3話 新たな協力者
柚栗の住むマンションから出てから何度か道を間違え、通常かかる時間よりかなり時間をかけ、フィンの待つメインコンピュータのあるタワーへとたどり着く
途中柚栗が何度か植物に気を取られ寄り道をしたのだから時間がかかったのは俺のせいだけではない
メインコンピュータのある部屋に入れば見知らぬ人物に画面の向こうからゴロゴロしながら愚痴を言うフィンの姿
フィンは俺と柚栗の姿を見るとバッと体を起こし俺らを指差して声を上げる
「遅い!柚栗呼びにいっていつまでかかってのさ!!暇すぎて暇すぎてしょうがなかったじゃん!!」
「そう言いながらもゴロゴロしながらそいつに愚痴ってただろ……てかそいつだれだよ」
黒縁のメガネとわかりやすく警察と思わせる服装を身につけたそいつは姿勢を正して俺らに笑いかけた
「私は本日付けでメインコンピュータ及びProject-Finの護衛役になりました、菅久嗣と言います、どうぞよろしくお願いします」
つまりは新しいフィンの遊び相手兼話し相手ということになる
御愁傷様ともおもうが、パッと見た感じあまりここに慣れていないのかソワソワとして、新米警察官といったところだった
だいたい、ここに来る奴は新米なのだから十中八九そうなのだろうけど
ともかく、こいつは本当に運がなかったとしか言いようがないのだが、当の本人はそうでもないのか笑っていた
「……俺は天房平良だ」
「あ、私は由雪柚栗と言います〜、平良さんはすこし無愛想ですけど、多分怒ってるわけではないので〜」
事実とはいえさすがにイラついたからとりあえず軽く蹴っておいた
小さく痛いですよ〜と文句を言われたがそれは無視し、ようやくフィンに本題を聞くことになる
フィンも放っておかれたことからかふくれっ面をしていたが、真剣な顔をして口を開いた
「平良にも柚栗にも久嗣にも、みんなにしか頼めないお願いがあるんだよ」
「どうか、盗まれたIDを取り返してほしい」
この世界に住む奴は必ず与えられ、自分を示すIDが無くなっていたのに気づいたけれども、どこにいったのかまでは辿れず、何があってもおかしくないと苦しげな表情で語られる言葉に柚栗や久嗣はわかりやすく驚きと困惑の色を浮かべていた
「……で、俺らにどうさせたいんだよ」
「犯人を見つけてほしい、犯人がどこにIDを盗み隠したのかわかれば僕がここに戻せるもん」
本当は僕も自分の足で探したいけどねと膝より少し下あたりから消えている自分の足を見ながら続けたフィンの顔はどこか悲しそうだった
「平良さん、やりましょうよ〜!IDがない人がどうなってしまうのかわかりませんし、危ないですから〜!」
「私も精一杯尽力を尽くさせてもらいます!!」
正直なところ俺としては面倒ごとに巻き込まれるのはごめんなのだが、どうやらこの二人…いや、三人の中で俺も手伝うことは決定事項のようだ
三人の視線に根負けし、俺は深くため息をつく
「わかったよ、やればいいんだろ…」
「!やった!みんなありがとう!じゃあ僕も平良たちの携帯とかにいるから、サポートはするね!とりあえず、何かおかしなことがなかったか聞き込みだー!」
「お〜!」
どこか楽しげなフィンと、やる気満々な柚栗と久嗣
そんな三人を見て俺は一人、もう一度深くため息をついた




