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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
15/62

15 ゴブリンキングと白きメイド 私はユリィ、あなた様方を殺すものです

少し短めです。

 緑の森、そう呼ばれる森の奥にあるゴブリンの集落の広場には、武装したゴブリンたちが所狭しと、隊列を組んで立っていた。茶色い肌を持つ、ケイブゴブリンと呼ばれる種族で、洞穴や洞窟に生息している。


 ゴブリンと言えば、ぼろ布をまとい、武器は木を削りだして作った棍棒。それか、冒険者から奪った武器を持っているのがせいぜいだ。


 しかし、この集落のゴブリンたちは、皆、鎧と剣を装備しており、まるで軍隊のように統率のとれた動きをしている。ゴブリンは亜人型のモンスター。獣型に比べれば知性が働くとはいえ、こうして軍隊の真似事ができるほど賢くはない。


 ではなぜ、そんなゴブリンがこうして統率のとれた行動をしているのか。それは、この集落に生まれた、ゴブリンキングの存在があるからだ。


 ゴブリンキングとは、素質のあるゴブリンが経験を積み、ランクアップすることでなることのできる種族だ。ゴブリンを率いて、その率いたゴブリンの数だけ、自身が強化される。また、率いているゴブリンの能力を強化することができる、[眷属強化]というスキルを持っており、ゴブリンキングの傘下にいるゴブリンと、普通のゴブリンでは、その強さに大きな差が存在する。


 ゴブリンだけでなく、すべてのモンスターには、キング、つまり王種となることのできる存在がいる。王種の素質というのは、大きく分けて二つある。


 一つは、スキル[王の素質]を持つ個体がランクアップした場合。これは、王種から生まれた個体がまれに生まれつき持っているスキルだ。


 もう一つは、神の加護を受け、名持ち―――つまり、ネームドモンスターとなった個体がランクアップした場合。そしてこの集落のゴブリンキングは、洞窟の神の加護を受け、ギドベグという名を授かった個体だった。


 ゴブリンの軍団のなか、ひときわ巨大な影があった。ゴブリンたちの敬意と畏怖を一身に受ける巨大なゴブリンこそ、ゴブリンキング―――ギドベグだ。


 ギドベグは身長が3メートルほど。ゴブリンとは思えない筋骨隆々な体に、岩のような高度を誇る赤褐色の肌。全身を鋼よりも固い金属、黒鉄の鎧で堅め、刀身が2メートルもある大剣を傍らに突き刺していた。その大剣は、淡い魔力光をまとっていた。大剣型の魔剣だ。


 ギドベグは、眼下に広がる己の軍を眺め、愉悦に口元を歪めさせた。これこそが、我の力なり、と。


 ゴブリンだったころとは、比べ物にならない力を手に入れた。神にも認めてもらえた。人間の商人を襲ったときに、運よく魔剣を手に入れた。すべてのゴブリンは鎧と剣を装備し、上位種のホブゴブリンやスペルゴブリンもいる。ギドベグは、自分が最強の存在であると、全く疑っていない。自分こそが世界の覇者であり、絶対の強者であると、そう、信じていた。


 そんなギドベグが、自分の力を知らしめてやりたいと考えていたころ。示し合わせたかのように、神からの啓示が来た。人間の町を攻め落とせ、と。ギドベグはついに自分の力を示すことができると、歓喜した。矮小な人間どもを皆殺しにして、それを自らの栄光の第一歩としようと考えたのだ。そのために、ゴブリンたちを鍛え上げ、人間から装備を奪い、こうして軍団とも呼べる規模まで集落を成長させたのだから。


 ギドベグが、並びそろったゴブリンたちに、何か言葉でもかけてやろうとしたとき、隊列の後方が、にわかに騒ぎだした。出鼻をくじかれたギドべグは、いら立ちを隠そうともせず、怒鳴り散らす。


「ナニゴトダッ!」


 濁った声が響き渡り、その声にのせられたギドベグの怒りといら立ちに、近くにいたゴブリンたちは、慌てて騒ぎの原因を探る。後方にいたゴブリンたちは、集落の入口の方を指さして、口々に何かを騒いでいる。そして、さらにいらだったギドベグが「ドケッ!」と叫ぶと、ゴブリンの隊列が真ん中から二つに裂け、ギドベグのいる場所から、集落の入口が見えるようになった。鋭い視線で、そちらをにらみつけるギドベグ。そこにいたのは―――人間の、女だった。


 白い髪を風にたなびかせ、両手に武骨な鉄の剣を持っている。しかし、着ているものは、戦士のような鎧や、魔法使いのローブでもなく、妙にひらひらした布の服。防御力など一切なさそうである。


 しかし、ゴブリンの軍団を無視し、ギドベグに向けるその眼差し。そこに宿っていたのは、どこまでも冷たい『殺意』。真正面からその殺意を受けたギドベグは、その威圧感に、思わず一歩後ずさり…………………自分が、『矮小』だと卑下していた人間相手に、怯んでしまったという事実に、烈火のごとくの憤怒を発した。


「グガァアアアアアアアアアアアアっ!! ソ、ソノ人間ヲ、殺セェエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」


 大剣型の魔剣を地面から引き抜き、女にその切っ先を突き付ける。怒り交じりの咆哮を受けた女。しかし、おびえどころか、その能面のような無表情を一切崩さず、ただ冷めた目をギドベグに向けるだけだった。


 それがさらにギドべグの怒りを加速させる。その怒りは徐々にゴブリンたちにも伝播していき………そしてついに、後方にいたゴブリンたちが、女に向かって襲い掛かった。


 前方から五匹のゴブリンが、女の命を奪おうと剣を振り上げる。しかし、女はそんなもの全く眼中にない、とでも言うように、ちらりとそちらを一瞥しただけで、すぐに視線をもとに戻した。


 襲い掛かったゴブリンたちは、女の態度に舐められたと思ったのだろう。怒りの叫びをあげながら、その手に持った剣を振り下そうと…………。



 瞬間、銀線が宙を駆けた。



 剣を中途半端に振り下ろした状態で、粒子へと変換される女に襲い掛かったゴブリン。女は先ほどと全く同じ体勢でそこに立っていた。……否、ギドベグには見えていた。ゴブリンたちが女に剣を振り下ろそうとした瞬間。



 女が目にもとまらぬ速度で、両手の剣を走らせたのを。その剣は、襲い掛かったゴブリンの首を正確にとらえ、死神の鎌のごとく、その命を刈り取ったのだと。


 女は、いきなりの仲間の死に固まってしまったゴブリンたちを一瞥すると、剣を持ったまま、流れるような動作で、一礼し、口を開いた。


「ご機嫌いかがでございましょうか、薄汚い子鬼の皆さま。私はユリィ。――――我が主の命により、あなた様方を殺すものです。どうぞ、良しなに」

 

金曜日はやることが多い……。更新は遅れないようにしたいです、切実に。



感想や評価、ブックマークなど。また、小説の批評や批判、おかしいところの指摘。質問等々、をしてくださると、とてもありがたいです。よろしくお願いします!

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