13 ゴブリン対策と緊急クエスト 殺るしかないなら、殺ってやるよ
日間ランキングで三十位以内……。夢じゃないかな?と三回ほどブラウザバックしました。
「それでは、第一回、ゴブリンの集落をどうしよっか?作戦会議、すた~と~!」
「わー、ぱちぱちぱち。……どうでもいいですけどアカツキ様、最後の『すた~と~!』は、もしかして私の真似ですか?」
「おう、そうだけど」
「……恥ずかしいので、やめてください」
ゴブリンの集落を見つけた俺とユリィは、いったん亜空工房に戻っていた。さすがにあの数は今すぐどうこうできるような数ではないし、それ以外にもいろいろとあって、キチンと準備をしようということになったのだ。戦闘に関しては猪突猛進を素で行くユリィも、賛成してくれた。
さて、タイトルコールも終わったことだし、本格的な対策を考えていこうか。
「まず、ゴブリンの数だけど。見える範囲だけでも百匹は越えてたな」
「洞窟の中や、あの集落の外にも要るでしょうね。上位種らしき個体もいました」
「そうなると、どれだけ低く見積もっても、ノーマルなゴブリンだけで百以上。それに加えて上位種もいるんだろ?あの洞窟の奥がどのくらいになってるのかもわからないし……。これって二人で何とかなる案件なのか?」
「難しい……と、思います。ゴブリンを倒すだけなら、私一人でも簡単です。しかし、数が多すぎる」
「戦いは数だよ、アニキっ! ………正攻法じゃ、絶対無理だしな……。畜生、自分の運の悪さが恨めしい……」
「それは……まぁ、確かに。ゴブリンの集落を見つけただけならともかく、まさかあんなことになってしまうなんて……。本当に筋金入りですね、不運が」
そう、ゴブリンの集落を見つけただけなら、俺とユリィがここまで頭を悩ませる必要はないのだ。見なかったことにすることもできたし、もう少しレベルを上げてからの殲滅作戦を結構することもできたわけで……。
それなのにも関わらず、こうして俺たちがうんうんと唸っているのには、ゴブリンの集落を見つけた直後に起こった、ある出来事が関係している。そして、俺もユリィも、その出来事が、俺、東雲咲樹の不幸体質にて引き起こされたものだと思っている。
その、「不幸な出来事」がどのようなものかというと、時間は、一時間ほど前までさかのぼる。
「いちにさん……。とてもじゃないが、数えられるような数じゃないな。まぁ、百は確実に超えてるか」
「そうですね。それにしても、森の奥にこんなところがあったのですか。プレイヤーが迷い込んだら、なぶり殺しにされそうですね」
「怖いことを言わないでくれ。簡単に想像できちゃうから。……まぁ、ここに手出しするのは、やめておこう。この数を倒し切る自信はないし、倒し切れなかったら地の果てまで追いかけられそうだ」
「ですね」
満場一致で、ゴブリンの集落のことは見なかったことにして、その場を立ち去ろうとしたとき。不意に、俺らの後ろの茂みが揺れ動き始めた。地面から突き出た大きめの岩陰から集落の観察をしていた俺たちは、慌てて臨戦態勢に入る。
茂みから姿を見せたのは、案の定ゴブリンだった。ただ、今朝倒したフォレストゴブリンのように緑色ではなく、茶色の肌をしていた。
「GYAGYAGYAGYAッ!」
どうやらこのエンカウントは茶ゴブリンも予想外だったらしく、狼狽した様子だった。このゲームはモンスターのAIがすごすぎると思う。こいつらをデータの塊だと考えると、激しく違和感に襲われる。
腰に差していた剣を、茶ゴブリンが抜き去るよりも早く、俺はその胴体に蹴りを叩き込んだ。とっさだったので、【重蹴】は発動させていないただの蹴りだったが、茶ゴブリンの行動を阻害することに成功する。
その隙をついて、ユリィの剣が降りぬかれる。二振りの鉄剣は銀線を宙に描きながら茶ゴブリンを十字に切り裂く。アーツ、【十文字】だったっけ? それがとどめとなり、茶ゴブリンは粒子に変換された。
「……ふぅ。びっくりした。いきなり出てくるなよ……」
「モンスターに愚痴を言っても仕方がありませんよ。それより、戦闘音でゴブリンたちに気づかれてないといいのですが……」
と、緊張感を緩めた時だった。ピロリン、というシステムメッセージが送られてくる音が脳内に鳴り響いたのは。
なんだろうかと思いつつ、メニューを開き、送られてきたメッセージの内容を確認する。そこには、目を疑うような内容が書かれていた。
《プレイヤーの皆さまへ、緊急クエストが発生しました。詳細は、下のクエスト説明をお読みください。
クエスト名:ゴブリンの強襲
クエスト内容:緑の森の奥深くにゴブリンの集落がある。そこでゴブリンの王、ゴブリンキングが生まれたようだ。ゴブリンキングは配下のゴブリンをまとめ上げ、大軍団となってファストの町に攻めてくる。ゴブリンキングがゴブリンたちをまとめ上げるよりも先に、ゴブリンの集落を壊滅させるか、攻めてきたゴブリンの集団を殲滅せよ!
失敗ペナルティ:ファストの壊滅。
適正レベル:15~
ゴブリン軍団が集落を出発するまで:残り30時間
このクエストに失敗すると、ファストの冒険者ギルド、復活ポイント、宿屋、各種店が使用不可能となります。また、ゴブリンが集落を出発した後の戦闘では、NPCと協力しての戦闘となります。クエストの報酬は、貢献度によって変動します。それではプレイヤーの皆さま、クエストクリア目指して、頑張ってください。》
それを読み終えた俺と、横から画面をのぞき込んでいたユリィは、その体勢のままたっぷり一分ほど固まったあと、疑問の声を何とかひねり出した。
『…………………………………はいぃ?』
もう一度最初から読んでみる。ぱちぱちと瞬きを何度もしたり、目をごしごしとこすってみたり、自分の頬をつねってみたりするが、書かれている内容は変わらない。………つまり、これは現実ということだ。それが分かった途端に、テンパる俺とユリィ。
「ど、どうしようどうしよう! これって俺らがあの茶ゴブリンを倒したせいだよな!? タイミング的にそれしか考えられねぇもん!」
「お、落ち着いてくださいアカツキ様! その可能性が限りなく高いのは確かですが、まだそうと決まったわけではありませんよ!」
「そ、そうだよな……。うん、もしかしたら全く別のプレイヤーが、クエストフラグを立てたのかも『ピロリン』…………」
「あら? また、システムメッセージですか? 今度は何を………って、アカツキ様? どうしてそんなに汗まみれになっているんですか?」
「……『クエスト発見者へ。クエスト発見者はこのクエストの参加が義務付けられます。また、クエストが失敗した場合のペナルティが個人で別に発生します。クエストに参加しなかった場合も、ペナルティが発生しますので、お気をつけください』……だとよ。まぁ、クエスト発見者であることが明確な事実になったことに加え、参加しないとペナルティ。失敗してもペナルティって……………。…………どうなってるんだぁーーーー!!」
「あ、アカツキ様! そんなに叫ぶと、ゴブリンに気づかれて……」
「GYAU?」
ふと、焦りまくる俺らの耳を、しゃがれた声が打った。ヒートアップしていた心が急速に冷めていく。俺とユリィは、ギギギ……と、さび付いた機械のような動きで声がした方を向く。
そこには案の定、岩陰に隠れていた俺たちを覗き込む、ゴブリンがいて……。
『て、撤収ぅううううううううううううううううっ!!!』
俺とユリィは、そう叫びをあげながら、全速力で逃げ出すのだった。
そうして逃げ出した俺たちは、ゴブリンたちの集落から十分に離れたところで、亜空工房に逃げ込んだというわけだ。もう少しでゴブリンたちになぶり殺しにされてたのかと思うと、背筋が凍る。
自分の不幸体質がかなりのものだとは知っていたが……。このゲーム内では、それがかなり顕著に出ている気がする。森を歩いていただけで回避不可能な緊急クエストにぶち当たるとか、どんだけだよ……。
俺が自分の不幸体質に遠い目をしているところに、ユリィがちょっと控えめに話しかけてきた。
「あの……これはもう、ほかのプレイヤーと協力した方がいいのでは? さすがに私たち二人では厳しすぎますし……。ゴブリンの軍団が森を出てから、ほかのプレイヤーと一緒に戦ったほうがいいと思います」
「まぁ、最もな意見だな。俺も最初はそう思ったんだがなぁ……。というか、ユリィってガンガン行こうぜ以外の作戦も考えれたんだな」
「……アカツキ様は、私のことを脳筋だと思っていませんか?」
「実は、割と」
「ひどいですっ!」
「ユリィの戦い方を見てるとなぁ……まぁ、それはいったん置いといて『置いておかないでください』、ほかのプレイヤーと協力する件なんだが、これが無理っぽいんだ」
「……無視ですか……。……それで、どうして無理なんですか?」
「じつはさっき、サーヤに連絡して、ファストの町の様子と、プレイヤーたちの成長具合を大体教えてもらったんだ。そしたら、今現在の段階で、レベルのトップが、5」
「え……。そ、それは低すぎではないですか? レベルが5って、さすがに……」
「いや、これは正常だ。むしろ、俺らのレベルが上がるペースが異常なんだよ」
俺の持つ称号、[挑戦者]。取得経験値を1.3倍にする効果を持つ。パーティーを組めないというデメリットに見合った効果をもつ称号だ。この称号の効果。そして、フィールドの違いもある。現在、プレイヤーたちはファストの周りにある草原でレベル上げをしているらしい。その草原と、俺たちがレベル上げをしている《緑の森》では、出てくるモンスターの強さも、倒した時にもらえる経験値もこちらの方が高い。あと30時間でほかのプレイヤーたちが適正レベルに達することができるかどうか……。可能性はゼロではないものの、限りなく低い。
そもそも、俺らが森のモンスターを倒せているのは、ユリィの高いプレイヤースキルと、[遅延]のおかげだからな。そう考えると、ユリィ様様である。
「アカツキ様、どうしたんですか? いきなりニヤニヤして······」
「ん、ちょっとな。ユリィがいてくれて、本当に良かったって思ってただけだ」
「ふぇ!? そ、そういうことをさらっと言うのは、卑怯です······」
赤くなってうつ向くユリィ可愛い、じゃなくて。
このクエストは、発生するタイミングが大幅にずれてしまっているのだ。俺たちがこんなにも早く見つける事は、想定されていなかったのだろう。そのせいで、他のプレイヤーたちの拠点であるファストが壊滅してしまうのは忍びない。それに、サーヤにも迷惑が掛かる。サーヤには、面倒をかけることなくゲームを楽しんでほしい。
その為にも、ゴブリンには全滅してもらわなければならない。策を、練らなければ。
メニューから、ステータスや持っているアイテム、取得可能スキルなどを見ていく。それに目を通しているうちに、作戦っぽいものが頭の中で組上がっていく。だいたいの骨子が出来上がり、思わず笑みが浮かんでしまった。
出来るかどうかは分からない、でも、殺るしかないなら、殺ってやるよ、ゴブリンども。
たくさんの人が読んでくれているみたいで、とてもうれしいです。
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