事実は小説よりも稲荷!!
特に意味は無い
「事実は小説よりも稲荷!!」
そう絶叫する友人を俺は殴り倒す。
「やかましい!!」
机を巻き添えに倒れ込む友人顔を抑えて呻いている。
「いきなり殴るとは……イカレポンチめ……」
うらめしそうな声で呟く友人に再度追撃を加えるか悩んでしまう。
「お前こそいきなり意味の分からない事を叫ぶな、耳が痛い」
俺はそう吐き捨てた。
「いや、実はな昨日稲荷寿司を主役に冒険小説を書こうと思ったのだが……稲荷寿司の比喩的表現が思い付かなかったのだよ」
「続いて言ってる事が分からない」
「というわけで実際見てみる事にしたのだが……」
「続くのその話?」
「買って、見て、触って、食べて見たが稲荷寿司としか思えなくてな……
これはまさに事実は小説よりも稲荷!
と思ったのだよ」
「…………でって言う」
「人の描きうる表現の敗北を悟ったのだ!!」
拳を突き上げ高らかに吠える友人。
ドン引きする俺。
「うん……終わり?」
「落ち着けお稲荷さん」
「ブッ殺すぞファンタスティックファッキンガール!!」
人の事を食物扱いする友人に噛み付く。
「酷いな、泣いてしまいそうだ」
「人を食物扱いしてんじゃねぇよ!!」
「男子の事をお稲荷さんと呼ぶと何か……卑猥だな……」
顔を赤面させ、もじもじしている友人に苛立ちを覚える。
「OK ヒューマン 今から土に還してやっから這いつくばって祈ってろよ!!」
にじり寄る俺をさして気にした風でもなく言葉を続けた。
「うむ、今思ったのだが
事実は小説よりも異なり!
と言うと何だか意味も通じるような気がしないか?」
はたっと足を止め少しだけ考える。
「分かるような、分から無いような……」
「まぁ、それはどうでも良い
話しを戻すが私は稲荷寿司を主役に小説を書けないのだよ」
振っておいてさらっと流す友人に呆れながらも答える。
「そもそも何で稲荷寿司何だよ……」
シリアス調の真顔で友人は重々しく口を開く。
「昨日の晩御飯がな……稲荷寿司だったんだ……
そう、知っての通り私は稲荷寿司が好きだ!!
何より!誰より!好きだと断言出来る!!
これは最早この愛を不特定多数の人間に伝えずには居られない!
あぁ、稲荷寿司!圧倒的!稲荷寿司!!
ふおぉぉぉぉぉ!!
聞いてください、稲荷s,神
稲荷寿司〜
黄金の〜衣を〜纏い
荘厳たる姿で堂々稲荷寿司!
皮をめくるともう
二年たつなぁ〜
ってやっぱり実感するね!酷い異臭もするね!
そういや黒いカビが生えてる、心無しかかったい!
歴史がいっぱい詰まったヤバイヤバイ物でっす キラッ⭐うごっ」
「うるせぇんだよ!!」
突然歌い始めた友人を再度殴り倒す。
「大体2年も大事に持ってんじゃねぇよ!!」
「もう一回?」
「すんな!」
「中々食べる機会が無くてな……ん?
そろそろ下校時刻のようだ、帰ろうか親友」
「うん?あぁそうだな
帰るとするか」
カバンを手に持ち長年共に居る友人と帰る支度を整える。
「私はね、好きなものは最後迄取っておく派なんだ……」
友人がぽつりと呟く。
「そうかい、そりゃ結構なもんだ
帰るぞ!!」
何か言いたげな友人は一つため息を着くと横に並ぶ。
「全く……君と言う奴は……」
「何だよ?」
訝しげな顔で尋ねる俺に友人は友人は人差し指を突きつける。
「なんでもないよ、さぁ帰るとしよう」
そう言って俺の少し前を歩き始める。
「わっけ分かんね」
ぼやきつつも俺も後を追い掛ける。