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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
12/62

12 一度目のログアウトとゴブリン これまたド定番のモンスターだな

あの有名モンスターがついに……!(おおげさ)

「ん……もう、朝……か?…………ッ!!」


 目覚めて一番最初に目に飛び込んできたのは、至近距離にあるユリィの寝顔だった。安心しきったような寝顔は、いつもの無表情なクールさとは真反対の、柔らかな感じがした。


 ……ああ、そういえば、昨晩。


 

「寝るところがない?」

「はい、実はログアウトようの部屋なんですが……」

「あの純和風の部屋か。あそこで寝ればいいんじゃないか?」

「確かに、寝具はありました……一組だけ」

「……………………どうしたら?」

「わ、私に聞かないでください。どうせまたあのアホの仕業ですから……」

「開発者か。ていうか、ユリィって睡眠が必要なんだな」

「当たり前です。人なんですから、寝なければ活動できませんよ」

「…………(ユリィって、自分がAIって名乗ったこと、忘れてるよなぁ)」

「どうしたんですか?」

「いや、なんでもない。布団はユリィが使ってくれ。俺は工房のほうで雑魚寝するわ」

「そ、そうはいきません。主を部屋から追い出すなんて、従者失格です」

「あぁ、そういえば。俺ってユリィの主だったんだっけ? まったく意識してなかったから忘れてたわ、うん」

「とにかく、アカツキ様が寝具を使ってください」

「えー……。女の子を雑魚寝させる方が、男失格な気がするんだけど。……じゃあ、一緒に寝る?」

「な……」

「寝具って敷布団掛布団とあるんだろ? 寒かったりするわけじゃないし、掛布団を敷布団の代わりにすれば、畳に直接寝ることもないだろ? ユリィがそんなに主従関係にこだわるなら、掛布団のほうをユリィが使ってくれ。まぁ、一緒の部屋で寝るって言うのが嫌なら、別の方法を……って、どうした? そんなに真っ赤になって」

「い、いえ……なんでも、ないですぅ……」



 と、まぁ、こんなやり取りがあり、こんな感じで寝ることになったわけだが……ユリィの寝顔の破壊力がヤバいです。


 これ以上見つめているのは、いろんな意味で危険である。さっさと起きよう、うん。


「今の時間は………六時か。現実だと十九時半くらいか……。いったんログアウトして、ササッと飯を食ってくるか」


 ということで、メニューを開いて、ログアウトを選択。意識が一瞬だけ遠くなり、次の瞬間には見慣れた天井が目に入った。


「……おお、戻ってきたのか。さ、飯にしよう」


 ベッドから立ち上がると、体が凝り固まってるのが分かった。ベッドに寝っぱなしだったからだろう。固まった体をほぐしながら、キッチンに向かう。冷蔵庫の中を確認して……ふむ、今度から、夕食は作り置きにしておくか。


 材料を取り出して、ササッとチャーハンを作る。白飯を冷凍しておいてよかった。作ったチャーハンを掻っ込み、食べ終わったら食器を片づける。


 それらが終わった時には、二十時になっていた。三十分くらいかかったから………。うん、向こうでは二時間くらい立ってるのか。すぐに戻ろう。


 …………。

 ………………。

 ………………………。


 二度目のログイン……って、うわっ!


「…………どこに行ってたんですか?」


 ログインした俺を待っていたのは、いつも以上に無表情なユリィだった。でも、壁際で小さくなって俺をじっと見つめるユリィは、どこか捨てられた子犬のような感じだった。


「わ、悪い。ログアウトしてリアルで飯食ってた」

「……そうですか。確かに、そんな時間ですものね? しかし、目を覚ましてみれば、さっきまで一緒にいたはずの人間の姿がなく、慌てて探してみても、どこにもいない。書置きの類もなく、途方に暮れながら一時間以上ずぅーーっと放置された私に対して、もう少しかけるべき言葉があるのではありませんか?」

 

 ずっと、を強調して言うユリィは、全身から不機嫌ですオーラを隠そうともせずに放出していた。そうなればもう俺に残された手は、平謝りしか残っていない。


「……私が悪うございました本当に申し訳ございません」

「……まぁ、いいでしょう。許してあげます」

「ありがたき幸せ」


誠心誠意、心を込めた日本の伝統的謝罪、DOGEZAを実行。どうやら許してもらえたようだ。


 起き上がってから、ふと、ユリィの顔を見てみると、目元が少し赤くなっているように見えた。……もしかして、泣いてた?そう考えると、罪悪感が半端ない。


 そして気づけば、俺はユリィの頭をなでていた。


「本当に悪かったな。不安にさせて。次からは、ちゃんとログアウトすることは伝える。……寂しかったのか?」

「……そ、そんなことありません。あ、頭をなでないでください! 子供じゃないんですから……」

「っと。ははっ、確かに。失礼だったな。サーヤのやつが泣いたりしてるときは、よくこうしてやってたから。その癖でつい……」

「私はアカツキ様の妹ではありませんし、泣いていません。……でも、アカツキ様のなで方、上手でした……」


 ぽつりとそういってから、ハッとなって顔を赤くするユリィ。どうやら失言だったらしい。可愛いなぁ…。


「な、なんでそんな風に優し気に笑うんですか?どうしてそんな温かいまなざしを? ……うぅ……は、恥ずかしいのでやめてください……」


 恥ずかしがるユリィをニコニコと眺めていると、すごく癒される。そんなしょうもなことを発見した瞬間だった。

 


 ユリィを見て癒されるのもほどほどに、俺とユリィは森の中を、モンスターを求めてさまよっていた。時折、意識が自然と誘導されるところがあり、そこを調べて素材を採集し、またモンスターをさがしてさまよう……。を繰り返していた。


「薬草、毒草、毒草、毒草、毒草……。毒草多いな」

「それは、何になるんですか?」

「うーん、毒薬と解毒ポーションかなぁ……? 試してみないことにはわからん」

「毒があるのに、毒消しになるんですか?」

「薬草と混ぜると、そうなる予感がする。毒の性質と回復の性質がうまくかみ合ってくれれば、だけどな。もし生命活性と毒が反応して、強毒とかになったらシャレにならん。まぁ、それをうまくコントロールしてこその錬金術だと思うんだが…」

「よくわかりませんが、大変なんですね。やってることは素材を魔法陣において、実行って言ってるだけなのに……」

「うん、ユリィって本当に細かいこと駄目なんだな」


 しかし、毒草かぁ……。黒鉄竜に効果があるかを考えると、無効にされるところしか想像できなかった。状態異常系が効果あるボスっているのか?ある程度レベル上げしたら、本格的に黒鉄竜の対策を断てなくちゃな。


 採集を終えて、また森を歩く。さすがに二日目でこの森にくるプレイヤーはいないのか、いまだにプレイヤーの影を見たことはない。一週間もすれば、ここにもプレイヤーが来るようになるかもしれない。その前に、拠点を変える必要があるかな……。


「アカツキ様、来ました」

「お、来たか。また狼かな?」


 この森に出現するモンスターは、最初にエンカウントした緑色の狼――フォレストウルフ。土魔法を使ってくる薄緑のキツネ――グリーンフォックス。全長二メートルほどのイモムシで、口から糸を吐いてくる――ラージキャタピラー。刺激色の羽をもつ蝶――ポイズンバタフライ。俺たちがこれまで遭遇したモンスターは、この四種だけだ。この中のどれかか、それとも新種か……。


 茂みをかき分け、その姿を現したのは、周りの色と同化するような色をした、醜悪な顔をした子鬼。体の大きさは、小学校低学年くらいか? 錆びた剣や、ボロボロの木の盾を装備している。それが、ひいふうみい……七匹。今まで戦ってきた中では、一番数の多い群れだ。


「ゴブリンか。これまたド定番なモンスターだな。森にいるから、フォレストゴブリン?」

「倒してみればわかります。いざっ!」


 ユリィが両手に鉄剣を構えてゴブリンの群れに突っ込む。相変わらずの猪突猛進ぶりだが、それはゴブリンたちを焦らせることに成功する。一応、隊列的なものを組んでいたゴブリンたちに、ユリィが真正面から突っ込むことで、それを崩すことに成功した。そして、ユリィが振るった右手の剣が先頭にいた片手剣もちのゴブリンの首をはね、左手の剣はその隣にいたゴブリンの心臓を刺し貫く。


 二体を瞬殺したユリィだが、そこで足が止まってしまう。ユリィは力と速のステータスは高いが、防御関連のステータスは低い。攻撃を喰らったら大きなダメージを受けてしまう。


 立ち止まったユリィに、槍もちゴブリン二匹の突きが撃ち込まれる。


「『穿て』!」


 ユリィ目がけて突き出された槍に二発。槍を持っているゴブリンの顔面にそれぞれ二発。遅延しておいた【石弾】を放つ。槍ははじかれ宙を舞い、ゴブリンは顔面を陥没させながら吹き飛ぶ。吹き飛んだゴブリンは、ユリィの振るった斬撃に沈む。


 ユリィが一番槍として突っ込み、敵を動揺させる。その間にユリィはできる限り敵にダメージを負わせ、後ろから俺が魔法を放ち、ユリィへの攻撃を撃退したり、倒し切れていない敵にとどめを刺したりする。それが大体の戦闘スタイルだ。[遅延]によって任意のタイミングで魔法を放てるのが大きい。[遅延]のレベルが上がったことで、発動を遅らせることができる魔法は五つに増えている。先ほど【石弾】を四発放ったので、残りは一発だ。


「『斬』!」


 残しておいた魔法は【風刃】。鍵言とともに放たれるのは、十の刃。飛翔するそれは、ゴブリンたちに相対しているユリィにかすりもせずに残りのゴブリンに殺到した。全身を風の刃で切り裂かれ、倒れ伏すゴブリン。少しオーバーキル気味だったかな?


「おつかれ、ユリィ」

「この程度では疲れませんよ。それと、レベルが上がったみたいです」

「俺も今、8レベになったところだ。スキルのほうは……お、[風魔法]と[土魔法]が10になった。新しい魔法を覚えたな」


 新たに習得した魔法は、【風矢】と【石壁】。風の矢を飛ばす攻撃魔法に、石壁を作り出す防御魔法といったところか。それにしても、[生命魔法]全然使わないな。スキルレベルが全く上がらないんだが……。


 その後、何度かの戦闘を挟みつつ、森の中を散策した。どうやらかなり広い森らしく、一向に途切れる気配がない。というか、俺らの開始地点は、どれだけ深い森の中だったのだろうか?


 だが、しばらくして景色に変化が訪れる。地面に石が増えてきて、さらには大きな岩が地面から突き出るように生えてくるようになった。出てくるモンスターの種類も変わっている。


 木と岩が交互に生えているような景色の中を歩いていると、どこかから、ざわめき声のようなものが聞こえてきた。ユリィと顔を見合わせ、声がした方に近づく。


 そこは、木があまり生えていない広場のようなところだった。向こう側には岩肌の斜面が見え、そこにはたくさんの洞穴や洞窟がある。


 だが、その広場と斜面、そして洞窟には、数えるのが嫌になるほどの緑色の子鬼がいた。その中には、一回り体の大きなゴブリンもいる。


 つまり、この場所は……。


「ゴブリンの、集落」

少数で大群を撃破するのって、やっぱりロマンですよね。



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