長老達が言うには
タカシの発言が気になって後を追おうとした俺は、いきなり後ろから引っ張られてちょっとよろける羽目になった。
「た、隊長?」
「イサキ!長が呼んでる。一緒に来いとさ」
「長が!?」
「おおかた山に来ねぇよう見張らせるか、何度も来るようならちょっと痛い目みせて懲らしめる算段でもするんだろ」
なんでそんな席に、新米の俺が…!
一瞬そう思ったが、明らかにハルキの事を一番知っているのは監視し続けてきた俺だしな。当たり前か。
重い気持ちを引きずったまま入った会議室は、さらに重たい空気だった。
「先に来たニンゲンは、イサキが調査していたニンゲンで間違いないな?」
「はい、名はハルキ。続いて来たヤツは学友で名をタカシといいます」
長は穏やかに話しかけてくれるものの、その周りを固めている長老陣の威圧感が凄い。
「なぜ調査していたニンゲンがこの山に足を運ぶ?」
「よもやそやつらに姿を見られたわけではあるまいな!」
いきなり詰問されるが、俺にだって理由なんか解るわけがない。
「少なくとも姿は見られていません」
心の中で「今回は」と付け加えながら、最低限の情報だけを口にした。
長老の中にはニンゲンへの嫌悪感を隠そうともしない人も多い。下手な事を言って刺激したくない、というのが正直なところだ。
「15~6歳くらいだと聞いたが、厄介じゃのう。好奇心旺盛で始末に負えん」
「少々痛い目に合わせてやれば良いのじゃ」
「山に来る度そんな目にあえば、その内あきらめて来んようになる」
血の気が多い武闘派長老方はいきなり追い返す算段に入ってしまった。ハルキもタカシも何にも悪い事はしていないのに、あんまりじゃないか。
そう口を開こうとしたら、長に目線で制された。代わりに長自らが柔らかな口調で会話に割って入る。
「長老方、ご静粛に。山に人が入ったと言えど、何か問題を起こしたわけでもありません」
「そうよの、今はまだ事を荒立てぬ方が良かろう」
長に同調してくれたのは穏健派の最長老だ。長を務めた事もあるほどの重鎮だが、俺にハルキが味方になれないか、調査して欲しいと頼んだくらいニンゲンに対して柔軟な人でもある。
「何を腑抜けた事を!皆が不安がっとるのは事実じゃぞ!」
「ハルキとやらが我らに興味を持ち、あまつさえ山にまで来る理由を調べてからでも遅くはあるまい。丁度良い人材も呼ばれておるしの 」
最長老はそう言って俺を見る。
ハルキの調査、続行って事だろうか。
「イサキと…スクナ、お主も行くがよい」
隊長まで!!
小山の守りは大丈夫なんだろうか。
「…分かりました。しっかり見届けて参りますので、ご安心を」
真剣な顔で宣言する隊長を見て、武闘派の長老達は満足げに頷いたが、俺はなんだか焦りのようなものを感じていた。
隊長は頼り甲斐もあって、俺たちには厳しくも優しい漢気ある人なんだが、国を脅かす可能性があると少しでも判断すれば、容赦なく手を下すだろう。
俺がいくらハルキを庇ったとしても、ペーペーの俺と隊長じゃ信頼度が違い過ぎる。
しかも隊長は、さっきのハルキの様子を見て「油断ならない」と言っていたくらいだ。ハルキを見る目は自然厳しくなるに違いない。
さらにやかましい上に行動が読めないタカシがからんできてるし。
地主の爺さんのところに行っては、楽しそうに俺達の昔の話を聞いていたハルキ。爺さんもハルキも、俺達を大事に思ってくれてると信じたい。
酷い目になんか合わせたくないし、許されるなら話してみたいくらいなんだ。頼むから、隊長にこれ以上疑われるような事だけはありませんように…!
俺は内心で一生懸命祈りながら、ギュッと目を閉じた。