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タカシの呼び出し

不機嫌な隊長と共にハルキの元に戻った俺は、ハラハラしながらハルキの行動を見守った。


とは言っても、ハルキは元々地主の夫妻以外とは小法師さまの話はしないし、寝て起きて学校に行って…という日常を淡々とこなしていく。それが崩れたのは、学校での昼休みの事だった。



話がある、とハルキを「音楽室」とかいう場所に呼び出したタカシは、いつになく緊張した顔をしていた。


「どうしたんだよ、こんな所に呼びだして」


「話したい事があるんだけどさ、春樹が他のヤツに聞かれたくねぇんじゃねぇかと思ったから」


「へぇ、珍しいね。隆志がそういうこと気にするの」


確かに。タカシは声もデカイしぶっちゃけ細かい事は気にしないタイプだ。よく言えば豪快、悪く言えばデリカシーとやらに欠けている。


ハルキは笑ってからかうように言ったのに、タカシはちょっとむくれた顔になる。


「もうお前にシカトされたくねぇからな」


「え…?」


小さな声で呟かれたタカシの愚痴は、ハルキには聞こえなかったらしい。気を取りなおしたように一息ついて、タカシは本題に入った。


「いや、ちゃんと謝っとこうと思ってさ。ホラお前、俺とその…ケンカしたまま引越してっただろ?今も素っ気ないしさ、まだ怒ってんのかと思って」


「…そうだっけ。子供の頃の事だろ?忘れてたよ」


ハルキはニコリと笑って「素っ気ないつもりなかったんだけど、悪かったな」とか何とか言いながら席を立った。どうもハルキにとっては居心地のいい話ではないらしい。


俺の隣では隊長が「うへー…こいつ絶対忘れてねえ上に根に持ってるわ。面倒臭せぇー」と呟いている。あ~あ、ハルキの心象がまた悪くなったじゃないか。


「とにかく怒ってないから、話それだけなら戻ろう。昼メシ食い損ねるぞ」


「嘘つけ明らかに怒ってんじゃねぇか!」


うん、話切り上げたいの見え見えだもんな。もう扉に向かって歩き出してるし。


「そんなに小法師さまが大事なのかよ!」


その場の空気が漏れなく凍りついた。


なんでタカシが小法師さまなんて知ってるんだ?ハルキとタカシの間でそんな話した事なんかなかった筈…まさか、昨日長と話てる間か?


忙しく自問自答する俺と同じくらい隊長も驚いていた。口をパクパクさせて、顔も青ざめている。


そんな中、一番先に立ちなおったのはハルキだった。さらに扉に足を進めながら呆れたように「何それ」と呟いてみせる。


「…何言ってんの?わけわかんないし。馬鹿言ってないで…」


「ごまかすなよ!」


ハルキの言葉をタカシがぶった切る。


「なぁ覚えてるだろ?あの時川で拾った小法師さまの事だよ。俺が小法師さまの事皆にバラしちまってから、お前俺の事ずっとシカトでそのまま引越しちまったじゃんか」


「そんな事覚えてない」


「嘘つけ!そりゃあの時約束破ったのは悪かったよ!でもあんなに怒るなんて!本気で絶交するくらい、大切な約束だって思ってなかったんだ!」


「隆志…」


完全に逃げ腰だったハルキも、タカシの必死さについに観念したらしい。漸く振り返って話を聞く素振りを見せた。


それを見て安心したのか、タカシの表情がちょっと和らぐ。ついでに声量もちょっと抑え気味になったのに安心する。あんまりデカい声では話して欲しくない内容だしな。


「俺だって悪かったと思ってんだよ…あれから俺、小法師さまの話は誰にもした事ねぇよ、10年間ずっとだ。」


タカシの言葉に俺も驚く。意外にもタカシは、俺が思ってたより繊細な部分があったらしい。ハルキも微妙な顔で落ち着かない様子になってきた。


「小さなおっさんの噂とか聞くと、あれがそうだったのかとか気になったけどさ、ついでにお前の激怒した顔も一緒に思い出すからなんか言えねぇし」


だんだんと声が小さくなるタカシをハルキは心底困った顔で見ている。


「あん時さ、春樹が『あれ、人形だった』って言い張ってあの話は有耶無耶になったし、もう皆あんなガキの頃の事忘れてる。俺ももう二度と言わねぇから」


ヤバい。さっきまで頑なにシカトを決め込もうとしてたハルキが、落ち着かない様子になってきた。思いの他タカシが真摯な態度なもんだから、対応に苦慮しているのに違いない。


そして俺も心底困っていた。


どうやら俺を拾った事で、二人は大げんかしてしまったわけで、なんだか責任も感じるし仲直りはして欲しい。でも隊長の手前、ハルキには是非ともシラを切り通して口の堅い所を見せて欲しい。


どうして欲しいのか俺もわからないけど…とりあえず、頑張れハルキ。


そしてハルキは、一瞬キュッと顔を顰めた後、困ったように笑ってこう言った。


「そっか…なんか、こっちこそごめんな」


「春樹!」


「そんなに真剣に考えてくれてたなんて思わなかったよ、ありがとな。なんかかなり酷いケンカしたのは覚えてたから、何となく気まずかっただけなんだ」


「へ……?」


「その事はもう怒ってないから。俺なんかケンカの原因も忘れてたくらいだし。ていうか隆志、細かい事までよく覚えてるなぁ」


しらばっくれる事に決めたらしい。

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