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プロローグ -0-

初投稿+初小説です。

2016/10/10 文章を大幅に調整しました。

******************************


『なんでぇ、どうして!』


 やつれた顔をした男は地面に強く両拳を叩きつける。


『妻だけでなく、娘まで奪おうというのか……!」


 暫く地面にうずくまるが顔をベッドの方へ向け、そこで眠っている幼い白い髪の少女へと歩み寄る。


『すまない、我が娘よ。俺には何も出来ない……』


 男はみっともなく涙を流す。


『俺には……何も……』


 うつむき涙を流していたが、ふと近くに置いてある魔道書のような本に手をかけた――。


******************************


 カチッ。


 ぶーぅぶーぅ。ぶーぅぶーぅ。


「……」


 ぶーぅぶーぅ。ぶーぅぶーぅ。


「……」


 ぶーぅぶーぅ。ぶーぅぶ――


「だぁ!!うっさい!」


 不細工な豚の目覚まし時計を叩きつけて、息の根を止めてやる。元から生きてなどいないが。


「……ぁ、背中かゆ」


 背中をかきながらカーテンを開けると眩しい日差しが差し込んでくる。初夏にもなると、流石に日差しだけでも酷い暑さを感じる。


「ふぁ~……」


 慣れた手つきで少し汚れた制服を身にまとい、一人の少年から一人の高校生へと姿を変えた。

 いつものように本が入った鞄を手で持ち上げ、いつものように玄関まで向かう。

 朝飯?そんなもの面倒だから食べるわけないじゃん。


「いってき」


 玄関まで行くと、誰もいない家の中に向かってその軽い言葉を放つ。

 特に意味なんてこめていない。そういうものだろ?


「ん?」


 足が何かにぶつかった。違和感を感じた足元へ視線を送ると、玄関前に茶封筒の小包が堂々と置かれていた。


「何だこれ?」


 手にとって確認してみるが、宛先が書かれてない。





 ――ドクン!





******************************


『パパ!? 何するの!? やめて!!』


『こうするしかないんだぁ! お前が生き残るには……こうするしか……っ!』


******************************





 一瞬、断片的な映像が流れた。これは白昼夢だろうか。

 ……俺は少し疲れているようだ。

 それにしても、これは誰かが置いて行ったものだろうか。少し考えたが、考えるのも面倒なので包みを開けることに決めた。


「本?」


中から出てきたのは年季の入った一冊の古ぼけた本と可愛らしい一枚の便箋だった。


『肌身離さず持て』


 女性が書いたような筆跡。「なんのこっちゃ?」と言い軽く首をかしげるも、眠気の入り混じる頭ではそれ以上の思考は困難なわけで、面倒なので今日の学校帰りに図書館送りにしてやることにした。少し厚めの本だが、無理やり鞄に詰め込み、学校へ歩き始めた。


「うわ、(あめ)()希生みきだ……」

「やべっ、こっち見た!」

「ちょっと! あんまり刺激しないでよ! 何されるか分かんないわよ!?」


「……」


 外野はいつも五月蠅うるさい。それもそのはず、俺は所謂『不良』というやつなのだ。

 ……少し静かになりたい。別の道を使うか。


「ふぅ……」


 人気のない道に出た。学校まで少し遠回りになるが、こんな暗くて人気のない道を使うやつは他にはいない。


トコ、トコ、トコ。


「?」


 人が通るなんて珍しい。こんな道にフードを被った女性らしき人が正面から歩いてくる。


「……」


 別に何も言われることのない赤の他人だ。身構えず何もせず、ただ通り過ぎるだけでいい。


トコ、トコ、トコ。

トコ、トコ、トコ。

トコ、トコ――。


「今日は学校にいくな」


「……ぇ?」


トコ、トコ、トコ。

トコ、トコ、トコ。

トコ、トコ、トコ。


 通り過ぎる時に確かにそう言われた気がした。だが、気がしただけと感じる俺は、特に深く考えず、そのまま学校へ向かうのだった。





 キーンコーンカーンコーン。


 真面目に授業を受けるつもりのない俺には正直、学校なんて行く意味がない。だが、家にいるよりも学校の屋上で寝ていた方が気持ちがいい。


「ふぁ……放課後かぁ」


 あっという間に日は暮れ、夕方になろうとしていた。俺は身体を起こすと、いつもの『校内巡回』を始めた。

 

「おい、これもいれっかぁ?」

「ばっかおめぇ! 腐った弁当とか入れてゴキブリとか来たらどうすんだよ~」


「役に立たないゴミちゃんでもゴキブリのためになるんなら本望なんじゃねぇのぉ?」

「ハハハ! ちげぇねぇ! じゃあこの腐った牛乳もトッピングしてやろうぜ~」


 屋上から1階まで下っていくと、一つの一年生の教室から声が聞こえた。中に視線を送ると、どうやら一人のロッカーに二人の男子生徒が汚物を投入してパンドラの箱を作っている真っ最中のようだった。


「見ろ! その辺から取ってきた犬のフンだ!」

「くっせ~な、おい。ほら、頑張ってるいちねんちぇいのロッカーがほしがってまちゅよ?」


「プレゼント ウンコ! フォー! ユー!」

「プリーズ! ギブミー! チョコレート!」 


「ギャハハハハ――ゴフッ!」

「何だお前――ブッ!」


 俺はとっさに二人を殴り飛ばした。


「な、何する……ひっ」

「ジーザス……」


 ギロッと二人を睨みつける。


「人の目じゃねぇ……! こ、殺されるぅ!」

「オマエがオーマイガー! 許してぇ!」


 脱兎のごとく逃げる、人の姿をした男ウサギ二匹は教室から早々と出て行った。


「何々?何の騒ぎ……って、また雨谷?こっわー」

「まーたバカなやつがやらかしたんでしょ……お気の毒さま~」


 女子生徒を中心に「なんだ? なんだ?」と言いながら残っていた生徒が増えていく。


「この騒ぎは……また雨谷くんですか?」


 一人の女性の声が発せられると、周囲の声が一瞬消えた。


「あ! ()見里(まなし)ちゃんだ!」

「キャー!」


 声の主へ視線を送る。俺と同じクラスの二年生、月見里春美。風紀委員長をやっている……らしい。

 暗い茶色がかったセミロングの髪に整った顔立ちで、凛とした立ち姿のままで周囲の状況を確認する。


「これは……事情は大体察しがつきました。お怪我はありませんか?」


 騒ぎを察知して現れたソレは、俺の体をぽんぽんと触れるように優しく叩きながら、怪我の有無を確認していく。


「どうやら無事のようですね、よかった」


 安堵の笑みを浮かべると、パンドラの箱……もとい、丁寧に汚されたロッカーへと歩いて行った。彼女は少し目を細め少し考えるような顔をして話を続ける。


「後処理は風紀委員がやりますから、帰宅部の雨谷くんは用がなければ速やかに下校してください。後々問題になりましたら学校から連絡が行きますので、そのつもりでお願いしますね」


 目を細め緊張させていた表情が和ぎ、再び俺に頬笑みを向ける。


「……」


 俺は何も見ていなかった振りをして、黙ってその場から教室の外へと足を運び始める。


「キャー、月見里ちゃんって誰に対しても優しくてカッコ可愛い!」

「月見里さん、私も片付け手伝います!」

「あ、あったしも~!」


 ――本当に、本当に変なやつ……。

 ――なんで俺みたいなやつにも優しいんだよ……。





 居心地の悪い学校から早足で退散し、人を避けるように人気のない殺風景な公園に行きついた。広々とした公園の割には遊具が少なく、木々が並んでいる空き地のような公園。

 そんな公園だけど、昔から一人で落ち着きたい時に行く数少ない居場所だ。俺はその公園の碌に手入れのされていないベンチに腰を掛け、一息をつく。


「何やってんだろうな……俺」


 はぁ、と小さくため息をつく。


「月見里春美……」


 人は優しいだけの生き物じゃない。お互いに競い合って傷つけ合い、憎しみ合って潰し合う。そんな人間に対しても率先して優しくする月見里春美という『例外』の存在は一体何なんだ……。


「くそっ」


 地面を蹴り上げる。俺は人が嫌いだ。自分の中で大きな存在になっても、目の前から勝手に消える――。





 当時、俺は中学三年生で中学校生活で最後のイベントである、修学旅行に行くことを楽しみする一人の少年だった。友達もいたし、真面目に勉強もしていたから成績も上位を常にキープ。文字通りの優等生だったが、点数や結果よりも……父親と母親に褒めてもらって、喜んでくれる姿を見ることが俺の生き甲斐だった。


 修学旅行当日、はしゃぐ気持ちを抑えて身支度を整えて玄関で親に見送られていた。


「希生~!修学旅行楽しんでいらっしゃいねっ」

「はい、母さん!」


「おい、希生!忘れものだ」

「父さん?」


 手渡されたのはお札のお金と、小さいひよこがお団子のように縦に三つ並んだストラップだった。


「小遣いと、父さんと母さんからのお守りだ」

「いやいや、こんなストラップ恥ずかしくて付けられないよ!?」


「あら、可愛くて良いじゃない、あたしが付けてあげるわ!」

「か、母さん!?」


 無理やり鞄に付けられたひよこストラップは、地味ながら存在感を発揮していた。


「これでよし!」

「中々いいじゃないか、ハハハ」


「……これでバカにされたら父さんと母さんのせいだからね!」


 照れるよりも、恥ずかしさよりも……今、この時の幸せな温もりが心地よかった。この家族の温もりが一生続くと思っていたし、大切にしていきたいと心から思っていた。


 思っていたんだ……なのに――。





「っ……」


 手に持っていたひよこのストラップが俺の顔を覗く。少し思い出に浸りすぎていたようだ。


 どれくらい時間が経っただろうか。日はすっかり暮れ、街灯が点灯している。いくら夏とはいえ、暗くなると肌寒さを感じずにはいられない。


 そろそろ帰るか――。





「おやァ?なんだかこの辺り、臭いますねェ……とても」





 ドクン――。





 世界との連結が歪む感覚に襲われ、自己の認識力が低下する。目の前の風景にノイズが混ざり映し出されているかのような錯覚。


「すみません、そこのヒト」


 声の主を平静を装って目で観察する。二十代後半くらいであろう長身で少し細身な男性は、夏場に似合わない真っ黒なコートを羽織っている。髪は金髪で長く、鼻が高い……外国人のような顔立ちだ。


「……俺ですか?」


 心臓の脈打つ鼓動が酷くうるさい。まるで何かを訴えかけるような感覚だが……それが警告だと分かる程度の分析力を行使できるほどの余裕はなかった。


「そうです、ヒトのアナタ」


 ニコニコと不気味な笑みをさせながら、コツコツと音を立てて近づいてきている。しかし、視界と音にノイズが入り混じって正常にその存在を捉える事が出来ない。


「い、一体何の用――」

「申し訳ないですが……死んでください」


 鋭い刃物の肉に突き刺さる音と共に、肉の焼けるようなにおいを鼻で感じた瞬間、何故か俺は必至に叫び始めた。


「――ァ!――ッ――ア゛ァ!」


 身体に何かが刺さっている?身体が焼けている?


「――グァア゛ア゛――ッ――」


 身体が横転する。というより、立っていられなくなった。何が起きているのか、まったく分からない。


 男が指を鳴らすと共に爆発した。何が爆発したのか……はっきり分からないが、それはきっと、俺自身が爆発したのだろう。


 バラバラの焼けた肉片になった俺の一生は……ここで幕を閉じた。


 何もないまま、終りを告げた。





「アァ?なんですかァ?このストラップ?」


 男は不気味に笑う。


「ハハハハィイヒヒヒヒィイ……!」


 ――小さく燃えるそれを見下しながら、悪魔のようにケタケタと笑い続けた――


まだ終わりません。次回は『プロローグ -1-』です。

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