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世界は優しくない  作者: 水彩
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5話 昼日中レンカ

少し先をいっていた柚栗の元へ追いつけば、彼女はいつもと変わらず笑顔で待っていた


どうやら、ここが目的地のようだ


あまり人気のない道の先にあった、小さな古めかしい雰囲気のある今の時代には珍しい喫茶店


こんなところで何か起こるのかと疑問に思うが、さすがにフィンの情報が間違ってるとはあまり思えない


柚栗が躊躇いなくカランコロンと扉の鐘を鳴らしカウンターで軽食を作っていた店のオーナーらしき相手に話しかけているのを横目に俺は喫茶店からは少し離れる


あいつが情報を集めて戻ってくるまで少し時間がかかるだろうから、俺は俺で別のことを調べてこようとした直後、背後から思いっきり腕を引かれた



「久しぶりだな平良!あ、いや、こうして面と向かって会うのは初めましてか?まあいいや!ずっとこうしてお前と話がしたかったんだよ!」


「は、?」



腕を引かれた先にいたのは金髪緑目で、三つ編みにした髪を前に下げた多分男がものすごく嬉しそうに俺の腕を掴んだまま一方的に話を続ける


いくら人気が少ないとはいえ、もし通りかかったやつに勘違いをされたり、誤解でも受けたら面倒この上ない


それにこいつは今、俺の名前を呼んだが俺はこいつをまるっきり知らないし何処かで会った覚えもないのだ



「っ、いいから離せ、お前誰だ?なんで俺の名前を知ってる」



無理やり振り解けば案外すぐに手は離れるがその表情は変わらず気持ち悪いほどの笑顔のままだ


初対面といえど正直殴りたくなる



「あぁ、そっか!俺は平良を知ってるけど、たいらは俺を知らないもんな!俺は昼日中(ヒルヒナ)レンカ、平良のことならなんでも知ってるんだぜ?例えば昨日の夕飯とか、いつ寝たとか、何時に今日は起きたとか、お前のことならなんでも知ってる!ずーっと見てきたんだからな!」



怖いを通り越して気持ち悪い


昼日中レンカと名乗ったこいつは世間一般で言うストーカーのようで、その対象が運が悪いことに俺らしく、この調子で行くと俺は一度今の家に何か仕掛けられてないか探さないといけなくなりそうだ


死ぬほどめんどくさいことしやがってこのストーカー


ベラベラとしゃべり続けるストーカーをよそに、最悪なことに巻き込まれたなとため息をつくと少し離れた例の喫茶店でカランコロンと扉の鐘が鳴る音がした


目を向ければ見慣れた灰色が出てきたところで、俺の元へと歩いてくる


どうやらある程度の情報は集まったらしい


ようやくこいつから離れる口実ができたと思い、目を向ければさっきとは打って変わり、光の灯らないひどく濁った翠の目が柚栗を捉えてた



「あーあー…あいつ来ちゃったよ、平良にべたべたべたべたする嫌な奴、ほんっとう俺あいつ嫌いなんだよなぁ…友達とかなんとか知らねえけど、由雪柚栗の博愛主義は本当好かないしなにより俺の平良に近寄ってその博愛主義を掲げてるのが気にくわなねえんだよなぁ…やっぱ…」


「殺すか」



先ほどのうざいくらいの明るい声とは真逆の低い声でそう呟いたと思えば端末無しに瞬時に青色のモニターを右腕から出現させ、モニターに指を滑らせる


瞬間、またカランコロンと扉の鐘の音が響き嫌な汗が背を伝う



「走れ柚栗!!!」



何か考えるより先に口が動いていた


俺の声に反射的に少し前へと走った柚栗の背後を銀色に煌めく包丁が掠める


包丁を振るった相手は先ほどの喫茶店の中で軽食を作っていたあのオーナーで、はたから見ても底ぬけに楽しげにしていたあの面影はどこにもなかった



「お、オーナーさん…?平良さん、どういうことなんですか〜…?」



俺の近くまで走り振り向いた視線の先にいたのが先ほどまで話していた相手だったことにさすがに状況が飲み込めずに混乱している柚栗をよそに、盛大な舌打ちと共にこの事件の犯人であろう昼日中レンカを睨みつける


別に柚栗に何かされそうになったことにイラついてるのではない、ただ何事もないまま帰りたかったのにまさかこんな出来事を起こされたことにイラついているのだ



「あーあ、なぁ平良、なんでそいつを庇った?なーんも言わないでくれれば、確実に殺せてたのによ、はー、せっかくIDの効果をフルに活用してんのに、興ざめするじゃんかよ」


「IDの効果……まさかあなたがメインコンピュータからIDを盗んだ犯人なんですか〜…?」


「だったら何だよ、何?ケーサツにでも突き出す?無理無理、だって由雪柚栗は今ここで死んで、平良は俺の手で殺すんだからなぁ?」



けたけたとおかしそうに笑い、またモニターに何か打ち込むとおそらくあのオーナーのIDであろう数字の羅列の他に別の意味を持っているであろう数字が表示される


それと同時に包丁を揺らめかせていたオーナーがもう一度柚栗に刃先を向け、一歩、また一歩と近づいてきた


柚栗を庇う気はないが、さすがにすぐそばに死体が一つ転がるようなことはさすがに見たくない


パーカーのポケットに入っている端末に触れながら、抵抗する術がない中でどうするか考えを巡らせているといつの間に近くまで来ていたのか目の前を包丁が掠める



「あわわ、危ないですよ〜、一回下ろしてお話ししましょう〜?」



転びそうになりながらあまり効果のない説得をしようとする柚栗に一つため息がこぼれた


仕方なく柚栗の脳天にチョップを落とし、ギリギリ聞こえるであろうところまで声を抑えて一言だけ柚栗に告げる



「何があっても動くな」



それだけ言って俺は柚栗から距離をとる


いまいちわかっていないようではあったが意を決したように、虚ろな目をしたオーナーと向き合う


レンカはそれを諦めととったのか押し殺したような笑いをこぼしながら、また指示でも出したらしくオーナーは包丁を構え少しだけスピードをつけて柚栗へと向かってきた


俺はそれに手を出すことはなく、柚栗が刃に貫かれようとした瞬間乾いた音と刃物がコンクリートに落ちる音が響いた


もう一度乾いた音が響くとオーナーは膝から崩れ、冷たいコンクリートの上で気を失った



「は、初めて実戦で銃を使いました…」


「麻酔銃って聞いてたが、本当に初めてみたいだな」



震える声で泣きそうになりながら黒光りする銃を両手で持っているのは久嗣だった


この世の中、実弾の入った銃はメインコンピュータを万が一にでも傷つけないために廃止され、全て麻酔銃となっている


今久嗣がオーナーに打ったのももちろん麻酔銃で、音こそ派手だが所詮は麻酔だ、人体に影響はない



「は…?何あいつ、嘘だろこんなところで邪魔されるなんて…」


「嘘じゃねえよ、俺が呼んだんだからな」



ポケットからスマホを取り出し画面を見せつけるようにすれば、俺らからすれば見慣れたオレンジ髪の少年が得意げに鼻を鳴らした


要するに、ただ画面を見ずに久嗣の携帯に電話をかけただけだ


位置情報に関してはフィンが勝手にやってくれるだろうと踏んでいたが、予想通りだった



「あーあ…これじゃあこのIDはもう使えねえなぁ、しっかたねぇ、帰るか!じゃあな平良、今度こそお前のために殺してやるからな!」


「え、あ、ちょ、ちょっと!?」



久嗣が声をあげ、麻酔銃を向けるが逃げ道が用意されていたのか、あいつは瞬時に姿を消した


オーナーはしばらくしたら目を覚ましたが、今までのことは全く覚えてないらしく、柚栗と話しをしてから先…包丁を持ち出して襲ったことは覚えていなかった



「あの犯人、パッと消えたから多分電脳世界に逃げ込んでどっかいったんだろつけど、この辺りに電脳機器はないし、僕もちょっと探してはみたけど見つかんないし…一人でここまでのことができるとはいくらなんでも考えにくいよ!なにあれ!わけわかんない!」



オーナーを適当に久嗣が誤魔化した後、不本意ながら一番近かった俺の家へと集まることになったが、スマホの中から叫ぶフィンの声に耳をやられそうだった


けれど、フィンの言っていたことは確かに同意できる内容で、そうすると考えられることは一つだ



「犯人は複数いるってことになるのか」


「これはすごく大変なことになりそうですね〜………」



変に神妙な空気が流れ、その後結局俺の家で一夜を明かすこととなった









「もー!レンカなにしてるのさー!僕様ちゃんがせっかく奪ったIDのひとつ潰すし!話聞いてなかったの???僕様ちゃんいったよね??IDを使うとそのIDの持ち主を操れるけど意識を失わされたらまたそのIDで操るのは難しいって僕様ちゃん言ったもん!」


「いやぁ、平良にテンション上がっちまってな」


「上がっちまってな、じゃないにゃー……」


「しかし番人と接触できたのは好都合だ、凡人にしてはいい働きをした、しかしIDを潰したことや正体をバラしたことは馬鹿のやることだ」


「あれ俺今上げて落とされたよな??つか普通に俺の家に居座ってんなよな…まあ諦めたけど」


「全くもーレンカのバーカ!でもでも、次はだいじょぶ!なんてったって、僕様ちゃんたちのフィールドに誘い込んでつぶせばいいんだもんね!」


「うまくいくといいにゃー…」


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