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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
17/62

17 アカツキから見た光景と新しいスキル さぁ、ゴブリンども。祈りは済ませたか?

総合ポイントが500を超えました。ブックマ登録&評価、ありがとうございます!

「うーん、偵察に来た時の三倍はいるよな……。とすると総数は三百以上……。下手すると、四百を超えるか? さすがにこんなにいるなんて思ってなかったな。それすら不幸体質のせい……いや、これ以上は言うまい。どっちにしろ、総定数を五百で考えてたから関係ないか」


 眼下に広がるゴブリンの群れを眺めながら、そうつぶやく。多くても二百匹くらいかなぁとか考えていたから、そこから二倍近く増えるとは……まぁ、俺なら普通にあり得ることなので、作戦は五百匹を最大として考えておいた。なので、このくらいなら誤差の範囲である。それにしても、ゴブリンにしてはやたら統率が取れてるんだけど。装備もそろいにそろってるし………。武器商人でも襲ったのかな?


 さて、今俺がどこにいるのかというと……。ゴブリンたちの集落、その洞窟がある岩の斜面である。だいたい斜面を十メートルくらいのぼったところに、岩が無数に突き出しているところがある。そこに、【石壁】で床を作り、座っている。森が一望できて、大変眺めがよい………じゃなくて。


 【石壁】の魔法で床を作る。それを思いついたのは、レベル上げの途中、岩場での戦闘でだ。【石壁】は、座標の地面を視認で指定し、そこに石の壁を作り出す、という魔法だ。だが、岩場での戦闘中、モンスターが岩の上から飛びかかろうとしてきたのを防ぐべく、【石壁】を使った。すると、驚いたことに、岩からも【石壁】が生えたのだ。ちなみにそのモンスターは【石壁】に頭から突っ込んでHPを散らしていった。


 つまり、【石壁】の魔法は『地面から』ではなく『壁の材料がある場所から』から石の壁を作り出す魔法ということだ。なら、岩肌に地面に平行になるように壁を出すこともできるだろう、という考えのもと、実験してみたところ……見事成功。壁のサイズは調整できるので、階段みたいにすることもできた。


 【石壁】の階段で、夜のうちに斜面を上り、集落の上に陣取ったというわけだ。ここならゴブリンたちから見つかることもないだろう。なんせ、下のゴブリンたちは、全員が体の大きな一匹のゴブリンに集中しており、よそ見をする気配すらない。となると、あのでかいのがゴブリンキングなのかー。確かに装備とかも上等そうだし、何よりデカい。ゴブリンの三倍くらいはあるから……三メートルくらい? さすがはキングってことなのかね。


「さて、そろそろ…………よし、大丈夫そうだな」


 集落の広場らしきところに集まっているゴブリンたち。その後方付近がいきなり騒ぎ出した。集落の入口当たりを指さしているのが確認できた。


 ………え? なんでそんなことが正確にわかるかって? 確かに結構距離があるし、双眼鏡みたいなものもない。そんな俺が、ゴブリンたちの行動を完全に把握できているのには、理由がある。それは……、


「 チャンチャラチャッチャッチャ~、生命活性薬~! 」


 試験官に入っている、ポーションよりも薄い緑色をしている薬品。これは、薬草の性質である「生命活性」を抽出し、[錬金術]で薬品にしたものだ。その効果は、体の振りかけた部分の性能を上げるというもの。そこだけを聞くと、便利なアイテムに聞こえるのだが……。


 じつはこれ、薬を駆けた場所にしか効果がないのだ。だから、身体強化薬みたいに使いたかったら薬を全身に浴びるしかない。効果時間も数分間と短い。なので、戦闘用に使うのは向いていない。なので、ピンポイントで部位に使うことで、その部分だけを強化しているというわけだ。今回なら、目に目薬のように使うことで、視力を上げる……という感じで使っているのである。


 閑話休題(それは置いといて)


 強化された視界でゴブリンの集落の入口当たりを見る。そこに立っていたのは、見知った白髪のメイドさん。ユリィだ。今回の作戦では、ユリィには陽動をしてもらうことになっている。ユリィのプレイヤースキルは正直化物レベルなので、ゴブリンに後れを取ることなどないと思うが……。それでも、やっぱり心配だ。まぁ、ユリィ自身が自信満々に大丈夫です! って言ってたので、それを信じよう。


 ゴブリンキングが何かを叫ぶと、ゴブリンの隊列が真っ二つに割れる。あれだ、モーゼみたいな感じ。上から見ると集団行動みたいでちょっと面白い。


 ユリィは、こらえきれない、といった様子で襲い掛かってきたゴブリンを一蹴し、ゴブリンキングに向かって優雅に一礼した。見事なカーテシー……とはちょっと違うか。まぁ、様になってるしぐさだったな。


 さっきのゴブリンモーゼのおかげで、ゴブリンキングとユリィの間には、ちょうどいい感じに道ができている。作戦が思いのほかうまくいきそうだな。第一段階は、ユリィがゴブリンキングのところまでたどり着くことだし。まぁ、このまま突っ込んだら……って、おい。


 お辞儀の体勢から戻ると同時に、ユリィはゴブリンに襲い掛かる。相も変らぬ猪突猛進っぷりについついジト目になってしまう。レベルアップして速のステータスも上がったんだろうけど……。ほら、囲まれた。ゴブリンによるユリィの包囲網が完成してしまっている。


 包囲網はじりじりとユリィとの距離を縮めている。そして、先頭にいたゴブリンたちが、各々の武器でユリィを攻撃するが……。


「甘い。その程度でユリィにダメージ与えようとか、なめてんのか」


 襲い掛かってきたゴブリンたちを、ざっくざっくと切り捨てるユリィ。ゴブリンは反応すらできずに粒子に変換されていく。鎧に覆われていようが、確実に首を切り裂くユリィの斬撃のまえでは、ただの重しでしかない。つくづくユリィの規格外さを思い知らされる。


 これは俯瞰している俺だからわかることなのだが……ユリィは、あれだけの数に囲まれておきながら、一度も複数の敵を相手どっていない。囲まれているように見えても、確実に一対一でゴブリンと戦っている。もともと、統率は取れていても、連携は取れていないゴブリンたちは、数の多さの有利の大半をつぶしてしまっている。これはもう両者のスペックの圧倒的な差、というやつなのだろう。


 ゴブリンがあまりにも簡単にやられていくことに焦ったんだろう。ゴブリンキングの近くにいた、ゴブリンよりも一回り大きなゴブリンの上位種が、ユリィを止めようと動き出すのが見えた。ゴブリンキングはいまだ動く気配がないけど……。なんか、震えてる?


 生命活性薬の効果時間が切れたので、もう一度目に薬を刺してっと……うん、やっぱり震えてる。何アイツ。あんな図体しててビビりなの?


 と、そうしているうちに、ユリィがホブゴブリンの同時攻撃を完璧に捌き……あ、固有魔法使ったのか。すごいスピードで三匹のホブゴブリンを粒子に変えた。


 うーん、ユリィがすごすぎて、一応援護のためにもってきてたやつの出番がないな……。あ、あそこの杖もってるゴブリン、魔法使おうとしてない? もうアイツでいいか。あと、弓持ってるゴブリンにも一応やっておこう。


「ほいっ、ほいっ、それっ!」


 狙いを定めたゴブリンたちに、ぽいぽいと薬品の入った試験管を投げ込んでいく。中に入っている液体は、毒々しい紫色。その色に違わず、入っているのは毒薬だ。


「毒草、毒蝶の鱗粉、芋虫の毒液。三つの毒のオリジナルブレンドだ。存分に味わってくれ」


 試験管は、寸分たがわず狙ったゴブリンの頭に命中し、砕けながら中身をまき散らす。その毒薬を浴びたゴブリンたちは、さしたる抵抗も見せずに次々に倒れていった。少しの間、びくびくと痙攣していたが、すぐに粒子となって消えていった。


「やっぱり、[叡智]と[錬金術]の組み合わせは凶悪だよなぁ……。なんせ低レベルモンスターの素材と最下級の毒草で、こんな強い毒薬が作れるし」


 毒草や、その他二つの素材も、単体で使えばそれほど強い毒にはならない。しかし、それらを混ぜ合わせ、さらには生命活性の効果を持つ薬草やその他諸々の素材を組みあわせることによって、強力な毒薬になるのだ。そしてそれを可能にしているのは、[叡智]の力。素材の性質を完璧に見抜けるこの能力があるからこそ、作ることができた毒薬である。まぁ、失敗作が九割を占めていたのは……今後の成長の糧ということで納得しよう。


 そうこうしているうちに、上位種のゴブリンのほとんどはユリィに倒され、そうでない普通のゴブリンは、恐慌状態に陥っている。それでも逃げないのは、あのゴブリンキングが何かしているからだろうか?単純に逃げたらゴブリンキングになにをされるかわからないからってのもあるかもしれないな。


 ユリィが、ゴブリンキングと対峙する。ゴブリンキングのほうも、大剣を構えて油断なくユリィを見据えている。そして、ユリィとゴブリンキングは、一言二言言葉を交わし、戦闘を開始した。


 ……さて、じゃあ俺の方も準備するかな。


「『風よ数多の矢となりて疾く我が敵を穿て』―――[遅延]」


 一回目。急激に体の中から魔力が抜け出していく感覚を感じながらも、鍵言を唱える。[風魔法]の第二階梯魔法、【風矢】。通常なら五本の風の矢を高速で打ち出すこの魔法を、MPの許す限り矢の数を増やす。一度MPが枯渇し、強い頭痛が俺を襲うが、それを精神力だけでねじ伏せる。ユリィがああやって頑張ってくれている。なら、俺は俺の役目を完璧に全うするだけだ。


 岩の床の上に胡坐をかき、目を閉じて意識を集中する。それが、俺が新しく習得したスキルの発動条件。


「――――[瞑想]」


 スキルを発動させると、自分の中で、抜け出していった魔力が急速に回復していっているのがわかる。もともと知のステータスにしかSPを振り分けていないこともあり、俺のMPの自然回復速度はかなり早い。座って休んでいれば、全回復に五分ほどだ。そして[瞑想]のスキルは、そのMPの自然回復速度を飛躍的に高めてくれるスキルである。もちろん、発動条件が座り込み、目を閉じて意識を集中することなので、戦闘中に使うことはできないのだが。


 [瞑想]のおかげで回復したMPで、また【風矢】を遅延させる。MPを使い果たしたら、[瞑想]で回復。そしてまた【風矢】を遅延するというサイクルを、遅延の最大数である十回までつづける。


「ぐっ……!」


 MPを枯渇させるという行為は、どうしても苦痛を伴い、さらに、通常とは違う規模で使う魔法の遅延は、それなりに集中力を使う。自分の魔力の総量よりも多い魔力をためているからだろう。瞑想の姿勢のまま、魔法を解き放つ瞬間を、今か今かと待ち続ける。


 数分、時間にすればそれくらいだろうが、俺にとっては一時間くらいに感じられた時間が過ぎた時、何かが岩の斜面を蹴って昇ってくる音が聞こえた。音は徐々に近づいてくる。そして、俺の近くの岩に着地すると、鈴を転がしたような声で話しかけてきた。


「―――お待たせしました、アカツキ様」

「……いや、すごかった。よく頑張ってくれたな、ユリィ。ありがとう」

「いえいえ、このくらい、アカツキ様のメイドとして当然のことです。……さぁ、アカツキ様。あの愚かな子鬼どもに、あなた様の力を示して下さい」

「…………ああっ!!」


 ユリィの言葉で、感じていた苦痛が和らいでいくのを感じた。自分でも驚くほどに、ユリィが近くにいることにたいして安心感を覚えている。


 ―――さぁ、ゴブリンども。祈りは済ませたか?


 閉じていた目を開き、眼下で固まっているゴブリンたちを睥睨する。ゴブリンキングはゴブリンたちの塊の中心にうずくまっていた。ゴブリンキングと、視線が交差する。俺は、自然と笑顔を浮かべながら、解放の鍵言を唱え上げる。


「『降り注げ、滅びよ』」


 ―――瞬間、ため込まれた魔力がうなりを上げて解放され、大量の風の矢となりゴブリンたちを飲み込んだ。

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