2-9 魔力操作プレイと怖いギルマス ……き、気持ちよかったのですわっ!
お久しぶりです。そして、申し訳ございませんでした。
テストも無事終了しましたので、更新ペースを戻していきたいと思います。
レイカとの師弟関係が始まってから、現実で一日。ゲーム内時間で四日がたった。そろそろゲーム開始から一週間がたつ。最近では安らぎの草原を超えて、緑の森にたどり着いたプレイヤーも少しだけではあるが、出てきているようだ。
俺とレイカが魔力操作の訓練を付けている間、ユリィは夜桜のメンバーと戦闘訓練のようなものをしているらしい。サーヤによると、ユリィ一人でサーヤ、ミーナ、シズカさん、クロさんを相手どり、それでも勝利しているらしい。さすがはユリィ。プレイヤースキルがチート級なだけはある。
「そういえば、緑の森にたどり着いたプレイヤ―の一部が、自分たちを攻略組などと名乗り、迷惑行為を働いているそうですわ。狩場を独占したり、他のプレイヤーを馬鹿にして反応を楽しんだりしているそうですわ」
「なんだそれ……。あれか? 馬鹿なのか?」
「バカなんでしょうね。ああ、最近では、ちょっと前に起きた、『謎クエスト事件』でクエストをクリアしたのは俺たちだ……。みたいなことを言いふらしているらしいですわ」
訓練の休憩中、俺の横で一息ついていたレイカが、そういって話しかけてきた。レイカはこれまでの訓練で魔力の動きをつかむところまで上達している。ただ、それを動かすのはまだ難しいみたいだ。
どこにでもそういう馬鹿はいるんだな……。と思いつつ、一つ気になった言葉びついて考える。
謎クエスト……って、もしかして俺とユリィでクリアしたあれか? 誰がクリアしたか、なんていう情報は明かされないし、俺だって言いふらすつもりはない。でも、ユリィと二人で手にした結果を横取りされるような真似は気に食わないな。そうはいっても、できることは特にないし……。ま、そいつらに出くわさないことを祈っておくか。
「さ、そろそろ訓練を再開するか?」
馬鹿な奴らのことを考えていても、気分が悪くなるだけだ。今はレイカの訓練に集中しよう。少し沈んだ空気を吹き飛ばすように、大きめの声でレイカに告げる。
「はい! よろしくお願いしますですわ!」
レイカも、気合の入った声で両手をぐっと握りしめるのだった。
「うーん、なかなかうまくいかないな……」
「うう……。面目ないですわー……」
気合を入れたのはいいが、レイカの訓練の進み具合は芳しくない。相変わらず、魔力を動かすことができないでいた。
魔力を動かすにしても、オリジナル魔法を放つにしても、大切なのはイメージだ。自分が望むことの過程と結果をどれだけイメージできるか。それが重要だ。ちなみに、俺が魔力を動かすときは、体中に魔力路……血管の魔力版みたいなものがあるとイメージしてやっている。そのイメージをレイカにも伝えてみたのだが、よくわからないといわれてしまった。イメージの仕方には、個人差があるのだろうか……。
うんうん唸りながら魔法を使って、魔力の動きを再確認しているレイカを見ながら解決策を考えていると、ふと、一つのことを思いついた。
…………うん。これなら、レイカにもっと魔力の動きを感じてもらえるかもしれない。試してみる価値はありそうだな。
「レイカ、ちょっといいか?」
「どうかしましたの? ……わ、わたくし、何か駄目なことでもしてしまいましたの……?」
「違う違う。レイカは、魔力の動きは感じられても、それを自分の意志で動かすのができないんだよな?」
「……はい、そうですわ。魔法の詠唱を終えた瞬間に、体の奥から何か熱いものが手のひらへと集まる感覚。それを感じ取ることは、できますわ」
「うん、それでなんだけど……。レイカの魔力が、もっと違う動きをしたら、魔力をつかむきっかけになるんじゃないかと思ってな」
「それは……。そうですわね。スキルの魔法で動く魔力でできないなら、別の動きをさせてみる。ということですわね?」
「その通り。レイカは頭の回転が速いな」
「これでも、学校ではトップの成績ですの。それより、どうやってわたくしの魔力を動かすんですの?」
「ああ、方法だが……」
俺が考えた方法を説明すると、レイカは、驚愕と呆れの混ざった表情を浮かべた。サーヤにも、同じような顔されたなぁ……。
「お兄様……。さらっと言いますけど、それってたぶんとても難しいことですわよ?」
「ま、それがレイカの助けになるってなら、いいじゃないか。それで、試してみるか?」
「……はい。よろしくお願いしますですわ、お兄様」
レイカの真剣な表情を見て、俺も気持ちが引き締まってくる。
さぁ、ちょっとは師匠らしいことをするとしますか。
どうしてこうなった。
「う……ひゃっ……あ……ダメ…ですわぁ……。……ンンッ!」
「……だ、大丈夫か? どこか痛かったりするのか?」
「い、いえ……ひゃんっ……痛くは……ん……ない……あっ……です……の…。お兄様の……魔力が……入ってきて…………ひゃぁああああんっ!」
レイカは、顔を真っ赤に染め、涙を浮かべながら、何かに耐えるようにきつく瞼を閉じている。時折ぴくぴくと体を痙攣させ、口から、熱い吐息とどこか艶めかしい声をはきだしている。
もう一度言おう。どうしてこうなった。
俺が考え付いた方法は、俺の魔力をレイカに流し、その魔力とレイカの魔力をつなげ、そして動かすというもの。まぁ、魔力操作の応用の一つである。
レイカの両手を握り、そこから魔力を流し込む。流し込んだ魔力を操って、レイカの中の魔力を探り始める。ここまではよかったのだ。
だが、そこからが問題だった。
最初のほうは、俺が魔力を動かすたびに、ちょっとくすぐったそうにしているだけだったのだが、それがだんだんと妙な反応に変わっていき、最終的には、こんな感じになってしまっているのだ。
苦しそうだったので、すぐさまやめようとしたのだが、『こ、この程度の試練を乗り越えられないなど、お兄様の弟子を名乗る資格がありませんわーっ!』とのこと。やめるにやめられなくなってしまった。
「あ……や……ひゃぁ………。お、おにいさまぁ……だんだん…まりょくぅ……わかって………きました…わぁ……」
「う、うん。それより本当に大丈夫か? つらいなら無理することないんだぞ?」
「ひゃい……ひょうふ……れすわ……」
「すでにろれつが回ってない!? 中止中止!」
これ以上はさすがに危ないと判断し、魔力を動かすのをやめる。魔力を止めた途端、レイカはぷつりと糸が切れたように、こちらに倒れこんできた。息を荒上げながら、瞳を伏せているレイカの頭をゆっくりと撫でる。レイカが一番落ち着くのが、これをした時だからだ。
「まったく……無茶しすぎだ。初めてだったんだから、最後までやらなくてもよかったんだぞ?」
「はぁはぁ……。すみませんですわ……。でも、お兄様がわたくしのためにしてくださったことですもの。……途中でやめたくなかったのです」
「それで、レイカが苦しくなったら、元も子もないだろ? ちゃんと反省しなさい」
「う……。わかりましたわ」
しばらくして落ち着いたレイカは、俺の腕の中にいることに気が付くと、またもや顔を真っ赤にして、おずおずと俺から離れた。小動物のようなかわいらしい反応に、思わず笑みがこぼれた。
「それで……。魔力を動かされるのって、どんな感覚だったんだ? レイカの様子を見ると、かなり辛そうだったと思うんだが……」
苦痛を伴うようなことをレイカにしてしまったのかと思うと、罪悪感と自責が津波のように襲い掛かってくる。可愛い弟子に、俺はなんてことを……。
「えっと……。わたくしの魔力を、お兄様が動かしたときの感覚ですわね……。……………………かったですの」
「………何だって?」
最後のほうがぼそぼそとしていて、聞き取れなかった。聞き返すと、レイカはなぜか恥ずかしそうに視線をそらし、もじもじし始め……。
「だから……その……。……き、気持ちよかったのですわっ!」
…………………はい?
「えっと、ごめん。どういうこと?」
よくわからなかったので、説明を求めると、ただでさえ真っ赤な顔をさらに赤くして、レイカは早口にまくしたてる。
「で、ですから! お兄様に魔力を流し込まれて、わたくしの体内をそれが嘗め回す感触。わたくしの奥の奥まできて、そこをかき回される感触。体中を駆け巡る、お兄様にリードされている感覚……。今まで感じたことのないような快楽が、わたくしを襲って……」
「うん、いったんストップ。それ以上は危険だ」
途中からなぜか陶然とした表情を浮かべていたレイカを押しとどめる。それは年頃の女の子がしていい顔じゃない……。
……どうやら、魔力を他人に動かされるというのは、『気持ちいい』ことらしい。せっかく思いついた方法だけど、これは封印だな。いろいろとアウトだ。
「確かにアウトだなぁ、アカツキよぉ」
……………………………………あ。
ギギギ……、と油の切れた機械のような動きで後ろを向く。そこには、いつの間にかいたシズカさんが立ってた。シズカさんの、妙ににこやかな表情に、背筋が震えあがる。
「どんな特訓をしてんのかと思いきや、奥の奥までかき回すだの快楽だの、ずいぶんと愉快な言葉が聞こえてきてんじゃねぇか。なぁ」
「は、ははははは………」
うん、さっきのレイカの発言。普通にダメな発言だったよね。しかも聞かれたのがシズカさんってのが致命的だ。さっきからシズカさんが発している押しつぶされそうな殺気。根源的な恐怖を呼び起こすそれを受けて、体が無意識に震えているのがわかる。
だが……。今回の件。俺に非があるのかと言われれば、ない。誠心誠意説明すればわかってもらえるはずだ。説明させてくれれば、だけど……。
レイカは、シズカさんがなぜ怒っているのかわかっていないのか、おろおろとしている。落ち着けば弁明に加わってくれることを信じて……。
「さてと、アカツキ……? 辞世の句は聞いてやるぜ?」
「ちゃんと説明しますので弁解させてくださいお願いします」
とりあえず、土下座。全身全霊で誠意を込めた土下座に流れるような動作で移行する。いきなり土下座なんてことをした俺に、レイカが「ふぇ?」と不思議そうな声を上げた。
「…………………………く、くくくく、あーはっはっはっはっは! いやいや、まさか瞬時に土下座するとは思わなかったぜ! アカツキ、お前さんやっぱり最高に面白いわ」
「……………シズカさん。もしかしなくても最初から見てただろ?」
「ん? まぁ、その通りだな。かかっ、だまして悪かったな。なんか面白そうなことになってたんで、ついからかいたくなっちまったんだ」
「まったく………。からかいで殺気を放つのはよしてくれないか? 本気で殺されるかと思ったぞ……」
「……へぇ」
シズカさんの雰囲気が、変貌する。ふざけているような雰囲気ではない。さっきの押しつぶされるような雰囲気でもない。たとえるなら、冷たき刃を首に添えられているような……そんな雰囲気が、シズカさんから発せられた。
しかし、それも一瞬のことで、いつもの飄々とした雰囲気に戻る。なんだったんだ…?
「と、ところで、ギルマスは何をしに来たんですの?」
話に入ってこれていなかったレイカちゃんが、シズカさんにそう問いかけた。そういえばそうだ。俺をだましに来たわけじゃないだろうし………。
「ああ、アカツキの反応が面白すぎて、本題を忘れてたわ」
「え、何それ俺が悪いの?」
「それで、お前たちを呼びに来た理由なんだが………」
俺の文句を完全スルーしたシズカさんは、にやりと悪戯っぽい顔を浮かべた後、俺らにも見えるように可視化したメニュー画面を開いた。
そこに書かれていたのは、驚きべき内容で―――――。
「一週間記念イベントとアップデートのお知らせ……?」
次回は久しぶりにユリィと二人です。




