第十九話____訪れない平穏
いつの間にか雨が止んでいた
風は弱まる気配を全く見せない
シグマは歩けば歩くほど意識が遠くなるのを感じていた
「さっきまでは大丈夫だっただろ……」
何とか気力で耐え城下町にある病院へと向かった
外が明るくなってきた頃シグマは城下町の門前に立っていた
門をくぐり病院へと向かう
しかし町の様子が いつもとは違っていた
やけに人通りが少ない
ほとんどの店が閉まっている
いつもは活気に溢れている商店街も異様な空気を漂わせていた
周囲を確認し歩き始めた途端 背後から風を斬る音がした
シグマはとっさにソレをかわし振り返った
そこに居たのは ただの住民だった
その顔は恐怖に怯え まるでシグマを恐れているかのようだった
(昨日の俺なら死んでいた……ヒスイとの戦いの中で俺は成長していたんだな……)
反射的に攻撃を回避することが出来た自分に喜びを感じていた
それと同時に圧倒的 危機感も感じていた
「お前もヒスイの仲間か……」
男は震えた声で言い返した
「クソ野郎……家族を返せ!」
シグマは呆気にとられた
「え……あー!!ヒスイの親父!」
男はさらに答えた
「とぼけるな!この悪党!お前みたいな奴はこの世から居なくなればいいんだ!死ね!死ね!死ねええ!」
飛んでくる短剣を全てかわし 逃げることにした
「何のことか分かんねぇーよ!」
とにかく人通りの少ない役場前へと向おうとした
そこに向かう途中シグマの眼前には目を疑う光景が広がっていた
買い物途中の女性や遊んでいた子供達の亡骸が虚しく地べたに張り付いていた
それも一人や二人ではない 何人いや何十人もの亡骸から溢れる血が真っ赤な通路を作り上げていた
女性や子供などの弱き者達の中に一人だけ騎士がいた
その騎士はまるで画鋲を刺すように胸に長槍を刺され壁に貼り付けられていた
恐らく一人で守ろうとした結果だろう
赤い血の通路を歩き なんとか役場前に出た
役場前には電光掲示板があり そこには一つの動画とテロップがひたすら流されていた
赤字のテロップが流れた
『無差別殺人事件 犯人逃亡中』
そして動画が流れる
その動画の内容は まさに先程の惨事を録画したものだった
いつも通りの賑やかな商店街と通路を走り回る子供達が映し出されている
音声こそないが明らかに空気が変わった
画面外に走って行ったはずの子供が血まみれになって画面内に飛んできた
そして逃げる子供や女性それから店主などを容赦なく切り裂く男が映し出された
画面内に生存者が居なくなった頃 一人の騎士が現れた その騎士は槍で男と戦うが 男のダガーに力負けし甲冑の隙間にダガーを刺される
そして男は槍を奪い何度も何度も騎士の胸を突いた
最初は甲冑で守られていたものの数分後には甲冑を貫いてしまった
シグマがもう見ていられないと目を離そうとした瞬間 その男の顔がハッキリと映りこんだ
その瞬間シグマはあまりのショックに気を失いそうになった
そこに映し出された顔は【シグマ】そのものだった……
今回 かなり病み要素の強いお話だったので本当にたくさんの方に不快な思いをさせてしまったかと思います 申し訳ない気持ちで一杯なのですが この先のストーリーのためなのでどうかお許しください
感想や誤字などの指摘を頂けると大変嬉しいです