俺の嫁は異世界人
俺の嫁は異世界人だ。
なにを言っているのかわからないと思うが、ワームホールに落っこちてこっちの世界に召喚されてしまったという、正真正銘、本物の異世界人なのである。
異世界からきたといっても単なる事故。彼女本人は至って一般的な異世界人なのだから特別な能力があるわけでもないし、俺が特別な事件に巻き込まれることもない。
ただ、異世界はこちらとはずいぶんと生活習慣が違うようで、こっちの世界になじめずに困っているのを見かねて『拾った』。
言葉を教え、こっちの世界の常識を教え、そんなことをしているうちにずいぶんと懐かれてしまったわけだ。俺だってもちろん、彼女のことは憎からず思っていたわけで、そうでなきゃあんなに親身に世話を焼いてやるわけがない。
だから、こういう関係になったのはごく当然の結果であり、これこそがささやかではあっても彼女がこちらの世界に来た理由なのではないかと……こっぱずかしい話、『運命』ってヤツであったのではないかと俺は思っている。
さて、今日も仕事を終えて玄関の扉を開けると、そんなかわいい嫁がパタパタとスリッパの音を響かせて駆け寄ってくれた。
「オかえりなさイ。お風呂ワいてルよ?」
「ただいま、飯は?」
「ごはン先でもいいヨ?」
「じゃあ、飯を先にしようかな。腹が減ったよ」
「ガッテンしょうちのスケね! ごちそうつくっタよ」
「へえ、なんでご馳走?」
「ケーキもあルよ」
「ああ、そうか、今日は俺の誕生日だったな」
「ソう、生誕のお祭り、ちゃんとコッチのヤリカタ勉強したヨ?」
「なんだよ、そんな……別にいいのに」
「私の気持チなのヨ。イッパイ愛してくレるのお礼ネ」
「そ、そうか。うん、これからもいっぱい愛するつもりだけどな」
「ありガとね」
「いやいや、こっちこそありがとうだよ。まったく異なる世界に来てしてまって、慣れるだけだって大変だろうに、そのうえきちんと家事をして、こうして俺のために料理を作ってくれて、毎日感謝してるよ」
「ハヤクチ、むずかしいヨ、もう一度」
「ああ、いや、その……」
「ん?」
「さ、さーて、ご馳走はなんだい?」
「おサかなよ。お祝いニは『オカシラツキ』って調べタね。でも、赤いサかな高いよ」
「ああ、鯛ね」
「ダから、ご近所の池デ漁したネ」
「なるほど、どうりで錦鯉……って、コラー!」
「イけなカったのか?」
「これはペットとして飼われている魚でね、食用じゃないんだよ」
「ペッと?」
「可愛がって楽しむ生き物ってことだよ。だいたい、庭にきちんと池が作ってあったら、そこはよその『池』だってわかるだろう?」
「ワからない。池、サかないるところ。サかな、食べるもの。ペッと、いない」
「うん、君のいた世界はそうだったかも知れないけどね……次は、魚はちゃんと魚屋さんで買おうね」
「ワかった。サかな、買うはサかな屋」
「それにこの飯……なんでレーズンが入ってるの?」
「お赤飯ネ」
「ほう、お前の世界の赤飯にはレーズンが入ってるのか……」
「チがうネ。私のクニ、コメ食う文化ナイね。ちゃんとコッチの料理、調べたよ」
「普通、赤飯には小豆が入るんだぞ?」
「アズキ? 良くわからなイ。写真は黒くてチいさいもの炊き込んでいたネ」
「説明文はちゃんと読まなかったのか?」
「読んだ。『乾燥したもの』ダけ読めタ」
「あ~、うん……まあ、それでも、その気持ちがうれしいからな……がんばって食うよ」
「うん、あ、ウまいか?」
「……まずい」
「サかなは、サかな食べるガいいネ!」
「うん、というか、鯉の丸焼きなんて初めてみたぞ。よくグリルに入ったな」
「入らなかっタよ。だから、団地のまエで焚き火して、じっくりアブッタね」
「お前、そういうの、本当に勘弁してください……ご近所の目っていうのも考えてぇ!」
「ウれしく……ないか?」
「ああっ、そんなしょぼんとするな! うれしい、すごくうれしいよ!」
「ほんとウか? プレゼントもある!」
「お前、立ち直り早いな」
「ン?」
「何でもない、それより、プレゼントってなんだよ」
「プレゼントは、私の故郷風にシたね!」
「ん? なんかの動物の角?」
「ペニスケースね! ダイスキなヒトの、ダイスキなトコロ、宝物。コレ、私の故郷のやりカタね!」
「ああ、うん、ありがとう……」
「ドうした? やっぱりうれしくないか……?」
「そんな不安そうな顔するなって。ちゃんとうれしいよ」
「ウソばっかリ。さっきから渋い顔バカリね」
「そりゃあ、お前がトンチンカンなことばかりするから……でもさ、サンキューな」
「サンキュー?」
「ああ、『ありがとう』の別の言い方だよ。お前は俺を喜ばせようとして、今日一日をこのご馳走の用意のために使ってくれたんだろ、魚を釣ったり……」
「手づかみ漁ネ」
「読めもしない料理の本とにらめっこしたり……」
「写真をミればだいたいハわかるネ!」
「こんな、ぺニ……動物の角なんか売っているところを探すのだって大変だろうに……」
「ネットで検索、スグみつかったネ!」
「いいから……お前はもうしゃべるな」
「あ、ナニする……欲情うれしいけど、ごはんゴチソウサマか?」
「うん、今はお前が食べたい」
「ケーキ、美味しいのニ」
「あれは、お前を食べた後のデザート、だろ?」
「……あなタ」
「ん?」
「ダイスキね」
「うん、俺もだよ。だから、来年も、再来年も……この先ずっと、こうやって俺の誕生日を祝ってくれるかい?」
「モちろんネ」
さて、この後のお楽しみは俺たちだけのヒミツ、もったいないから聞かせてやらない。
ともかく、俺の嫁はこんなにかわいい。
そんな彼女にめぐり合えたこと、そんな彼女とささやかだけれど幸せな日常を過ごすこと、そしてその喜びを再確認するこの日……それが最高の誕生日プレゼントなのかもしれない。
ハッピーバースディ、俺。




