第十話____プライド
もうすぐ八月も終わりますね
すごくあっという間に感じました
シグマの口は考えるよりも先に動いた
「あの……二回も命を救ってくれてありがとう」
赤髪の女性は表情を変えずに言った
「礼はいらない それより君が無事で何よりだ」
少しクールな女性のようだ
シグマはこの女性を見た瞬間、疑問に思った
「あんた この前もここにいなかったか?」
「ここが私の住処だからな」
シグマは驚きを隠せなかった
「ここが住処って ここ路地裏だぜ?いつもこんなところで寝泊りしてるのか?」
「帰る家なんてないからな……それより君はなぜここにきた 君も帰る場所が無いのか?」
「俺の家はあの森にある でも……」
女性はシグマが喋り終える前に応えた
「あの男なら もう森にはいない 安心して帰るといい」
シグマはホッとした この女性の雰囲気が さらに安心感を生んでいる気もする。
シグマはもう一度礼を言い 森へと帰った
疲れていたのか この日はすぐに寝付くことが出来た
次の日の朝 シグマは荒れた森の復旧作業を進めていた
復旧作業と言っても木の残骸を片付けたり家の補強や修理をしただけだ
作業中 男が切り裂いた木をみてシグマは考えた
(護身用に戦闘ジョブ持ってた方がいいのか?)
あの男に襲われている時の記憶が脳内で再生される
(取りに行くか……)
シグマは役場へと足を進めた
「こんにちは ご要件はなんでしょう?あら またあなたでしたか 今日はどうしました?」
いつもの女性だ
「戦闘ジョブを取りに来たんだ けど正直何がいいのか分かんねぇな」
女性はニコニコしながら話し出す。
「そうですね……見た感じ 前にでて力任せに戦う感じでは なさそうなので相手と距離をとって戦うジョブがよろしいかと」
シグマはジョブ一覧を見ながら応えた
「となるとスナイパーとかアーチャーってことか…… スナイパーライフルの反動制御とか難しいそうだからアーチャーで頑張ってみるよ」
「分かりました」
その声と同時にシグマは青い光に包まれた
「これでアーチャーになりました 頑張って下さい!」
「ありがとな!」
シグマは役場をでて森へ帰った
シグマの心には何かが引っかかっていた
常にモヤモヤした気持ちだ。
森の復旧作業の続きをしていると 子供の声がした いつの間にか近くに 見るからに貧乏そうな少年が立っていた
「食べ物かお金をいただけないでしょうか?」
恐らく何も食べずにここまで歩いて ようやく人を見つけたのだろう
シグマは手持ちの食べ物を上げた
少年は美味しそうに食べている
少年の幸せそうな顔を見ていると、この少年が、これからも生きていくために少しばかりお金をあげよう、そんな気持ちになった
シグマはお金を出すために財布を手に取ると 少年は財布をシグマから奪い取り物凄い速さで走り出した
騙された!と気付いた時にはもう遅かった
少年を追いかけたがどこにもいない
周りを見てもいるのは狐くらいだった
夜になってベッドに寝転んだ
シグマは路地裏で女性に会ったあの時『よかったら俺の家に来ないか?』という言葉がでかかっていた それなのに人が増えると面倒なことになるという気持ちが邪魔して言えなかった
シグマはそんな自分に腹を立てていた
心の中のモヤモヤが消えない理由の一つだろう
「あーもう!忘れよう それにしても何だったんだあの餓鬼 どこに行きやがったんだ たまたま迷い込んだ奴が そう簡単に出られる森じゃないんだけどな いたのは狐くらいだし」
シグマは何かを思い出した
――明日の夜 化け狐を使って路地裏殺戮ショーだとよ
八百屋にいた時 俺の横を通った男達の会話だ
「狐……路地裏……あの女性が狙いか!」
シグマは それに気付いた時 すぐに足が動かなかった また死にかけるのが怖かった 平穏な生活がしたかった
今 女性に関わると この先平穏な生活が出来ない、そんな気がした。
色々考えているシグマの脳内に女性の言葉が響いた
――君が無事で何よりだ
なぜあの人は話したこともない俺を助けてくれた
――礼はいらない
なぜ礼はいらないんだ 何が目的なんだ?
目的もなしに助けてくれた 雨の中俺を病院まで運んでくれた
それなのに俺は助けないのか?彼女が狙われていることを知っていて見殺しにするのか?
彼女なら迷わず助けに行くだろう
俺も、迷う必要なんて どこにもない
本当の答えは助けに行く ただ一択だ
「 彼女が俺のために命を掛けてくれたなら次は俺が掛ける番だ」
シグマは夜の森を走り 路地裏へ向かった
いつもは静かな役場前が騒がしい
見ると赤髪の女性は自分の後ろに子供を隠し 数十人いる男から守ろうとしていた
(あの子供は違う あれが化け狐だ)
走りながら手に力を込める すると手の中から弓と矢が現れた
シグマは弓を引き子供を狙った
今回は会話文が多すぎたかなと反省しております
シグマの話し方が毎回違っているのを 何とかしたいですね