11 錬金術とデメリット 第一回、アルケミストになろうっ!
叡智がチートすぎる気がしたので、書いてみました。
モンスターを探して森をさまよい、サーチ&デストロイを繰り返していたら、あっという間に夜になってしまった。俺とユリィのレベルは五まで上がっており、スキルは、全く使わなかった[生命魔法]と[錬金術]以外は育っている。今のステータスはこんな感じだ。
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名前 アカツキ 性別 男 種族 カーバンクル 職業 魔法使い
レベル 1→5
HP 100→150
MP 150→300
力 3
物防 3
知 8→18
魔耐 8
速 4
器用 4
SP 0→10→0
スキル
[風魔法Lv1→9][土魔法Lv1→9][生命魔法Lv1][格闘術Lv1→6][錬金術Lv1][遅延Lv1→11](上限数10)
称号
[叡智の宝石][白百合姫の主][挑戦者]
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SP?全部知のステータスに振りましたが何か?今のところ、俺が格闘術だけでやらなくちゃならないモンスターとか出てこないし、ユリィがうまいこと敵のヘイト……敵愾心をコントロールしてくれているので、最後のほうは俺にモンスターが接近することすらなかったくらいだ。後方から魔法を打つだけの簡単なお仕事です。
メイドに守ってもらいながらモンスターに魔法を放つ俺。誰かに見られたりしてないよね?もしみられてたりしたら、恥ずかしさで死ねるんだけど。いや、ゲームだから大丈夫って言う人もいるかもしれないけど、女の子に守ってもらう男って言うのも、ねぇ?
「安心してください、アカツキ様。アカツキ様の外見では、姫とメイド、くらいにしか思われませんから」
「……まぁ、自分でもうすうすそんな感じなんじゃないかと思っていたよ……。少しでいい、少しでいいから、男らしさを……」
「男らしさ……こうして一緒にいる私すら、たまに素で女の子だと思うときがありますから。初対面でアカツキ様を男だと判断するのは、至難の業なのでは?」
「それは暗に俺には男らしさが皆無だと言っているんだな?……たしかに、俺を男だと初対面で見破ったのは、サーヤだけだけどさ……」
「それは…………なるほど、そういうところでも『特別』なのですね……」
最後にユリィが何かを言っていたが、ちょうど机の上に置いていた素材の山が崩れた音と重なって聞き取れなかった。なんて言ったんだろう?
「ユリィ、最後のほう、なんて言ったんだ?」
「いえ、何でもありません。それにしても、ずいぶんと集めましたね……」
はぐらかされてしまったか。まぁ、重要なことだったら、隠したりしないだろうから、個人的なことだったのだろう。ユリィがそんなことをしないということは、わかってるつもりだ。
今俺たちは、森の木が密集しているあたりで、亜空工房に入っていた。夜の狩りは、視界がほとんど聞かないのに加え、モンスターの凶暴性とステータスが上がるらしいのでやめておいた。暗闇を見通すスキルとか、あればいいんだけど。あとは光源を作り出すスキルとか?[光魔法]?
……え?夜になったのに、ログアウトしなくてもいいのかって?
確かに、俺がこちらにログインしたのは十二時、そして今の時間は二十時だ。八時間ぶっ通しでプレイしていたことになる。キャラメイクやらチュートリアルがあったから、森で狩りをしていた時間は四時間くらいかな?まぁ、モンスターを探してさまよっている時間のほうが長かったから、戦闘時間は一時間ぐらいだろう。
閑話休題。
実はこのゲーム。現実とは異なる速度で時間が流れているのだ。現実の一日は、この世界の四日。一週間でひと月すぎる計算になる。現実の四倍ということだ。要するに、こちらで八時間過ごしたとしても、リアルでは二時間しかたっていないってこと。ほんと、科学の力ってスゲーわ。
それに加え、俺はいま夏休み。リアルのことなどほとんど気にせずに遊べるということなのだよ!フゥーハハッハハ!これはかつる!ゲーム天国だぜ!…………うし、テンション下げよう。アホなことしてないで、本来の目的に戻ろうか。
「それでは、第一回、アルケミストになろうっ、を始めます!イエイッ!」
「………………わー、ぱちぱち」
「うん、無理しなくていいぞ?俺もノリでやってみただけだ」
夜の戦闘ができない時間を利用して、[錬金術]のレベル上げを行おうと思ったのだ。そのための素材アイテムはたくさんあるし。
亜空工房には、錬金術に必要な錬金魔法陣。素材の加工に必要なビーカーやらすり鉢やら。水が湧き出てくる壺。アイテムをしまっておける箱など。錬金術を始めるには十分すぎるほどのアイテムがそろっていた。
「とりあえず、ポーションを作ってみようと思う」
「まぁ、基本中の基本ですね」
と、いうわけで、薬草と水を用意します。この二つを錬金術魔法陣にのせて……。
「――――【実行】!」
俺がそう鍵言を唱えると、錬金魔法陣が光り輝き……。試験管みたいな瓶に入った、緑色の液体が完成した。
【通常アイテム】ポーション HP回復+12%
うん、できた。そして瓶がどこから来たのかとかは気にしてはいけないことなのだろう。
「これが、錬金術ですか?何と言いますか………あっけないですね」
「まぁ、これだけならな。今のは何も考えずにただ素材をそのまま載せただけだ。いろいろと工夫することができるんだろ」
「そういうものなんですか?……私は、こういった細かいことはあまり得意じゃありません」
「それはまぁ、今日の戦い方を見てればわかる気がするわ」
ユリィの戦闘センスは、喧嘩なんてほとんどやったことのない俺から見ても、化物レベルだとわかる。しかし、その戦い方は……一言で表すなら、イノシシ。猪突猛進ガールだった。
モンスターを見つけたと思ったら、もう飛び出している。そしてその戦闘は攻撃一辺倒。相手の攻撃は、それ以上の攻撃で押しつぶす。攻撃は最大の防御を地で言っているスタイルだった。そのおかげか、モンスターのヘイトはほとんどユリィに集まり、俺はユリィが対処できなさそうなモンスターを魔法で打ち倒すだけだったんだけどね。
ユリィは、細かいことは苦手なようだが、錬金術には興味があるらしく、見学しているとのこと。
さてさて、まだ時間も素材もたっぷりあることだし、張り切っていきましょうか。……と、その前に、一応試しておくか。
「[叡智]、発動」
[叡智]を発動させ、スキル項目の中から[錬金術]を選択する。どんな情報が飛び出してくるのやら……。
[錬金術]
魔力によって、素材を掛け合わせ、アイテムを作り出すスキル。
素材と呼ばれる物質には、性質が存在する。錬金術とは、その性質を強化、合成、劣化、融合、分解する魔法である。素材に秘められた性質を正確に理解し、それを引き出し、昇華することが錬金術の基本であり、奥義である。
………………………うわぁ。
これ、本当に一プレイヤーが持っていてもいいスキルなのだろうか?[叡智]の有能性に、今更ながら怖くなる。たぶんだけど、素材の性質とやらは、[叡智]で確認できるのだろう。試しに薬草を調べてみたら、草、生命活性、回復、苦味という四つの性質があることが判明した。チート……いや、正当な対価だと思っておこう。
町に入れないというデメリットがどれほどのものなのかを想像してみる。
まず、他のプレイヤーとのやり取りが困難となる。情報収集やプレイヤーメイドの装備品などを手に入れる機会が極端に減ってしまうということ。
次に、NPCとの交流。街に入れない=そもそもNPCと会えない。という方程式は、残念ながら当てはまってしまう。モンスターが闊歩しているような世界で、好んで町の外に出たがる住民などいないだろう。ということは、NPC関連のイベントを俺は受けられないということだ。ていうか、カーバンクルの特徴から考えると、NPCに見つかる=襲われるという方程式が立ってしまい、さらにそれを迎撃でもしようもなら、NPCがクエストとして俺の討伐を依頼することもあるかもしれない。ていうか、俺の運のなさから考えると、十二分にあり得ることだ。
この『神話世界オンライン』のNPCは、文字通り生きている。詳しいことは知らないが、公式サイトにはそう書かれていた。このディストピアは、文字通り、もう一つの世界なのだと。その世界のルールの中で、カーバンクルはとんでもないお宝のような存在なのだろう。
そんな周りが敵だらけの世界で生きるなら、このくらいの能力は必要なのかもしれない。ま、こじつけだといわれたらそれまでだが。
プレイヤーにとっても、俺は倒せば大量の経験値が手に入り、なおかつ何度でも復活するという存在だ。考えたくはないが、俺を経験値稼ぎの装置化することを考えるやつらもいるかもしれない。鬱になりそうな話だ。
……ま、当面はプレイヤーとの接触を避けて、黒鉄竜を倒すためにいろいろと頑張ってみますか。
まぁ、こういった理由で叡智の正当性を説いてみる………。なお、批判や批評は超受付中です。どんどん書いてください。できる限り返信しますので。
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