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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
19/62

19 ボス戦のお約束と決着 これで、終わりです

決着です!

「GUAAAAAAAAAAAAAッ!!」


 ギドベグが叫びをあげると同時に、その巨体の背後に、岩の槍が五本、現れる。そしてそれは回転しながら、かなりのスピードでこちらに襲い掛かってきた。


「行かせませんっ!」


 岩の槍を、飛び上がったユリィが鉄剣で受け流すようにして、進行方向を変える。森のほうに飛んでいった岩の槍は、木々をなぎ倒しながら地面に突き刺さった。それだけで、そこに込められた威力がわかる。つまり、喰らったら一発でアウト。ということだ。


 俺も相性のいい風魔法を放っていくが、岩石の鎧のようなギドベグの皮膚は、魔法に対する体制も高いらしい。ほとんどダメージになっていない。今のところ有効なのは、【風矢】を一点に集中させて放つことくらいだ。しかし、その攻撃も……。


「再生能力もちってことか、めんどくさい!」


 一点集中の【風矢】を叩き込んでみるが、それで減って微々たるHPも、しばらくすると回復してしまう。ユリィの斬撃に至っては、ダメージを与えることなく無効化されてしまっている。


 まあ、つまり、積みと言われる状況になっているのだ。幸い、ギドベグは見た目に裏切らず、動きが遅い。攻撃も予備動作が大きいものばかりなので、こちらが攻撃を喰らうこともない。さっきの岩の槍が唯一の遠距離攻撃なので、それにさえ注意していれば、俺とユリィは無傷でいられる。


「まぁ、こっちもダメージを与えれてないんだがな」

「すみません。私の攻撃がダメージになれば……」

「いや、ユリィが誤ることじゃない。ユリィは集落殲滅の時に頑張ってくれたからな。今度は俺が頑張る番だ。……それに、守られっぱなしってのも情けない話だからな」


 ……とまぁ、そうはいってみたものの、正直手づまりな感じではある。こちらの攻撃もあちらの攻撃も、どちらも効果がないという千日手状態。何かしらの打開策がない限り、こうして無駄に体力と時間を浪費するだけになってしまう。


「さてと、まずは……こいつだっ!」


 メニュー画面から取り出した試験管を五本。ギドベグに向かって投げつける。中身はゴブリンの集落でも使った毒薬だ。


 試験管はまっすぐにギドベグの体や腕、足に降りかかる。体のどの部分にかかっても効果がある毒なのだが……特に、苦しんだりする様子はない。


「ボスに状態異常が無効化されるのはお約束と言えばお約束か。そこそこ苦労して作った毒なんだがな……。なら今度は……」


 やはり、魔法だろう。【風矢】を一点集中すれば、ダメージ自体は与えられる。なら、【風矢】の数を……。いや、まてよ?


 MPを多く注ぐことで、矢の数を増やすことができる。なら、数じゃなくて威力を上げることもできるんじゃないか? ……とりあえず、試してみることにしよう。詠唱を変えてやればいいのだろうか?


「ダメ元でやってやるよ。『風よ衝撃を振りまく厄災となりて吹きすさべ 我が魔力を喰らい激しきものとなれ』、【風乱】!」


 魔力を操作し、放たれる魔法に直接注ぎ込むような形で魔法に込める魔力を増やす。詠唱も変えるというよりは付け加えるような感じにしてみた。さて、どうなるか……。


 風魔法第四階梯魔法【風乱】。風の衝撃を広範囲に与えるという魔法だ。ギドベグに使ったところ、全身の岩の表面が多少崩れただけだった。


「GU、GAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!?」

「効果があったみたいだな。それにこれなら……ユリィ!」

「はいっ!」


 普通に【風乱】を使うときに消費するMPは20。今回はその五倍……100くらいを消費してみた。過剰な気もするが、どうやらそれでよかったみたいだ。風の衝撃は通常時とは比べ物にならないほどのうなりを上げ、ギドベグの岩の鎧ともいえる全身の岩石を砕いた。それに苦しげな声を上げるギドベグ。HPの減少量を見るに、威力自体は三倍強といったところか。MPを五倍消費したのに、強化率は三倍強。どこかでロスがあったと思うべきだろう。


 俺の声を受けたユリィが、軽やかに飛び上がりつつ、両手の剣を振り上げる。剣術のアーツ、【山剣】。斬撃の重さを増すアーツ。ユリィはそれを、ひび割れた岩の鎧に叩き込んだ。その衝撃に、砕け散り、そして血をが噴き出る。苦し気な悲鳴を上げるギドベグ。再生能力があるとはいえ、今のは聞いたらしい。


「なるほど、岩の鎧を抜けば、防御力はそこまででもないってことか。なら……。――――――【風矢】!」


 一点集中の風矢をひび割れに向かって打ち出す。砕け散り、崩れ落ちる岩の鎧。ギドベグの苦し気な声を聴きながら、ユリィに大声で指示を出す。


「ユリィ! 俺が魔法で鎧に傷をつける。傷ついたところに攻撃して、破壊してくれ! まずはこの堅い鎧を全部はがしてしまうぞ!」

「わかりました。――――はぁ!」


 ユリィの振るう剣が、少しづつだが鎧をはがしていく。ギドベグの再生能力によって、ひびがふさがってしまうが、再度【風乱】を叩き込み、ひびを作り出す。これも一種の部位破壊と言えるのだろうか?


 そうして、岩の鎧の破壊に専念すること三十分ほど。ギドベグの体からは、岩の鎧のほとんどが剥がれ落ちており、赤褐色の皮……というか、毛皮が覗いていた。名前に獣と入っているので、毛皮でもおかしくはないのだが……元がゴブリンキングだったため、正直、「獣要素、どこから来たの?」という感じだ。


 岩の鎧をはがした時点で、ギドベグのHPは半分ほどになっている。鎧がなくなれば、ユリィの斬撃でもダメージが入るが……。


「まぁ、テンプレというかなんというか……」

「確かに、あの鎧は重そうでしたし……。それがなくなれば、こうなってもおかしくはありませんね」

「予想通りの展開ってやつかね? まぁ、ユリィがダメージを与えられるようになったから……。『風よ雄大なる汝の加護を今ここに』、【風衣】。……行けるか、ユリィ?」

「もちろんです!」


 ユリィが鎧をなくしてずいぶんとスマートになっているギドベグに向かっていく。だが、ギドベグはそれを迎え撃つように、頭にの角を振るってきた。【風衣】で速度が上昇しているユリィはそれを軽々とよけるが、ギドベグの動くスピードは、鎧があったころと比べると、倍以上速くなっている。おもりをなくしてスピードアップとか、少年漫画かと言いたくなる。


 行動が早くなった分、ユリィもなかなか攻撃を当てられないでいる。十メートルちかい巨体が高速……とまではいかなくても、それなりの速さで迫ってくるというのは、かなり威圧感がある。離れたところで魔法を放っている俺でさえそうなのだから、ユリィはもっとだろう。


 それでも少しずつ、少しずつダメージを重ねていき、何とかギドベグのHPが三割を切るところまで減らすことができた。


 だが、HPが三割を切ったその瞬間、ギドベグの体から赤黒いオーラのようなものが吹き出し、さらには体から頭に生えている角と同じようなものが生えてきていた。


「HPが少なくなるとパワーアップ! どこまでも期待を裏切らないボスの鏡!」

「……アカツキ様、何か、来ます」


 ユリィが真剣な声でそう言う。ちょっと呆れも含まれてたけど。うん、ふざけてごめんなさい。


「何か………うわっ、確かにあれはヤバそうだな」


 視線の先では、ギドベグが体中から生やした漆黒の角の先に、魔力をためている光景だった。正直、嫌な予感しかしない。視認できるほどに圧縮された魔力は、耳障りな甲高い音を上げている。


「ユリィ、防御姿勢に入る」

「私は、迎撃に出ましょうか?」

「いや、ユリィも入ってくれ。どんな攻撃が来るかを見定めてくれると助かる」

「わかりました。


 さて、あのたまってる魔力でどんな攻撃を仕掛けてくるのやら……。遠距離攻撃だとは思うんだがな。まぁ、どんな攻撃が来てもいいようにしとくか。


 地面に座り込み、[瞑想]を発動させる。そして、魔法の詠唱を開始する。


「『地よ壁となりて我が示しよりいでよ 我が魔力を喰らい強固なる姿をもて』、【石壁】。ンでもって、『風よ矢となりて疾く割れの敵を穿て 我が魔力を喰らいすべてを貫く意思を示せ』―――[遅延]」


 【石壁】で壁を何重にも張り、相殺ように【風矢】を遅延しておく。今できる最高の防御対戦だ。


「……来ました!」


 ユリィはそう叫ぶと、素早く俺のそばに立つ。俺は[瞑想]でMPを回復させながら、【石壁】を周囲にも展開する。どの向きから打ち込まれても大丈夫なように。


「GURAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!」


 ギドベグが咆哮する。それと同時に周囲に光が放たれ、それと同時にため込まれた魔力が砲撃のごとく打ち込まれた。幾筋もの光線が空気を焦がしながら飛来し、【石壁】に直撃する。薄紙を破るように破壊される石壁だが、壊されるたびに新しい壁を作り出しているので、こちらまで砲撃が来ることはない。


「……ッ! 『穿て』ぇ!」


 さっきの「くるはずがない」という思考がフラグだったかのようなタイミングで、魔力の砲撃が頭上から迫ってくる。とっさに【風矢】で迎撃するも、相殺はできず、勢いを目に見えるほど衰えさせただけだった。しかし、こちらの被害はそれどころではない。頭上の砲撃に気を取られたせいで、【石壁】の展開が間に合わなくなってしまった。


「くそっ、このままじゃ……」

「アカツキ様!」


 最後の石壁が破られそうになった瞬間、俺の体がふわりと持ち上げられた。……横向きに。


 俺を持ち上げたユリィは、地面を強くけって、石壁に囲まれた空間から飛び出すと、石壁の上部分を踏みつけ、大きく跳躍した。それとほぼ同時に、石壁が砲撃によってすべて崩壊する。間一髪のところで助けてくれたユリィは、グッジョブとしか言いようがない。ないが…。


「この格好はどうかと思う! 肩に担いでくれた方がまだよかったわ! でも助けてくれてありがとう!」

「どういたしまして。それと、この体勢はとっさだったということで」

「じゃあもうおろしてくれないか? その……は、恥ずかしい…………」

「……もう少し、このままでいませんか?」

「なんでっ!?」


 そんなことを言っているうちに、ギドベグがまた魔力をためているのが見えた。さすがにあれをもう一発撃たせるわけにはいかない。


「ユリィ! たしか戦乙女の固有魔法にって、もう一個あったよな。それであいつにとどめを刺せるか?」

「……はい、たぶんですが。行けると思います」

「よし、あの砲撃は俺が何とかするから、それを頼む」

「わかりました。…………この格好でアカツキ様がかっこよく支持を出してるというのは、はたから見たらかなりシュールな光景なのでしょうね」

「わかってるなら、早く下してぇ!」


 横抱き……つまりは、お姫様抱っこされている状態なのだ。恥ずかしすぎる。羞恥で顔が赤くなるのが分かった。ユリィはそんな俺を、なぜか……本当に、なぜか惜しむようにして地面におろし、魔力をためているギドベグに向かっていった。


「さぁ、俺の仕事をこなすか。――――[叡智]、起動!」



 

「真っ赤になって恥ずかしがるアカツキ様……。普段の頼りになるアカツキ様もいいですが、やはりかわいらしさがアカツキ様の最大の魅力……。……いえ、そうではなくてですね」


 ユリィは、ギドベグへと高速で駆け抜けながら、そう独り言を漏らす。自分の腕に収まったアカツキの感触を思い出しながら。


(ああ、なんであんなに華奢で、軽くて……。男くささがまるでありませんでした。それに羞恥に染まり切った顔で「恥ずかしい……」とつぶやく姿。あれはもう、私を萌え殺しに来ているとしか言いようがありません)


 アカツキが聞いていたら、「ンなわけあるか!」と思いっきりツッコミそうなことを考えながら、ギドベグに迫っていく。ギドベグは魔力をどんどんためているが、ユリィは恐れる様子が欠片もなかった。


(アカツキ様が何とかするとおっしゃいましたから。私は、私に任された使命を果たすだけです!)


ユリィは走りながら、短く息を吐く。そして、すぅ、と大きく息を吸い込むと、固有魔法の詠唱を開始する。


「『わが剣に宿れ、英霊の魂よ』」


 ユリィの魔力が昂ぶるのと同時に、ユリィの持つ両手の剣が白い粒子をまとい始めた。


「『この剣は数多の命を奪ってきた。血と憎悪に濡れながら、肉を裂き、骨を断ち、魂を斬ってきた』」


 剣にまとわりつく粒子は、純白と言っていい色から、徐々にその色を濁らせていく。


「『この剣が奪った命たちよ。その憎悪を高ぶらせろ。しかし、我はそれを御して見せよう』」


 白から血を固めたような赤黒い色に染まった粒子は、剣から離れようと暴れだす。しかし、ユリィの詠唱に合わせて、荒ぶっていた粒子のうごきは、剣にまとわりつきながら、滑らかな動きに変わっていった。


「『その憎悪を力に変えよ。この剣に宿りし者の力となりて、我が敵をうち滅ぼせ』」


 ユリィの両手の剣に纏われた粒子の動きが加速する。そして、粒子が少しずつ剣に染み込むように動き、ついには剣と同化する。粒子に覆われていた剣が再び現れた時には……。それが、鉄剣ではなくなっていた。


「『それはすべての災厄を祓うもの。燃え盛る劫火の壁を切り裂くその剣の名は』」


 ユリィの手に握られているのは、煌めくような紅い刀身に、光を飲み込む漆黒の装飾がなされた、どこか惹きこまれてしまうような、妖艶さを放っている剣。その長さは百四十センチほどとかなり長い。


 ユリィは、今まさに魔力の砲撃を放とうとしているギドベグを一瞥する。魔力をためているときは行動できないのか、その場に動かずにいるが、ユリィをにらむ瞳には、ギラギラとした殺意が込められていた。


 その視線を柳に風と受け流し、ユリィは剣を構えた。しかし構えた剣をギドベグに振り下ろすより先に、ギドベグが咆哮し、ためられていた魔力が砲撃となって放たれた。


 ユリィは、砲撃が放たれても、動きを止めることはなかった。ただ、自分の背後にいる主の存在を信じて、剣を振るう。


 ユリィに砲撃が当たりそうになった瞬間。その砲撃が、ユリィの背後から放たれた別の砲撃にて相殺された。いくつもの砲撃同士がぶつかり合い、互いを消滅させてゆく中、ユリィは、地面を強くけって跳躍すると、両手の剣をギドベグの胸のあたりに突き刺した。何の抵抗もなくギドベグに突き刺さった剣に魔力を込めながら、ユリィは、最後の鍵言を歌い上げる。


「【ノートゥング】」


 瞬間、剣から紅色の光が漏れ、ギドベグの体内を蹂躙していく。いくら堅い皮膚を持っていようと、毛皮に守られていようと、体内から攻撃されれば、それはもう意味をなさない。紅色の光は、徐々にその輝きを増し、ギドベグの体を膨れ上がらす。


 ユリィは剣の柄から手を離し、苦悶の叫びをあげるギドベグの体を蹴ると、ギドベグから離れたところに着地した。そして、くるりとギドベグに背を向け、歩き出す。


「これで、終わりです」


 パチンッ。指を鳴らした音が、その場に大きく響き渡った。それを合図に、ギドベグに突き刺さった剣から一際煌めく閃光が漏れ……。



 ―――――――ギドベグの巨体が、まばゆい紅光とともに、はじけ飛んだ。


 


 


 

うん、どうでもいいがうちの主人公影薄いな……。



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