2-7 シズカのたくらみと弟子入り よ、よろしくお願いしますですわ!
数学の問題に苦戦。題名は小学校でやったことなのに……。
「ねぇねぇ! どうだった?」
「とりあえず、すごかったよ。なんて言うのかな……。サーヤたち個人もすごかったんだけど、夜桜っていう一つの集合体があるって感じかな? うまく言えないけど、そんな感じ」
「見事な連携でした。これなら、草原のボスとやらも倒せるんじゃないですか?」
「えへへ、そうでしょ! わたしたちのギルドは最強だよ!」
嬉しそうに駆け寄ってくるサーヤの頭をなでなで。戦闘を見ていて思ったことを正直に話す。
いやぁ、いいものを見せてもらいました。俺とユリィの戦闘は人数の関係から、どうしても力押しのような感じになってしまっている。それでどうにかなっているのは、ユリィのプレイヤースキルの高さ故。俺ももっと活躍せねば……。
「くくくっ、うれしいこと言ってくれるじゃねぇか。でもまぁ、サイクロプスの野郎はちと厳しいかね。アイツはシンプルに強い。もうちとレベルを上げてからじゃねぇとな」
「……装備も、もう少し強化したい」
「うおっ、結構HP減ってる!?」
「まったく……しっかりしてください、ミーナ姉さま。ポーションだって、あまり数があるわけではないのですから」
サーヤに遅れて、夜桜の他の面々も歩み寄ってきた。戦闘後だというのに、疲れた様子もほとんどない。あのくらいなら楽勝だということだろう。
レイカの言葉で、サーヤにポーションを上げるという約束をしていたことを思い出す。ユリィの剣を調達してもらう代わりということだったのだが……。
「クロさんクロさん」
「……なんだい、アカツキ君」
「うん、別にネタを振ったわけじゃないから」
「……冗談。それで、なに?」
「クロさんにお願いがあってな。俺たちに装備を作ってくれないか?」
クロさんに頼みたいのは、ユリィの剣と、俺の防具だ。ユリィの剣は、特にいいものにしてもらいたいと思っている。うちの主力なのだから当たり前だ。
「もちろん、必要なものやクロさんたちに必要なものがあれば、できる限りは用意するけど……どうだ?」
「……私は別に構わない。アカツキのお願いを断る理由もないし」
「そうか、ありがとう。で、さっそく依頼なんだが、俺は防具一式。ユリィは剣を二振りお願いしたい。対価は……ポーションと緑の森の素材でどうだ?」
「……ポーション? アカツキは、調薬スキルをとってるの?」
「いや、俺は[錬金術]だな。…………あ」
俺が錬金術といった瞬間、ユリィとサーヤを除く全員の視線がこちらに向いた。サーヤが呆れたようにため息をついているのが視界の端に映る。そういえば、秘密にしておいた方がいいって言われてたな……。
「お、お兄様は[錬金術]のスキルを扱えているのですか!?」
特に食いつきが激しかったのはレイカ。サーヤが言っていた「錬金術を使っていたメンバー」というのは、レイカのことなのだろう。目をクワっと見開いて詰め寄ってくるレイカを落ち着かせ、質問に答える。
「えーっと。うん、まぁ、使えるぞ?」
「錬金術って、レイカがずっと使えない使えないって言ってたやつだよね? お兄さん、すごーい」
「ほう……。そうだ、アカツキ。お前さん、うちのクロに装備を作ってほしいって言ってたな。それについちゃあ文句はねぇ。報酬もしっかりくれるってんだから、文句のつけようがねぇな。だが、もう一つだけ条件を付けさせてもらおうか」
「……ギルマス。私は構わないって言ってる」
「くくくっ、まぁ、そう早まんなって。ちょいと耳を貸してくれ」
「……?」
無邪気に賞賛を送ってくれるミーナ。そして、条件を付けくわえるといっている割には、目に愉快そうな色が浮かんでいるシズカさん。そんなシズカさんに不満そうに告げたクロさんは、シズカさんに何かをささやかれて、同じように愉快そうな笑みを浮かべた。その光景に、何やら嫌な予感が頭をよぎる。
いったい何を要求されるのだろうか? まあ、シズカさんがひどいことを言ったりするとは思えないけど……。うん、ひどいことは、されないな。でも、あの愉快そうな目を見ていると……。
俺がそうやって、内心戦々恐々としていると、シズカさんはうずうずと何かを聞きたそうにしていたレイカの肩をポンッとたたいた。
「アカツキ、お前さんには、うちのレイカを弟子にしてもらう」
「「………………はい?」」
俺とレイカの疑問の声が重なる。ほかのみんなもシズカさんの言ったことに驚きの表情を浮かべていた。クロさんだけは、口元に小さく笑みを浮かべて、驚く俺たちを面白そうに見ている。
「ギルマス? レイカちゃんをお兄ちゃんの弟子にするって、どういうこと?」
「言葉通りの意味だぜ? レイカは前々から[錬金術]を使いたいって言ってただろ? 今まで誰も使えなかった[錬金術]を、だ。ンでもって、アカツキはその[錬金術]を使える。なら、アカツキに[錬金術]を教えてもらえばいいだろ? だから、弟子だ」
「……さすがギルマス。いいことを言う。レイカが[錬金術]を使えるようになれば、ポーションとかの心配もしなくてよくなる。それに、私も楽」
「くくくっ、クロのその正直さ、あたしは好きだぜ? で、どうだい、アカツキ」
シズカさんの視線が俺に向けられる。その目は獲物を見つめる肉食獣のように鋭い。
たぶんではあるが、シズカさんは、俺を試しているのではないだろうか? 夜桜のメンバーは、全員が全員、美少女。あるいは美女と呼ぶにふさわしい人ばかり。その分、トラブルに巻き込まれる可能性も高くなるのだろう。
そんなところに、俺のような男が入り込んで、何か企んでいないか。シズカさんは、それを見極めようとしているのだと思う。ギルドマスターとして、ギルドメンバーの安全を真剣に考えているのだろう。
「わかった。レイカに[錬金術]を教えることを約束する。もちろん、レイカに何かよからぬことをしたりしないことを、誓う。それに、弟子にする以上、レイカが危ないことに巻き込まれそうになったら、全力で守ることも約束しよう。それでいいか?」
「……くくっ、サーヤがべた褒めするだけはある。悪かったな、試すような真似をしちまってよ」
「別に、怒ったりしないよ。シズカさんがサーヤたちのことを大切に思ってるんだなってことは、よくわかったから」
俺がそう言うと、シズカさんが少し面食らったかのような表情を浮かべた。
「あー……。気づかれてたのか。これでも内心を隠すのは結構得意なんだがな」
「まぁ、ちょっと露骨だったのもあるけど……。シズカさんはいい人って思ってみてると、自然とわかったよ」
俺の言葉に、恥ずかしそうに頬をかくシズカさん。そこには、先ほどまでの獰猛な気配は鳴りを潜め、優しいお姉さんとしてのシズカさんだけが残っていた。
「さてと、なんか成り行きでこうなった感はあるが……」
「よ、よろしくお願いしますですわ!」
うん、流されてしまったような気もしないでもないが、真剣極まりないといった様子で頭を下げているレイカを見ると、俺も頑張って教えたいと思えた。
ちなみに、今この場にいるのは俺とレイカだけであり、ほかのみんなは少し離れたところで、ユリィを相手に模擬戦をしている。ユリィはクロさんから間に合わせの剣を貸してもらい、四対一の人数差で一歩も引かずに戦っていた。
「じゃあ、[錬金術]のスキルを教えるんだが……。このスキルを扱うには、どうしても必要な技能がある」
「必要な技能……? そ、それはいったい何なんですの?」
「魔力の操作。それが、[錬金術]の実行に必要な技能だ。とりあえず、これができるようになろう」
「魔力の、操作……。わかりましたわ、頑張りますわ!」
こうして、俺とレイカの師弟関係は開始されたのだった。
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