第二十三話____信頼
赤髪の女は剣先をシグマに突き出した
空を切る音が響く 思わずシグマは目を閉じた
「それで頼みなんだが」
(……あれ?)
何も起きていない
シグマは強く閉じた目を恐る恐る開いた
そこには確かに剣先をこちらに向ける赤髪の女性が立っていたが先ほどとは明らかに違う様子が伺えた
剣には先ほどまでは無かった巨大な肉片が突き刺してあった
「これを焼いてくれないか?」
シグマは呆気にとられた
「なんだ……俺の考えすぎか……」
シグマはその場に崩れ落ちた
まだ朝だというのに一日を終えたような疲労がシグマを襲った
「大丈夫か?無理なら帰るが……」
「その肉を焼けばいいんだな」
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先ほどアセビアが座っていた席には赤髪の女性が座っていた
「もし俺が本当に殺人犯だったらお前を殺すかもしれないんだぜ?さっきのアセビアといいお前といい どうして俺をそこまで信用してくれているんだ?」
赤髪の女性は子どものようにナイフとフォークでひたすら肉を貪っている
「あの〜聞いてますか〜……」
「……ん?」
「だから俺が本当に殺人犯かもしれないのに どうしてそんなに信用してくれているんだ?」
赤髪の女性は食べる手を止めて話し出した
「信用なんてしていない」
「じゃあなんで……」
「君が私に勝つことは不可能だ それに扇使いのヒスイを倒したのち、その怪我で あの兵士に勝てるとは思えない」
シグマは疑問に思った
「なんでヒスイを倒したのが俺だって知ってるんだ?」
「私が洞窟に着いた時 既にそこは ただの岩山になっていた でもそこから僅かに氷の冷気を感じた そして君が警備隊から逃げる時に使った氷魔法 君以外には居ないだろう」
「なんで警備隊は俺が犯人じゃないことが分からないんだ?さっきまでいたアセビアはジョブの違いに気づいていた……それなのになぜ 警備隊の連中はそれに気が付かないんだ」
「もし元々ダガーを所持している氷使いがいたら?」
シグマは赤髪の女性が急に何を言い出すのか理解出来なかった
「ジョブを見極めることなんてできない」
「いや、アセビアは確かに俺じゃないことを知っていた」
「知っていたのではない 君が犯人ではないと信じていたんだ」
「どうして……」
赤髪の女性は再び肉を食べ始めた
「ところでお前……」
「ん?」
「それなんの肉だ?」
「……」