第三十三話____全ての元凶と記憶
臭いものほど美味いなんて、言葉が存在しているが、この食材にその言葉の意味は該当しないだろう。
とにかく噛めば噛むほど臭みが広がる。
しかし美味いものを口にするより、不味いものを口にする方が、今のシグマの空きっ腹を埋めるには丁度いいのかもしれない。
「ごちそうさまでした!」
食材に感謝を告げ、食べ終えた皿を洗う。
皿を洗い終え、シンクに立てかけた時ある記憶が蘇った。
街の電光掲示板に映し出された地獄のような動画、そして最後に映ったシグマの顔。
ほんの数時間前までは、餓死寸前の為、目の前の事ばかり考えていたが、少しの余裕が出来ると考えたくないことまで考えてしまう。
「気が狂っちまいそうだ」
椅子に座り、少し眠ろうと目を瞑る。
しかし瞼の裏には、今までの嫌な体験が鮮明に映し出されるばかりで、とても眠れそうになかった。ふと目の前にあるもう一つ、無人の椅子を見た時
────君が私に勝つことは不可能だ
赤髪の女性がシグマに放った言葉を思い出した。
「あいつそんなに強ぇ奴なのか……」
初めて会った日から今日までの記憶を思い返すと、確かにあの女性が、傷を負ったところなど見たことが無かった。
そして必ず勝利の下に立っている
それなのに、なぜか信用出来ない
「俺は沢山あいつに救われてきたし、強いことも知っている……知っているはずなのに……なぜか強いと信じ込むことが出来ない」
もしかして自分は、他人を信じることが、出来なくなってしまったのか、と不安を抱くもすぐに、自分の考えが間違いではないことに気がついた。
「俺……アイツの戦っている姿を見たことがなかったな……」
────ありがとう君のおかげで助かった
再び赤髪の女性の声が脳裏で再生された。
「君のおかげで助かった?俺助けたことなんて……っ!?」
シグマはヒスイに会いに行く前の出来事を思い出した。同時にシグマの平穏を乱した全ての元凶が、そこにある事を理解した。
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