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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
魔導と初イベント
26/62

バレンタイン閑話 東雲咲樹の愉快な友人とバレンタイン前の語らい

今日は、聖ヴァレンティヌスが八つ裂きにされた記念日、バレンタインです。お菓子会社の策略に踊らされる滑稽なリア充どもを高笑いしながら爆破しましょう。合言葉は、「エクスプロージョン!」

 これは、アカツキこと東雲咲樹が、神話世界オンラインの世界に飛び込むよりも前。咲樹がまだ中学生二年生の二月の話だ。


 そのころの咲樹は、まだ前髪で顔を隠しておらず、その中性的をぶっちぎって少女的な美貌を、晒していた。当時通っていた中学校でも、「美少女過ぎる男子生徒」という本人からすれば不本意極まりないレッテルで有名だった。


 外見上は美少女な咲樹も、中身は普通の……それも、中学二年生という思春期真っ只中の男子である。当然のようにもうすぐ近づいてくる一大イベント……二月十四日のバレンタインのことは、気にかかっていた。ただ、咲樹自身はそれほど関心はなく、周りが騒いでいるを聞いているだけなのだが。


 容姿の問題で友人の数は少なかったが、小学校から付き合いのある友人や、中学に入ってからでも、咲樹の容姿を知っていても、大して気にすることのない者などとの友好があった咲樹は、バレンタインを来週に控えたある日、その友人たちとバレンタイン当日のことについて語り合っていた。


「さて、諸君。今年もやって来たな」

「ああ……。忌々しい地獄の行事が近づいて来たぜ……」

「ふっ、製菓会社の陰謀に踊らされる哀れな子羊どもが狂気乱舞する日はもうすぐか……」

「……お前らは、バレンタインを一体何だと思っているんだ?」


 昼休み、学校の空き教室。使われない机が高く積まれたその部屋の中央に、四人の男子が集まっていた。そのうちの一人―――咲樹は、あきれたような表情を浮かべながら、ほかの三人に問いかけた。


 咲樹の問いに答えたのは、最初に口を開いた、眼鏡をかけた真面目そうな男子。学生服もぴっちりと着こなされており、模範生という言葉がよく似合う。しかし、その口元に浮かべられているのは邪気に染まり切った笑み。眼鏡の男子―――吉田正人よしだまさとは眼鏡を人差し指でくいっとやり、高らかに宣言する。


「愚問だな、咲樹よ。バレンタインは………………リア充が幸福の絶頂にうつつを抜かしている隙をついて、そいつらを血祭に上げる祭典だ。リア充死すべし、慈悲はない」


 正人は真面目そうな外見をしているが、口を開けばネタが飛び出してくるような重度のオタク。そして、街中で仲良さげにあるいている男女を見ると、思わず呪詛を吐いてしまうという極度のカップル嫌いである。


「正人の言う通りだぜ。リア充どものバカ騒ぎの声が悲鳴と絶叫に変わるのが楽しみで何ねぇなぁ……」


 正人の後に続いて発言したのは、着崩した制服に、茶髪。胸元で揺れるネックレスという正人とは対照的な男子。彼はなぜかニヒルな笑みを浮かべ、左手を「やれやれだぜ」とでも言いたげに頭に当てている。


 この一見すると不良にしか見えない男子は、清水京谷きよみずきょうや。恰好は完全に不良だが、茶髪は地毛。制服を着崩しているのは極度の締め付け恐怖症だから。ネックレスは大好きだったおばあちゃんの形見という、不良どころか普通にいい子なのだ。成績もよければ先生からの受けもよいが、いかんせん見た目が不良であるため、他の生徒からは怖がられているという、典型的な見た目で損をするタイプの男だ。


 咲樹とは、見た目に問題を抱えるもの同盟という、よくわからないものを結成している。同じ悩みを持つもの同士、仲がいいのだ。


「ふっ、たかが甘いだけの黒い板に一喜一憂するのは愚民のすること。我はそのような軟弱なイベントなど、興味のかけらもないな……。だが、そうやって騒ぐ、哀れ極まりない愚民の様子を、嘲笑とともに眺めるのも、また一興というものだな、うん」


 開いた右手で顔の半分を隠しながら、やたらと仰々しいしゃべり方をするのは、整った顔立ちをした少年。咲樹とは違い、イケメンという言葉がよく似合う。だが、左目を隠す眼帯や、顔を隠している右手に巻いた包帯が、とても残念な感じを醸し出している。


 この残念なイケメンは、自分のことをイグニース・メギド・ムスペルヘイムと呼ぶ。俗にいう厨二の病にかかってしまっているのだ。本名は赤坂佑介あかさかゆうすけ。佑介の真名(笑)に炎関連の言葉が並びまくっているのは、彼の名前に『赤』の文字が含まれているからだろうか?


「リア充とは、リアルの生活が充実している者に与えられる称号のはず……。それにも関わらず、世間では恋人がいるかどうかで判断される。まったく………恋人がいない人間全員が充実してない生活を送っているとでも言いたいのか!」

「そうだなぁ。人生に潤いを与えるのが恋人だけとは限らねぇってのに……。それが理解できねぇダメ人間どもが、明日の祭りで騒ぐんだろうよ。大体、チョコが欲しいなら自分で買えばいいじゃねぇか。なんで女からわざわざもらわなきゃいけねぇんだ? あと、バレンタインを利用して告白する奴ら。はっ、それはこういうことでもないと一歩踏み出せない臆病者のやることだ」

「我はバレンタインなどはどうでもいいのだが………。愚民がそれで幸福になることは我慢ならん。愚民は愚民らしく、常に苦しみに喘いでいればいいのだ。やつらには、うめき声がよく似合う。……クックック」


 口々にバレンタインを批判する言葉を吐く三人を見て、咲樹はため息交じりに問いかける。


「…………要するに、幸せそうなカップルが許せないってことか?」

「「「そうともいう」」」


 声をそろえて答える三人に、あきれたような視線を送る。


「そんなに他人の幸福を呪いたいのか……。藁人形でも作ったらどうだ?」

「いや、そうじゃない。俺たちが許せないのは、幸せそうにしている場面を見せつけられること。公共の場でいちゃつくリア充度もめ……っ! 目に余るとはまさにあの事」

「いや、じゃあ視界に入れないようにすればいいんじゃ……」

「おいおい咲樹。視界に入れなくても、リア充の醸し出すあの甘ったるい空気を吸っただけで、吐き気がこみあげてくるんだぜ?」

「……大変だな、お前ら」


 やれやれ、わかってないなぁ。とでも言いたげに肩をすくめる正人と京谷にかわいそうなものを見る目を向ける咲樹。そんな咲樹に、イグニース……佑介が、訝しげに尋ねた。


「【混沌の導き手(カオス・イヴォーカー)】咲樹よ……。汝は愛憎の甘味(チョコレート)はいらんのか? そもそも、前々から気になってはいたが、汝は異性への関心が薄い。……よもや、同性愛者ではないだろうな」


 おかしな名前で咲樹を呼んだ佑介の言葉に、正人と京谷が咲樹から遠ざかるようにゆっくりと移動した。それを見た咲樹は、据わった瞳で三人を見渡すと、怒気を含んだ声を浴びせた。


「誰がホモだ。俺はいたって普通のノーマルだ。あんまりふざけたこと言ってると………〆るぞ?」

「「「すみません」」」


 ぼそりとつぶやかれた最後の言葉に、三人は深々と頭を下げた。あまりの変わり身の早さに、あきれ果てた咲樹は、ため息を一つ吐く。


「まぁ、バレンタインに興味がないのは事実だよ。そもそも、俺の外見で恋愛とか無理だろ? 今までだって、義理ならもらったことあるけど、本命なんて一つもなかったし。それに、俺は沙綾からもらえるからな。それで十分だよ」

「ああ、そういえば咲樹はシスコンだったな」

「可愛い妹ちゃんがいるからなぁ。シスコンの咲樹にはほかの女なんて眼中にもないってか?」

「さすがだな」

「……バカにしてるだろ、お前ら。……で? そういうお前らは、バレンタインを散々こき下ろしてるんだし、チョコとかほしくないんだよな? 来週のバレンタイン、もしかしたらチョコもらえるかも? とか考えてないよな」


「「「………………」」」


 咲樹の言葉に無言で顔をそらす三人。確かにバレンタインなんてなくなればいいと思っている。リア充にC4を括り付けたいと思っている。チョコなんていらない。そんな風に豪語していても、それは負け犬の遠吠えでしかない。


 実際は、チョコ欲しい。超欲しい。それが、三人の心情だった。たぶん、バレンタイン当日、三人は下駄箱や机の中を、祈りながら確認するだろう。


「「「先生……。チョコが………欲しいです」」」

「あきらめたらそこで試合終了だぞ。クラスの女子に頼めば、義理くらいならもらえるんじゃないか?」


 咲樹がそう言ったところで、昼休み終了五分前の予令がなった。空き教室から四人の教室まではそこそこ距離があるので、急がないと遅れてしまう。


「ほら、もう昼休みも終わるし、さっさと教室戻るぞ」


 そういって空き教室から出ていく咲樹から少し遅れて、三人も空き教室から退出する。


「なぁ……。咲樹は自分に恋愛は無理だ。みてぇなことを言うだろ? ……でもオレ、咲樹のことを好きだって女子、何人か知ってんだけど。それも、基本的に人気の高い女子ばかりだぜ?」

「あいつ自身、あまり異性を近づけようとしないからな……。気づかないのだろう。女子の方も、咲樹にはあまり近づかないからな。うらやましいといえばうらやましいが……。相手の女子が哀れだ」

「咲樹は有象無象の女子では太刀打ちできないような美少女だからな。本人に言ったら殴られるが」

「……まあ、こんな風に嘆いていても、俺たちがチョコをもらえるわけじゃないんだがな……」

「「「はぁ……」」」


 廊下に、むなしい男三人のため息が響き渡った。


 この後、バレンタインまでの間、クラスの女子全員に「義理でもいいんでチョコをください」と言いながら頭を下げて回り、女子たちからドン引きされていた三人の姿を、咲樹は生暖かい目で、遠巻きに見ているのだった。彼らがチョコをもらえたのかどうかは、神のみぞ知る。


 ただ、一番チョコをもらえたのは、咲樹だった、とだけ言っておこう。

この三人は出てくると思います。たぶんですが……。



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