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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
22/62

閑話 サーヤとお兄ちゃん これが、私の最愛のお兄ちゃんです

閑話です。サーヤ視点

「はぁ……。お兄ちゃんったら、また変なことに巻き込まれて……。うう、せっかく一緒に遊べると思ったのにぃ」


 わたし―――サーヤは、涙目でそうつぶやきます。


 いままで、わたしの最愛の人にして、義理の兄……え? 普通は逆? いえいえ、これでいいんですよ。わたしはお兄ちゃんが大好きで、お兄ちゃんもわたしのことを好きですから。相思相愛というやつです。


 まぁ、お兄ちゃんは普通に兄妹として、でしょうけどね。ふーん、いいですよ。いつかわたしの魅力で、お兄ちゃんを骨抜きにするんですから。


 お兄ちゃんを恋愛対象として見るのはおかしいって、よく言われますけど。それは、実兄の時の話。「実妹ならアウトでも、義妹ならセーフ」なんです。まったく、偉い人にはそれがわからないんです。……話がずれましたね、そのお兄ちゃんとチャットをしていました。


 わたしの兄、東雲咲樹お兄ちゃんは、この春から遠くの高校に通うということで、一人暮らしをしています。いろいろとハイスペックなお兄ちゃんのことなので心配していませんが、もう四か月近くもお兄ちゃんと直接あっていないのです。そろそろお兄ちゃん成分が足りなくなってきました。……これ以上お兄ちゃん離れを我慢できるか、わたしのほうが少々心配です。


 お兄ちゃんが家を出ていくとき、わたしはお兄ちゃんと別々に暮らすことが悲しくて、寂しくて、ついつい大泣きして、お兄ちゃんを困らせてしまいました。……い、今ではちゃんと我慢できてますよ? 電話でお話はできますし、メールのやり取りもできますから。今では、このゲーム、神話世界オンラインで仮想世界とはいえ、直接会うこともできます。


 ……まぁ、お兄ちゃんが家を出た理由は、高校だけじゃないことを、わたしは知っていますし。それを考えれば、むしろ、家を出るという選択は、お兄ちゃんにとって最良と言ってもいい選択なのかもしれません。あの家に、お兄ちゃんの居場所は……。いえ、今はそんな暗い話をしている時ではありませんね。お兄ちゃんのことでも考えて気持ちを明るくしましょう。


「それにしても、さすがはお兄ちゃんですね。相変わらずの不幸っぷりです」


 特殊種族を引き当てるなんて言う超低確率のラッキーなことのはずなのに、その結果、町に入れなくなったり、チュートリアルでうっかりパーティーを組めなくなったり……。予想の斜め上を直進していますね。


 ああ、そういえば、わたしの口調については気にしないでください。こちらの丁寧なのは普段用。お兄ちゃんと話してた時の口調は、お兄ちゃん専用ですから。お兄ちゃんの前以外では使いません。


 また話がそれましたね。反省反省。


 お兄ちゃんの特徴を上げるとするならば、一つはギャグマンガの領域に片足を突っ込んでいる不幸体質です。


 お兄ちゃんの不幸具合は本当に筋金入りで、くじ引きをすればポケットティッシュか飴玉。おみくじをやれば大凶を引き、道を歩いていると、必ず何かしら飛んでくる……。いつ大きな事故や事件に巻き込まれるか、わたしは心配でなりません。


 お兄ちゃんの不幸体質の悪いところは、いいことがあると、それをすべて覆すような不幸が訪れることです。お兄ちゃんが、過去に一度だけ。中学生の時に商店街のくじ引きで温泉旅行を引き当てたことがありましたが……。


 ものの見事にその旅館で殺人事件が発生。それも、密室やら不可能犯罪やら、推理小説か! とツッコミたくなるような、連続殺人事件が。


 その事件は、偶然居合わせた高校生探偵と、当時からハイスペックだったお兄ちゃんの活躍で、無事解決されましたけど……。それ以降、お兄ちゃんが家族旅行に行くことはなくなりました。いえ、連れて行ってもらえなくなった、というのが正しい表現なんでしょうね。……あの人たちは、本当に…………本当に、度し難い……。


「あ、おーい! サーヤー! こっちこっちー。みんな待ってるよー」


 思考が少しダークサイドに堕ちかけたあたりで、わたしを呼ぶ声が聞こえてきました。当然のように聞き覚えのある声です。


「わかりました! 今行きます!」


 その呼びかけにそう返し、声の主のほうへ走っていきます。その先にいたのは、赤いショートヘアの、わたしと同い年の少女。彼女はベータテスター時代からの友人で、仲間です。


「サーヤ、お兄さんへの連絡はついたの?」

「ええ、連絡はついたんですが……。なにやら面倒なことに巻き込まれているようなので、合流は難しいとのことです。まぁ、いつものことなので」

「えええ! それは残念だったねぇ。サーヤ、お兄さんにあえるの、すっごく楽しみにしてたのに……」

「仕方ありません。それに、お兄ちゃんはすぐに何とかすると約束してくれました。お兄ちゃんがわたしとの約束を破ったことはありませんから」

「……はいはい、ごちそうさまです。相変わらずだね、サーヤのブラコンっぷりは」

「義妹はセーフなんです。それよりもミーナ、皆さんはどこですか?」


 赤髪ショートの少女―――ミーナにそう質問すると、「あっちだよ」という返答が。ミーナが指さしたのは、ファストの町の東側、教会がある方でした。


「わかりました。では行きましょうか」

「うん、しゅっぱーーつっ!」

「はい、出発です! ……って、ミーナ!? 速いです!」


 駆けだしたミーナのあとを追って、わたしも走り出します。ぴょんぴょんとはねる赤髪を追いかけ、人々の合間を縫って、何度か転びそうになりながらもたどり着いたのは……とても見覚えのある、一軒家。


「さ、ついたよ。アタシたちの家に!」

「ええ、ずいぶんと久しぶりな気がします。……『夜桜』のギルドホーム」


 ギルド『夜桜』は、わたしとミーナ。あと三人のメンバーの合計五人で作り上げたギルドです。気の合ったもの同士が集まって、わいわいしよう……。そんな、適当な目的で集まったギルドですが、メンバーの中は良好で、わたしも皆のことは大好きです。お兄ちゃんの次くらいに。


 ベータテスターの特権の一つに、ギルドを作っていたプレイヤーは、そのギルドのホームを引き継げるというものがありました。マスターがその特権を使ってくれたおかげで、わたしたちの思い出の家に、こうしてまた来ることができています。


 ミーナと二人で、ホームの扉を開け、中に入ります。中は、素朴ながら温かみのある木造の部屋で、その中心には、机とそれを挟むように置かれたソファーがあります。


 そして、そのソファーには、わたしの仲間たちが座っていました。


「お、やっと来たか。待ちくたびれたぜ、サーヤ」

「サーヤお姉さま。お久しぶりですわ!」

「……ん、おひさ」


 最初に声をかけてきたのは、マスターのシズカさん。名前とは裏腹に、豪快で男勝りな性格をしています。腰まである黒髪結い上げており、朱色の着物を着崩している姿は、極道の妻という言葉がよく似合います。大学生だと言っていたので、二十歳くらいでしょうか?


 次に話しかけてきた、わたしをお姉さまと呼ぶ娘は、レイカちゃん。たしか私より一つ下で、メンバー最年少。ギルドの中では妹分として、皆に可愛がられています。銀色の髪をくるくるの縦ロールにしており、いかにもお嬢様っぽいしゃべり方をするのが特徴です。


 最後に話しかけてきたのは、クロさん。無口なひとで、いつも眠そうな表情をしています。水色のセミロングヘアで、ギルド一の巨乳。あの大きさは反則です……! クロさんは高校生で、お兄ちゃんと同い年だそうです。普段もあんな感じなのでしょうか?


「お久しぶりです。シズカさん、レイカちゃん、クロさん。またこうして神話世界で一緒に遊べることを、とてもうれしく思います」

「かたっ苦しいのはなしだぜ。それよりもお前さん。愛しの兄貴はどうしたんだい?」

「う……。いえ、ちょっとトラブルに巻き込まれたみたいでして…。お兄ちゃんとは一緒になれませんでした」


 わたしがそう言うと、皆がそろって残念そうな顔をしました。


「そりゃ、残念だなぁ。サーヤがあれほど自慢してた兄貴とやらに会えるのを、それなりに楽しみにしてたのによぉ」

「サーヤお姉さまのお兄様、あってみたかったですわ」

「……残念」

「アタシもー」


 お、お兄ちゃんに会うのを、そんなに楽しみにしていたとは……。なんだか、悪いことをしている気になってきました。


「しょうがないですね。そんなに言うのなら、さっきとったお兄ちゃんのSSがありますが……。見ますか?」

「「「「見る!」」」」


 相変わらずの団結力を見せた皆は、わたしの周りに集まってきました。皆、目を輝かせています。お兄ちゃんが人気者で、わたしもうれしいです。


「じゃあ、見せますよ? …………これが、わたしの最愛のお兄ちゃんです!」


 ババン! というように、SSの表示画面を最大サイズにして映し出します。映っているのは、こちらに笑いかけてくるお兄ちゃんの写真。自分でもよく撮れている、と自己評価を下します。


 それで、皆の反応は……?


「「「「…………………………」」」」


 あ、あれ? どうしたのでしょう? 皆がお兄ちゃんの写真を見て、目を点にしたまま固まっています。


 やがて、ぎぎぎ……と、さび付いたロボットのような動きでこちらを向き、皆はそろって疑問の声をあげました。


「「「「………お兄ちゃん?」」」」

「はい、お兄ちゃんですよ? 可愛いでしょう?」

「……かわいいって言うか…」

「これは……」

「あー、なんだ?」

「よ、予想外ですわ……」

「む、何ですかその反応は。お兄ちゃんに何か文句でも?」


 わたしがむくれながらそういうと、皆はそろってお兄ちゃんのSSを指さし、


「「「「どこからどう見ても、美少女なんですけど?」」」」


 と、微妙そうな顔で声を揃えました。


 あ、そうか。わたしはなれてても、皆はそうじゃないんですね。

 

 確かに、お兄ちゃんは、女の子にしか見えませんしね。忘れてました。初見でお兄ちゃんを男だと見破ったのは、今のところわたしだけですしね。


 さぁ、お兄ちゃんのSSを見て首を傾げてる皆に、もう一度お兄ちゃんの魅力を語るとしますか。お兄ちゃんの味方になってくれる人を、一人でも増やしたいです。


 そうそう、お兄ちゃんと一緒にいたメイドさん。ユリィさんって言いましたっけ? あの人も、お兄ちゃんの味方になってくれそうです。すでにお兄ちゃんの毒牙に引っ掛かってるみたいですし。まったく、お兄ちゃんの天然ジゴロにも困ったものです。まぁ、いい人そうなので、よしとしましょう。


 お兄ちゃんに女の人が近づくのはちょっと不安ですけど、お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんなので大丈夫です。


  

 お兄ちゃんの一番は、何時でも変わらず、わたしなんですから!

伏線になってるかどうか、すごく不安。

次回から二章に入ります。



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