6話 天才で最強
あのあと平良と柚栗が襲われたことや犯人グループの一人と思わしき男と喋ったこととかを主に柚栗から聞いた
特に久嗣が危ないから帰るべきだと二人とも家に帰してしまい、僕はさすがに平良のところにちょっかいをかけにいく気分にもなれず、青緑色で主に構成されている電脳世界を文字どおり漂っていた
「うーーーーん、柚栗に怪我がなくてよかったけど結構強行手段とるんだなぁ…」
「あれはレンカだからだよー僕様ちゃんとかはあんまりしないよ?」
「ふーん?レンカって平良たちを襲った……………は!!!???おま、お前誰だよ!!」
いつの間に近くにいたのかもわからないその女の子は親子丼と書かれた明らかにサイズの合わないTシャツに背丈ほどはある赤い髪をふわふわと揺らし、髪と同じように真っ赤な大きな瞳を僕に向けてニコニコ笑っていた
背中に、天使の羽を模したような歪な羽をはばたかせながら
「僕様ちゃんの名前を知りたいの?ふっふっふっー僕様ちゃんは天才で最強な僕様ちゃんだよ!」
「名前になってない!それはいいけどさ…僕の知り合いにあんたは知らない、本来電脳世界は僕が許可しないと入れないはずなんだよ?どうやって入ったのさ」
キッと睨みつけると少女は可笑しそうにけたけた笑い、その度に背中の羽に電気が走り微かに光る
「なんでこの天才で最強の僕様ちゃんが答えないといけないの?それに、番人なんて僕様ちゃんの敵じゃないんだよ!」
微妙に話がかみ合わない感覚があるものの、少女はそう言うとぶかぶかの袖の下の上に黒っぽい紫色の球体を出現させ、僕の方へと投げつける
速度こそゆっくりでふわふわと僕の方へ向かってくる球体に拍子抜けし赤い少女を問い詰めようと、その横を通り抜けようとした矢先、一瞬の張り詰めた音の後その球体が爆発した
もろに爆発をくらい全身を痛みが襲うがそんな僕を少女はただただ可笑しそうに笑っている
この電脳世界において爆発するようなものは御法度であり、そんなものを作れるのはまさしくチートだけだというのは番人である僕が一番よく知っている
「お、前なぁ…!爆発物の創造は電脳世界ではできないはずなのになんで…!」
「だってそれ、ウィルスだもん!」
得意げにドヤ顔を披露する少女に、僕はまた呆気にとられる
ウィルスといえばだいたいが体の動きを制限したり、電脳世界で使える力を制限してくるものが多い中で、他人に攻撃を加えるウィルスだなんて聞いたことがなかった
「そんなウィルス僕知らないし!なんだよそれ!」
「当たり前じゃん!だって僕様ちゃんが作ったウィルスだもん!レンカたちしか知らないよ!」
またも得意げに腰に手を当て胸を張る少女はどうやら見た目以上に頭がいいらしく、さすがにイラっとし、お返しという意を込めて彼女に向かってウィルスを投げつける
体の動きを制限する弱いながらもそこそこ使えるしそれなりにスピードもあるそのウィルスはまっすぐに少女の元へ向かっていくが、それは少女に当たることなく手前でかき消えてしまう
「……は?」
「びっくりした?びっくりした?天才で最強の僕様ちゃんだよ?このくらい簡単にできるに決まってるよ!」
何度か羽を動かし面白そうに笑う少女の前で僕は全く笑えなかった
何かで相殺されたのかはわかるものの、その何かが全く見当がつかず、言葉通り手も足も出ない
僕が何もしてこないと思ったのか、急に頬を膨らませ、バタバタとシャツの袖を振るい足を動かしだす
「遊ぼう遊ぼう遊ぼうよー!なーんで僕様ちゃんと遊んでくれないのさー!」
駄々を捏ね始めた少女に一人困惑していると、彼女の後ろの方から猫耳を生やした全体的に青い女の人が眠たそうな目を少女に向ける
「そろそろ帰るにゃー……レンカがクッキー作ってくれるって、言ってたにゃ…」
「本当!?じゃあ帰る!」
少女は彼女の姿を見つけると不機嫌そうな姿から一変し、羽を動かし側へ寄ったかと思うとわかりやすく目を輝かせていた
ちらりと全体的に青い女の人は僕の方を見ると、パタパタと羽を動かす彼女の手を引いて何処かへと消えてしまう
「なーにあれ…」
状況がイマイチよくわからず、一人取り残された僕は最初の爆発のせいで汚れた服の汚れを軽く払う
ただあんなよくわからない女の子に負けたという気持ちが募り、ぶつぶつと文句を言いながらも場所を変え、その苛立ちを久嗣のパソコンにぶつけるように中のデータの場所をめちゃくちゃに移動させてから僕はまた静かなメインコンピュータへと戻った




