2-8 新魔法とレイカルート 我が魔力を糧に我の前に顕現せよ
なんかお久しぶりです。虚言壁がある作者は申し訳なさで死にそうになっております。誰だ、二日に一回更新するとか言ったやつ……。ぶっ殺してやる!
「うう……。難しいですわ……」
レイカが、うんうん唸りながら、モンスターに向かって魔法を放っている。火の玉をぶつけられた兎、スモールラビットは、その一撃でHPを散らし、粒子に変換された。
べつに、モンスターを討伐するのが目的というわけではない。レイカには、魔力を操作するための第一歩として、魔力の動きを感じてもらおうとしているのだ。
「うーん、俺の場合は最初に魔法を使ったときにできたからな……。魔力の動き自体がよくわからいっていのは予想外だった」
「お兄様はスペックがおかしいとサーヤお姉さまが言っていましたけど……。こういうことだったのですか」
「サーヤのやつ、そんなことを……。まぁいい。それよりもレイカ。とりあえず、魔法を使ったときに、自分の中から何かが抜け出していく感覚。とりあえずそれを感じるところからだな。魔力操作ができると、[錬金術]の使用だけじゃなくて、魔法の威力を上げたり、範囲を増やしたり……。あと、魔法を作ることもできる」
「…………お、お兄様。それは、冗談とかではありませんわよね?」
「ここで冗談を言う必要なんかないから、当然だろ? けどまぁ、見せた方がわかりやすいか。百聞は一見に如かずって言うし」
レイカが魔力の動きを感じることができないのは、スキルを使った魔法の発動……言い換えれば、詠唱だけで発動するオート魔法になれているからだろう。魔力の操作は完全なマニュアル。いままでずっと自動でやっていたことを、いきなり手動でやれというのも酷な話だろう。
さて、レイカに魔法を見せるわけだが……。【翠砲】でもいいのだが、ここはひとつ、新しい魔法を使ってみることにしよう。
魔法は、五つの工程を踏んで行われる。概念選択、魔力集中、鍵言詠唱、概念現象化、現界の五工程だ。
概念選択は、発動する魔法に含む概念を選ぶ、魔法の設計図の製作ともいえる行為だ。魔法というのは、主に属性で構成されている。属性というのは、火水地風闇光の六つのことだけではない。例えば、風魔法第一階梯魔法、【風刃】。この魔法は「風属性の魔力に斬撃属性を付与し風の刃という現象とした形でそれを照準した対象にぶつける」という概念の魔法だ。つまりこの魔法は、風属性と斬撃属性をもっていることになる。さらに、「風の刃という現象にする」という概念も含まれている。
この部分は魔法の威力や与えるダメージには関係しない。「ならこの部分っていらないんじゃないの?」と、普通なら考えるだろう。しかし、「現象にする」の一工程を挟まずに魔法を発動しようとすると……MPが一瞬で消費され、魔法が発動しない。失敗したということだ。
魔法の発動には、明確なイメージというものが不可欠だ。この「現象にする」という概念は、そのイメージをより強固なものにするためのものだろう。「風の魔力に斬撃属性を付与し敵にぶつける」とかどうやってイメージすればいいのか、全くわからない。斬撃と言えば刃、剣。という風にした方がイメージしやすいのだろう。
魔力集中は、体の中から魔法の発動に必要なだけの魔力を集めること。スキルで魔法を発動すると、これは自動で行ってくれる。
鍵言詠唱。これは発動したい魔法を示す言葉で、イメージの補強、そして魔法の発動を世界に向かって宣言する。これをイメージだけでやってのけるのが無詠唱というやつなのだろう。
概念現象化と現界は、三工程が終わると同時に行われる。この二工程で一時中断するのが[遅延]のスキル。
[叡智]により読み取った情報を俺なりにまとめるとこうなる。魔法というのは「概念を想像し魔力により現象にする」という技術なのだろう。もっとも、まだまだ奥が深そうではあるが。
さてと、振出しに戻るようなのだが、どんな魔法を使おうか? やっぱり、成り行きとはいえ弟子に見せるもの。生半可なものでは許されないし、俺が許さない。
…………よし、じゃあ、これにしようか。
「行くぞ、レイカ。よく見ておけよ」
「わ、わかりました……」
概念の選択は完了している。魔力の集中も終わった。さぁ、己の本能の赴くまま、鍵言を歌い上げろ。
「『吹き荒れる風は渦を巻き、堅き大地を削り取る。鋭利なる岩石の力よ、疾くかける風の力と混ざり合いて、削り喰らう災いとなれ。我が魔力を糧として、我の前に顕現せよ』」
風の魔力が高まるとともに、あたりに風が吹き荒れていく。その風は俺が示した場所に吸い込まれるように集まると、その密度を増していく。
小規模な竜巻のようになった風の中に、地の魔力を流し込む。風の流れの中に生成されるのは、岩石の槍。鋭くとがった岩が、竜巻に巻き込まれるようにして、無数に舞い散る。
風と地の複合魔法。竜巻で切り裂き、高速で飛び回る岩石の槍が貫くという、なかなかにえげつない魔法の最後の鍵言を、解き放つ。
「【塵獄】」
敵を閉じ込め、身動き取れない状態でフルボッコにする魔法。思い付きにしてはよくできていると思う。まぁ、二属性の魔力を使っているので、相性面とかはどうなっているのかや、鍵言の改良は可能かなど、まだまだ考える余地のありまくる魔法だが。
巻き上がる風が収まり、一息ついてから、
「…………ふえ? お、お兄様………これはいったい、何魔法なのですか?」
「これは、風と地の複合魔法ってところかな。まだ魔力を多く使って無理やり発動させてる感じがあるけど、そこそこの完成度だとは思わないか?」
「こ、これでそこそこですの!? ………わたくしがお兄様のレベルに達するのは、まだまだ時間がかかりそうですわ……」
「とりあえず、魔力の操作をできるようにならないと、話にならないからな。大丈夫、できるまでしっかりと教えてあげるから」
少し、不安そうな顔をしていたレイカの頭を、サーヤにやるようになでてやる。
「あ……」
レイカのさらさらな銀色の髪に指を通すと、レイカは、驚いたように、そして少し悲しそうに声を上げた。
「……お兄様。お兄様は、できないわたくしを叱らないのですか?」
「うん? いや、別に叱りはしないよ。初めてのことができないのは当たり前。それをできるようになろうとしないなら別だけど、レイカはちゃんと頑張ってるだろ? それでできないからって、叱ったりはしない」
そういうと、レイカは、不安そうな表情を浮かべた顔を、笑顔に変えた。その笑顔は、年相応に無邪気で、今までどこか堅かった雰囲気も和らいでいる。たぶんだけど、レイカは師弟という関係に、緊張していただろう。それに、男と二人っきりというのも、年頃の女の子には結構大変なことだと思うし。
「悪いな、レイカ」
「どうして、お兄様が謝るのですか?」
「いや、こうやって男と二人っきりって状況に緊張してるんじゃないかと思ってな。まぁ、安心してくれ。シズカさんと約束した通り、レイカに手を出したりしたりはしないから」
「………それは、わたくしに女としての魅力がないということですの?」
あっれ? なぜに不機嫌に……。いや、サーヤだって子ども扱いすると怒ったりするか。レイカも、ちっちゃいとはいえ立派なレディということか。それは失礼なことをしてしまったな。なにかフォローを……。
「いや、俺はレイカのこと、ちゃんと見てるよ。可愛くっていい子な、素敵な女の子だ」
「ひゃ、ひゃう……」
「レイカみたいな素敵な娘を弟子にしてるなんて、周りに知られたら、俺が嫉妬で殺されてしまうかもな」
そう、冗談めかしたふうに言うと、レイカの表情に笑顔が戻って来た。やっぱり、嬉しそうに笑う女の子の姿は、いつみても癒される。
それでも、恥ずかしかったのか、頬を赤く染めているレイカは、うつむき加減にこちらを恨めしそうに見つめてくる。
「うう……サーヤお姉さまから、お兄様の話をいろいろと聞いていましたが……。でも……。ふふっ、話で聞いていた以上に、お兄様は優しい人ですわ」
「そうか? 普通だと思うんだけどな。それに、俺は誰にだって優しくするわけじゃないぞ? 今回は、レイカだから優しくしてるんだからさ」
「……そ、そういうとこをさらっと言ってしまうのは、お兄様の悪いところですわ………」
あれ? なんかいきなり怒られてしまった。なにがいけなかったのだろうか……。まぁ、女の子の言うことが理解できないのなんて、今に始まったことじゃないからな。女心は難しいってことだろ。
頭をなでるのもこれくらいにして…………いや、そんな悲しそうな顔をされても……。
次の更新は……がんばって二日後にします。死ぬ気でがんばります。
テストは順調ですよー。




