10 叡智の力と二人の初戦闘 ユリィの幸運がすごすぎる件
まとも(?)な戦闘が入る回です。
サーヤとの通信を終えた俺とユリィは、さっそくモンスターを狩ることになった。ちなみに、俺たちが飛ばされたフィールドは、《緑の森》というファスト周辺では一番レベル帯が高いフィールドらしい。そんなところに飛ばした開発者に何度目かわからない殺意を抱きつつ、森の中を進んでいく。今のところ、モンスターらしき影はない。
「ところで、ユリィはどんなスキル構成なんだ?武器とかも聞いておきたいんだが」
「私のスキルは[剣術]スキルと[二刀流]スキル。それに[力上昇]と[速度上昇]、最後に[身軽]スキルです」
「わかりやすい近接アタッカーだな。種族と職業は?それとステータスも」
「種族は特殊種族の戦乙女。職業は剣士。ステータスは力と速が高く、物防が低いです」
「なるほど。ありがとう」
ふむ、ユリィは近接戦闘を得意としているのか。ならモンスターと戦うときは、ユリィに前衛を任せて、俺は魔法で攻撃&回復補助。俺が接近されたら[格闘術]で何とかするって感じでいいか。それにしても、戦乙女……なかなか似合ってるじゃないか。
考えた作戦……と呼べるほどのものでもないが、とりあえずの方針みたいなものをユリィに伝える。ほとんど間髪入れずに「それでいいですよ」と帰ってきたので、ユリィも同じ考えだったのかもしれない。
「そういえば、ランダムスキルの書なるものがあったな。モンスターに出会う前に使っておくか?」
「ああ、お詫びの品の……。でも、アカツキ様。アカツキ様がそれを使っても大丈夫なんですか?」
「うっ」
そう、お詫びとしてもらったこれだが、俺が使用したら、かなりの高確率でゴミスキル。もしくはスキルがかぶったりするだろう。この手の代物で俺がはずれ以外を引いたためしがない。
どうするかなーと、アイテム欄から取り出したランダムスキルの書を眺める。見た目は重厚そうな革張りの本だ。色は茶色で、古めかしい魔導書みたいな雰囲気だ。もういっそ、工房に飾っておくか?
「一つ提案なのですが……。そのランダムスキルの書、私が使ってみてもいいですか?」
「え?ユリィが使いたいって言うならいいけど……どうせ俺が使ってもゴミスキルが出るだけだろうし」
たぶん[掃除]とか出るぞ。そうじゃなかったら[読書]とか。いや、そんなスキルがあるかどうかは知らないけど。
「いえ、そうではありません。このランダムスキルの書。使用した後、判明したスキルを覚えるかどうかは自由なんです。簡単に言えば、ランダムスキルの書から○○の書に変化するということです。ですので、私がこれを使用して判明したスキルを、アカツキ様が習得する……というのはどうでしょうか?」
「なるほど、それなら俺の不運は関係なくなるな……。ちなみに、ユリィは運がいいのか?」
「生まれてこの方、おみくじで大吉以外を引いたことはありません」
「マジか」
どうでもいいけど、ユリィ、自分がAIを名乗っていること、忘れてない?
俺?俺は凶か大凶しか引いたことねぇよ。悪いか。それ以外だと、一度だけ、大々凶というのを引いたことがある。神社の人が冗談で一枚だけ入れていたのを見事に引き当てたということだ。
まぁ、俺の不幸自慢はどうでもいい。今はユリィの幸運がどれほどのものかを確認しようじゃないか。
「それでは、使用しますね……」
「おう、よろしく頼む」
ランダムスキルの書をユリィに手渡す。さて、どんなスキルが来るのかね……。
ユリィの持つランダムスキルの書は、ユリィが「使用します」と宣言すると、光を放った。そして光が収まると、茶色だった本が、紫色に変色していた。「あ、レアです」とユリィ。レアなんですかそうですか。俺がやったら一体どんな色の本になっていたんでしょうか?
紫色になった本をユリィから返してもらい。一度アイテム欄に入れる。こうすることでアイテム名がわかるのだが……。
「何々……[遅延]の書?」
「スキル[遅延]ですか……。確か、魔法職向けのスキルだったと思います」
「ユリィの幸運がすごすぎる件」
おあつらえ向きにもほどがある結果だった。さっそく使用して、スキルを習得する。さて、どんな効果のスキルなのかとステータスを開こうとして……とあることを思いついた。
「スキル[叡智]、発動」
[叡智]。街に入れなかったり、プレイヤーから狙われる可能性があるというアホ見たいなデメリットの代わりに使用することができる、カーバンクルのスキルだ。スキル枠を圧迫しないという利点は大きい。
スキルを発動すると、目の前にステータスと同じような画面が現れる。宙に浮かぶそれには、箇条書きでいろいろと書かれていた。ざっと目を通してみると、スキルや魔法、アイテムやモンスターの名前などといった、項目別に分かれており、まだほとんど埋まっていないそれぞれの項目には、俺の知っている名前がほとんどだった。モンスター欄にある黒鉄竜クライヴェスってのが、あのドラゴンの名前か?無駄にかっこいい名前しやがって……。
「これは……アカツキ様が知っているスキルや魔法……それに、魔物の名前にアイテム名?」
「だな。ということは、[叡智]は自分の知っていることを、さらに詳しく知れるってスキルなんだろ。じゃあこの項目の中から……お、あったあった」
スキルの名前が並んでいるあたりの中から、[遅延]のスキルを選択する。すると、画面が切り替わり、テキストが書かれた画面が現れた。
[遅延]
魔法の発動を遅らせるスキル。スキルによって発動を遅らせたスキルは、任意のタイミングで発動することができる。発動には決定していたキーワードを詠唱する必要がある。遅らせることができる魔法は、スキルレベルが上昇するにつれて増加する。
魔法の発動を遅らせるということは、魔法の発動工程である概念選択、魔力集中、鍵言詠唱、概念現象化、現界の五工程のうち、鍵言詠唱までで一時的に魔法を凍結するということである。魔法の凍結を凍結解凍の鍵言にて解き放つことで、残りの二工程を実行する。
………………………………はい?
ぜ、前半は普通にスキルの説明だろう。試しにステータス画面で確認してみたら、全く同じ文章が表示された。問題は、後半部分。
魔法の発動工程?鍵言詠唱までで一時的に凍結?これを読んでわかることは、魔法というものの発動には、五つの工程を踏まなければならないということだ。でも、【風刃】を使用するのに必要なのは、呪文の詠唱だけ。五つの工程の中では、鍵言詠唱というものに当てはまるのだろうか?
……駄目だ、情報が足りない。でも、魔法というものが、ただ呪文を唱えればいいものではないということが分かった。実際にはもっと複雑なものなのだろう。そして、この情報は、あのドラゴン、[叡智]によれば、黒鉄竜クライヴェス。の討伐を成し遂げるにおいて、とても重要なことなのではないかと思う。
これは、一度[叡智]で得ることのできる情報をまとめる必要があるな。どこかで時間を作って集中的にやるとするか。
「とりあえず、使ってみるか。『風よ刃となりて敵を切り裂け』――――[遅延]」
魔法を詠唱し、[遅延]を発動。すると、MPだけが消費され、魔法自体は発動しなかった。同じことをもう一度繰り返してみる。また同じ結果。試しにもう一回。これも成功。そして四回目をやろうとしたところで、失敗した。魔法はそのまま発動し、目の前の気に切り傷を作る。どうやらレベル1で遅延できるのは三回分の魔法だけらしい。遅延した魔法の解放鍵言を決めてっと。
「なるほどなるほど、こういうスキルなのか……。いやぁ、すごいなユリィは。こんなに有能なスキルを一発で引き当てるなんて……」
「いえ、ただ運がいいだけですから。それより、来ますよ」
「ちゃんと気づいてる。やるか?」
「ええ、もちろんです」
何のことかって?もちろんモンスターです。こちらに向かってくる足跡をしっかりと聞いていたのだ。
ユリィはいつの間にか、武骨な鉄剣を両手に装備している。やっぱり二刀流ってかっこいいよね。俺?俺はすでに準備終了している。いつでも戦えるさ。
がさがさと茂みが揺れ、そこから飛び出してきたのは三匹の狼だった。緑の毛色をしているので、森の仲だと保護色になって見つけにくいんだろう。でも、自分たちから向かってきたら意味がない。てか、不意打ちすればいいのに、なんで襲い掛かって来たんだ?……まぁ、いいか。
「―――はぁッ!」
「―――『斬』ッ!」
飛びかかってきた狼に向けて、ユリィが両手の鉄剣を十字に振るい、俺は【風刃】×3を解放して迎撃する。ユリィの斬撃は正面から来ていた狼のHPレッドゾーンまで刈り取り、俺の魔法はその狼にとどめを刺し、残りの二体を吹き飛ばした。
残り、二匹。
「左は頼んだ!『土よ礫となりて敵を穿て』、【石弾】!」
「わかりました。――――【二文字】!」
打ち出された石の弾丸は、狼の胴体に直撃する。しかし、HPを全損させるには至らない。だが、ユリィの放った両手の鉄剣での横薙ぎは、もう一匹のHPを刈り取った。
残り、一匹。
残った最後の一匹のHPも、すでに危険域であるレッドゾーンに突入している。それでも果敢に挑みかかってくる狼。空中に跳躍し、前足の爪を振り下ろす渾身の一撃。全身全霊、たまとったらぁ!という声が聞こえてきそうな特攻っぷり。
「残念ながら、それじゃあ俺には当たらないな!」
直線的な狼の攻撃をよけ、その無防備な腹に目がけて蹴りを叩き込む。もちろん、【重蹴】込みでだ。
サッカーボールのように蹴り飛ばされた狼が、HPゲージを空にして粒子となって消えた。先に倒した二体も、同じように消え去っていた。メニューからアイテム画面を開くと、狼の牙というアイテムが増えていた。これがドロップアイテムだろう。
「戦闘終了……。おつかれ、ユリィ」
「この程度では疲れません。さ、どんどんモンスターと戦闘しますよ?レベルを上げて、ドラゴンを討伐して、サーヤさんと一緒に遊ぶんでしょう?」
「……だな。じゃ、夜になるまで、この森で戦いまくりますか!」
「はい!」
その後も、狼やキツネ、でかいイモムシなど、森の仲間たちをユリィと二人で蹴散らしまくった。ユリィの近接戦闘のセンスの高さは驚きに値するレベルだった。モンスターの攻撃をほとんど喰らわないばかりか、木の幹を蹴っての三角飛びなど、曲芸師じみた動きを見せてくれた。
時折、目が吸い寄せられるような場所があり、そこを調べると、薬草などの素材アイテムが見つかった。これは[錬金術]スキルのおかげらしい。これで錬金術のレベルを上げることができるな。楽しみだ。
次回は錬金術かな?
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