小法師さまの伝説
爺さんがハルキに話すのは、案の定この土地に古くから伝わる、小法師様…俺達小人の話だった。
俺が知ってるものも、知らないものもある。小法師様の話をする爺さんは終始楽しそうで、優しげな目尻の皺からは俺達をとても大事にしてくれているのが分かる。
俺はちょっと泣きそうになった。
ガキの頃からニンゲンは怖いもの、信じてはならないものと教えられて来たのに、この爺さんは俺達の事をこんなにも大事に思ってくれている…。
「お爺さんは、小法師様を見た事はないんですか?」
!!!??
ハルキの突然の突っ込んだ質問に、出かけた涙が一瞬で引っ込んだ。
何を聞くんだ、いきなり!!
しかし爺さんは、豪快に笑って首を横に振った。
「見たいと思ってるがなぁ、まだ会った事はねぇなぁ!」
俺は胸を撫で下ろす。
そして言葉を継いだ爺さんは、少し秘密めいた目をしていた。
「まぁ会った事があったとしても、誰も話せん事よ。こぼし様は人の口の端にのぼる事を極端に嫌がるからなぁ。伝説で我慢するこった」
そして、ハルキの頭を乱暴にわしゃわしゃとかき回すと、しっかりと目線を合わせてこう言った。
「もしもボウズがこぼし様に会ったとしても、誰にも言っちゃなんねぇぞ?もちろんワシにもだ」
その目からは、強い決意が伝わってくる。
俺達の山を売らずに守ってくれてる爺さんが、何を考えてそうしているのかなんて、こんな事でもなきゃ一生知らなかっただろう。
信じてはいけないニンゲンと、この爺さんみたいに…信じていいかも知れないニンゲン。
俺はこの日、ニンゲンにも2種類が居る事を知った。
沢山の話しを聞き、老夫妻から散々可愛がられてから、ハルキが帰途についたのは、もう夕闇も迫る頃だった。
老夫妻宅を出て、その後ろに広がる俺達の小山をじっと見る。
何を考えているのか…。
5分程そうして佇んでいたハルキは、ほうっ…とため息をつき、伸びをしてから歩き始める。その顔はとても晴れやかで、なんだかとても幸せそうだった。
翌日も、その翌日も、ハルキは飽きもせずに毎日爺さん宅を訪れた。
話すのは、この地域に伝わる俺達の話ばかりだ。そして、夢見るような瞳で俺達の小山をしばらく眺めてから帰途につく。
俺は悩み始めていた。
ハルキがいつ小山に足を向けるか分かったもんじゃないからだ。
ハルキは独り言も言わないし、友達との会話に俺達の事が出てくるわけもない。唯一、小山の持ち主の爺さんとだけは伝説として話をしているけれど、ハルキが俺達の事をどう思っているかなんて、会話の中でも出てこない。
そのかわり、ハルキの口からは俺との出会いも語られなかった。忘れているのか、爺さんの言いつけを守って口を閉ざしているだけなのか…。
そんな時、事件は起こった。