。アップデート後、すぐにできるそうなので、プレイヤーたちはみな躍起になってレベル上げに励んでいる。
イベントのほうは詳細がまだ明かされておらず、掲示板ではいろいろな憶測が飛び交っているらしい。
俺とユリィのレベルは27。レベルをあと8上げればいい。ということで、少しぶりに二人でレベル上げをすることにした。したのはいいんだけど………。
「アカツキ様、年下の少女を自分色に染め上げるのはどうでしたか?」
「その悪意にまみれた表現はやめてくれ……。放って置いたのは悪かったって」
現在、ユリィさんがすねております。
無表情なのは変わりないが、どことなく不満そうな雰囲気を漂わせており、そして何より目を合わせてくれない。これは結構心に来ます…。レイカの特訓に集中しすぎてユリィのことをすっかり忘れていたのは事実なので、俺にできるのは謝ることだけだ。
ちなみに、レイカは無事、魔力操作ができるようになった。あのいろいろとマズい訓練方法が功をなしたようだ。オリジナル魔法を習得するにはいたってないが、錬金術は問題なく使えるようになった。今日はポーションの量産をするといっていた。今度、亜空工房にレイカを招待してみようかな。錬金術を一緒に試行錯誤するのも楽しいかもしれない。
と、そんなことを考えていると、隣から何やら突き刺すような視線を感じた。恐る恐るそちらを見てみると、そこには真冬のような冷たさを放つ瞳をしたユリィが……。
「……アカツキ様のばーか」
「なんで!? 罵倒なんで!? え、俺なんかしたか?」
「女心をこれっぽっちも理解していないアカツキ様に、特別授業です。女性と一緒にいるとき、その女性とどんな関係であれ、ほかの女の話を持ち出すのは論外です。肝に銘じておいて下さい」
「えっと、よくわからな……」
「わかりましたね?」
「はいっ! 了解いたしました!」
うん、有無を言わせぬとはこのことなんだろう。反論する気力が一瞬で失せた。黒鉄竜よりよっぽど恐ろしかったわ。
この後、俺の全力の謝罪と反省により、いつも通りのユリィに戻ってくれた。そして、もうユリィをおこらせるなんて愚行をするのはやめようと、心に誓う俺だった。
俺とユリィがレベル上げのために向かったのは、緑の森の奥、ゴブリンの集落だ。目的地はここというわけではなく、この先に行ってみようと思ったのだ。俺が足場にしていたこの斜面の向こうには、いったい何があるのだろうか……。
「さて、とりあえずここを上らないといけないな」
「そうですね。……私がアカツキ様を抱えて駆け上るというのはどうでしょうか?」
「……ちなみに、どんなふうに?」
「それはもちろんお姫様だ……」
「却下」
なんでユリィは俺をお姫様抱っこしたがるのだろうか? 男を抱えて楽しいことなんてないはずなのに。……というか、ユリィに簡単に抱えられる俺ってどうなんだろうね。
「まぁ、前と同じ手段でいいだろ。『地よ連なる壁となりて我が示しよりいでよ』【石壁】」
魔法を発動すると、斜面に石の段差が出来上がる。等間隔に一枚ずつ位置を指定するのはそれなりに大変だが、できないこともない。【石壁】の使い方としては間違いもいいところだろうけど。
てくてくと階段を上ること二十分。斜面が終わり、山道のようなところに出た。草木はほとんど生えておらず、岩と土ばかりである。振り返ってみると、緑の森と安らぎの草原の境目がよく見えた。結構高いところに出たみたいだ。
「ふむ、山のフィールドなのかな? また風魔法が活躍しそうだけど」
「アカツキ様、あちらに洞窟のようなものがあるのですが……」
「え、本当?」
ユリィが指さす方を見ると、確かにぽっかりと洞窟の入口があった。あからさまに何かありそうな感じだ。
「……入ってみる?」
「まぁ、見つけてしまった以上、そうするしかないでしょう。しかし、この洞窟暗いですよ? 光源になるようなものは持ってませんし……」
「あ、それは大丈夫だ。『光よ優しき灯となりて我が道を照らせ』【蛍光】。もう一つ、『火よ闇を払う灯火となりて従順せよ』【篝火】」
鍵言を唱え終えると、俺の周りに光の球体と浮遊する火の玉が表れた。二つは衛星のようにくるくると俺とユリィの周りをまわっている。
「これは……。アカツキ様、『光魔法』と『火魔法』のスキルを習得したのですか?」
「ああ。というか、『水魔法』と『闇魔法』もとった。これで全属性コンプリートだ」
「……スキル枠を半分以上魔法で埋めますか。相変わらず普通じゃないことをしますね、アカツキ様は」
「いや、全属性使いとかなんかかっこいいかなって思って」
「…………」
ユリィの呆れ切ったような視線が心にぐさぐさと刺さる。ま、まぁノリで行動したことは否定しないよ? でも、全属性魔法だよ? オリジナルで無限の組み合わせができるんだよ? それに、全属性を一斉に使うとかロマンじゃないか! ……わからない? うん、しってた。
気を取り直して、洞窟に足を踏み入れる。
「……っ」
外と中、山道と洞窟の境界線を越えた瞬間、漂う空気が一変したのが分かった。暗く重く、よどんだ空気が洞窟内には充満していた。ユリィもそれを感じ取ったのか、クロさんに仮装備ということでもらっている長剣を構えている。俺もいつでも魔法を使えるよう、魔力を動かしておく。光球と火球が照らす洞窟の奥は、まるで獲物を飲み込まんとする蛇の口内のようだった。
警戒を強めながら、洞窟内を歩いていく。静寂の中に、俺とユリィの足音だけが響く。壁に天井に反響して響くその音が、やけに不気味だった。
「……ここ、なんかやばい感じがする。うまく表現できないけど」
「……そうです、ね。警戒を怠らないようにしましょう」
ゆっくりと歩を進める。今にも何かが飛び出してきそうな雰囲気は、お化け屋敷によく似ている。そして、洞窟の入口の光が小さくなってきたときに、それは現れた。
「っ、来るぞ!」
カツン、カツンと反響する、俺ら以外の足音。足音がした方に向かって光球を飛ばすと、その光に照らされて、数体の人体骨格が姿を現した。理科室においてありそうなそれは、ボロボロの鎧と錆びた武器を持ち、動くはずのない顎骨をカタカタと揺らしていた。目玉のあるはずの場所には、青白い光が宿っており、より一層不気味さを演出していた。
アンデットモンスター、スケルトン。死んだ冒険者の骨に魔力が集まり、モンスター化した存在。
どう動いているのかわからない体を揺らしながら、スケルトンは俺らに向かって襲い掛かって来た。それぞれの武器を構えて、こちらに向かってくる。そのスピードは、思ったよりも速い。速いが……。
「驚くようなスピードじゃ、ない!」
ユリィが地面を踏みしめたのと同時に、火球を複数放つ。火の粉を散らしながら突き進むそれは、スケルトンに着弾すると、バンっ、と小さく爆ぜた。その衝撃でよろめいたスケルトンに、ユリィの長剣が振り下ろされる。鎖骨から腰骨までを真っ二つにされたスケルトンは、眼孔の光を消して粒子となった。その粒子が空気に解けるよりも早く、ユリィはもう一匹のスケルトンの頭蓋を剣の柄で砕いた。
俺もユリィに負けじと新しく取得した属性の魔法を中心に放っていく。スケルトンは耐久力はあまり高くないのか、数発魔法を叩き込めば倒れていった。
登場シーンこそ少しビビったとはいえ、驚くほど強いわけではない。俺とユリィは、全くの無傷で襲い掛かって来たスケルトンたちを撃退したのだった。
球技大会が雨でなくなりそうです。ふるなよ? 絶対ふるなよ!




