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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
14/62

14 ネガティブとポジティブ アカツキ様って、結構めんどくさい性格してますよね

感想を書いてくださった方、ありがとうございます!また暇を見つけて返信させていただきます。

 さて、ゴブリンの集落を壊滅させるにあたって、俺とユリィがまず最初になにをしたかと言えば単純明白、レベル上げだ。


 適正レベル15以上と記されているクエストに、レベル8で挑むのはさすがに無謀というものなので、タイムリミットのうち、10時間はレベル上げに充てることとした。どうやら、クエストが発生した影響なのか、森のモンスターたちの数が増えていたのだ。それだけでなく、レベルのほうも上がっていたようで、俺たちのレベルもさくさく上がっていった。[挑戦者]の効果込みとはいえ、10時間でどうにかこうにかレベル14まで上げた俺らの努力は、自画自賛しても許されるんじゃないだろうか? スキルレベルも順調に上がり、新しいアーツや魔法も覚えた。今回の作戦で、俺は魔法一辺倒になる予定なので、アーツのほうは必要ないといえば必要ないのだが……。そこは、備えあれば憂いなし、というやつである。


 まぁ、モンスターたちが凶暴化していたのか、行動自体は単調になっていたせいで戦いやすかった、という事実もあるんだが。ユリィの無双がレベルが上がるごとにすさまじさを増していたのは、圧巻の一言だった。


 それはさておき、今俺は亜空工房の実験室にてアイテム製作を行っている。自分の持てるものをすべて使わないと、クエストのクリアは難しそうだからだ。ちなみにユリィは、もう少しレベル上げをしてもらっている。今回の作戦で、俺とユリィどちらが危ないかと問われれば、ユリィだからな。少しでも強くなってくれた方が俺も安心である。


 ……俺がたてた作戦は、どうしてもユリィが一番危ない役割になってしまう。近接戦闘職のほうがモンスターに近づく必要があるため、仕方ないことだと思えばそれまでだけど……。それに、ユリィのプレイヤースキルがチートなことは重々承知だ。でも、それに頼りきりなのは情けない。そういうことを言っている場合じゃないんだろうけど……。


「って、加工失敗したし……。集中、できてないな。あんま時間ないってのに、こんなんじゃだめだよな。はぁ……」


 ユリィと、対等なパートナーになりたいとか言ってた過去の自分を殴りたい。ユリィに頼りっぱなしじゃないか。本当に情けなくて、そんな自分がすごく恥ずかしくて、ちょっと視界がぼやけた。慌ててごしごしとローブの裾で目をこする。こんな姿、ユリィには見せられないな……。


 そんなことを考えていたら、ガチャリと扉が開いて、ユリィが戻ってきた。時間を確認したら、もう作戦の説明をすると約束していた時間になっていた。俺のアイテム製作のほうは、まだ終わっていない。残っている作業はあと少しとはいえ、時間は十分にとっていたはずなのに……。


 一度転がり始めたら、もう止まらない坂のように、俺の心がどんどん悪い方へと転がり落ちていく。自己嫌悪が膨らみ、また視界がにじみ始めた。それを、今工房に入ってきたユリィに見られたくなくて、慌てて顔をそらす。そくささと作業を再開しようとテーブルに手を伸ばすが、慌てていたせいで手元が狂い、くみ取っていた水をこぼしてしまった。ほんと、何やってんだか。


「アカツキ様、大丈夫ですか? も、もしかして驚かせてしまいましたか? えっと、私にお手伝いできることがありましたら、何でも言ってください」


 ……そんな、優しい言葉を掛けないでくれよ。今そんなこと言われたら、もっと情けなくなっちゃうだろ? ユリィのこちらを気遣う声に、涙がこぼれてしまいそうになるのを、全力で押しとどめ、無理やり笑顔を作って向ける。


「大丈夫大丈夫、ちょっと手が滑っただけだから。それより、狩の成果はどうだった? ええと……お、すごいじゃないか。レベルは17。スキルのほうも平均20か。よく2~3時間でここまで上げれたな。まぁ、またモンスターを見つけてはサクッと瞬殺のサーチ&デストロイをしてたんだろうけど。……ああ、悪い悪い、狩りあら帰ってきたばっかだし、疲れてるだろ? 俺の作業ももう少しで終わるから、先に和室で休んでていいぞ。いやー、俺も疲れてるのかね? 少し根を詰め過ぎたかも……」

「アカツキ様」


 少し、強めの口調でユリィが俺の名前を呼ぶ。無表情ながら、どこか問い詰めるような雰囲気で、俺の顔をじっと見つめている。でも、その視線に責めるような色はなく、どこまでもこちらを心配するような色が含まれている。


 じっと見つめてくるユリィ。俺は後ろめたさからふいっと顔をそらしてしまう。訳もなく素材をいじったい魔力を動かしたりする。……ただの現実逃避だ。


 そんな俺を見つめていたユリィは、張り詰めていた糸を緩ませるように、まとう雰囲気を柔らかいものにした。そして、つかつかと俺のほうに近づいてくると……。


「えいっ」

「いだっ!」


 ぺしっ、と頭を叩かれた。VR内では痛みが軽減されるものの、衝撃はそのままなので、結構痛く感じる。叩かれたところを両手で抑え、いきなり何を……と、文句を言おうとユリィの顔を真正面から見る。でも、俺は何も言葉を発することができなかった。


 ユリィは、笑っていた。あの、柔らかで温かい、春の陽だまりのような笑顔。不意打ち気味にそれを見てしまった俺は、どうしようもなく胸が高鳴るのを感じた。


 静かに俺を見ていたユリィは、桜の花弁のような唇をそっと開き、言葉を紡ぎだす。


「アカツキ様? もしかして、わたしににばかり負担をかけていて、申し訳ない……なんて、思ってますか?」

「……エスパー?」

「違います。アカツキ様が分かりやすいだけです。だいたい、今回の緊急クエストだって、本当ならアカツキ様がそんなに気負わなくてもいいんですよ?」

「で、でも……俺がゴブリンを倒さなかったら、こんなことにならなかっただろうし……。そもそも、ゴブリンの集落を見つけた時点で、さっさと逃げるなりすれば……って、いたっ!」


 また叩かれた。今度はおでこである。ユリィ、力のステータスが高いから、貧弱な俺の物防ではかなりの痛みがある。若干涙目になりつつユリィに抗議の視線を向けるが、ユリィはどこ吹く風といった様子で話を続ける。


「アカツキ様のそれは、もうどうしようもないことです。起きてしまったことをいつまでも考えていても仕方ありません。過ぎてしまったことをどうにかするなんて、考えるだけ無駄、というやつです」

「そ、そうだけど……。俺がうかつなことをしたのは事実だし……」

「……アカツキ様って、結構めんどくさい性格してますよね」

「うっ」


 め、めんどくさいって……。いや、まぁ確かに一度へこむとなかなか立ち直れなかったり、それこそ昔は容姿のことでいじめられると、うじうじしたりしてたと思うが……。


「まったく……。アカツキ様は、まじめすぎます。責任感が強くて、相手のことを思いやれるのはアカツキ様の魅力だと思いますが、程度が過ぎると、身動きが取れなくなっていしまいますよ?」

「……はい」

「起きてしまったことを後悔し、反省するのはいいことです。でも、今重要なのは、クエストを全力でクリアすること。違いますか?」

「おっしゃる通りです、はい」

「それに、私がいつ迷惑だといいました? 私はアカツキ様のメイドなんですから……こういう時は、頼ってほしいです」

「…………」


 ぐうの音も出ないとはこのことだった。俺がうじうじと考えていたことをすべて見破られてしまっている。なんかもう、情けないというより、申し訳ないという気持ちになっている。そんな風に俺が反省していたら、ユリィはこちらに手を伸ばしてきた。また叩かれるのかと思い、反射的に首をすくめたが……感じたのは痛みではなく、ユリィの手の感触。ポンポンと優しくなでられている……。って、うわぁあああああ! なんだこれ、めっちゃ恥ずかしい! いや、すごく気持ちいいんだけど、でも、気恥ずかしさが半端じゃない。


「ゆ、ユリィ! これはだめだ! いや、何がダメかはよくわかんないけど、なんかダメになる気がする!」

「わ、私も、興味本位でやってみましたが……。これ、すごく恥ずかしいです。でも、アカツキ様の反応が可愛い……」

「可愛いって言うな!」


 たぶんユリィも、だいぶへこんでいた俺を慰めてくれようとしたんだろうが、恥ずかしい思いを互いにしただけだった。誰も幸せにならない結果って、こういうのを言うんだろうな……と考えたら、自然と笑いがこみあげてきた。それをこらえきれずに、ふっ、と噴き出すと、ちょうどクスリと微笑んだユリィとタイミングが完全に一致した。それがなんだかおかしくて、また笑ってしまった。


「ははっ、はぁ~~~。うん、元気出た。ありがとな、ユリィ」

「いえ、主が落ち込んでいるときに、その背中を押すのも、メイドの役目ですから」

「ユリィって、結構そのメイド服……というか、メイド自体、楽しんでるよな」

「そ、そんなことありません! ただ…………アカツキ様のお力になれるのが、うれしいだけです」

「ん? 悪い、最後のほうなんて言ったのか聞こえなかったんだけど、なんだって?」

「い、いえ、大したことじゃないですからっ!」


 ユリィのおかげで、だいぶ持ち直した俺は、アイテムの製作をサクサクと済ませ、ゴブリン戦への準備を終わらせた。一度ログアウトして(今度はユリィにちゃんと伝えていった)、食事なんかも済ませて、これでいつでも戦えるという状態にした。


 作戦の決行は、ゴブリンたちが集落を出発するその瞬間。残っている時間を、レベリングに充てて、できる限りのことはやった、という感じだ。


 あっという間に時間は過ぎ、ゴブリンたちが広場に集結している。その数は三百以上。それをたった二人で殲滅しようというのだ。嫌でも緊張する。


 でも、やるしかない。全力全開で、今できることをしよう。できなかった時のことを考えるのは、失敗した後だ。


 


 作戦、開始。

次から、ゴブリン戦です。



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