気になる出かけ先
翌日。ハルキがまた外出する。
俺は訳もなく緊張しつつ、ハルキの荷物に忍びこんだ。
こいつが何を考えてるのか、何をしてるのか今のところ皆目分からないだけに、無駄に心配してしまうんだけど…よく考えりゃ学校外の友達と会ってるだけかも知れないし。
バイト?って言うんだっけ、なんか働いたりしてるのかも知れないのにな。俺ってこんなに疑い深かったっけ?と自問自答だ。
実際俺が国から命じられた任務は、ほぼ完了している。
ハルキが「小さなおじさん」情報を躍起になって追ってくれてるおかげで、ニンゲン達の間でどれくらい騒ぎになっているかも分かったし、別にそれで国が脅かされそうな事にはならない事も理解できてはいるんだが。
今もハルキの様子を見守っているのは2つの理由があるからだ。純粋に自分がハルキに興味があるからってのが1つ。そしてもう1つは俺の報告を受けて、ニンゲンと友好関係を築けないかと考えている長老から、ハルキが味方になれるニンゲンかをもう少し調べて欲しいと頼まれたからだ。
国的にいえば、ハルキ個人の動きなんか取るに足らない事だが、味方になれるならばその存在価値は大きい。それはニンゲンに姿を見せて交渉するという大きなリスクを伴う判断で、それこそ国を挙げての大論争になるだろう。
ハルキは味方になれるほどの器なんだろうか…。今の俺にはハルキの考えなんかこれっぽっちも分からない。
複雑な心境で荷物の中から顔を出してみれば、ハルキがゆっくりと歩いていく先は奇しくも俺達の住む山の方面だ。ちょっと懐かしい。
迷いなくずんずんと歩いていくハルキ。
だが、雲行きが怪しくなってきた。
行く手に山が見えるどころか、これ、明らかに俺達の山に向かうルートじゃないか?
すでに商店街も抜け、住宅街も抜け、民家もまばらになっている。この車一台分しかない細い道の先には、民家三軒と、俺達の住む山しかない。
俺は真っ青になった。
心臓がバクバクとうるさい。
ハルキ、一体何を考えてるんだ…?
俺はハルキに助けられた時も、住処の事は何も話してない。それなのに、お前は何を知っている…?
目まぐるしく頭の中で色んな疑問が飛び交うが、もちろん答えなんかないわけで…俺は不安な気持ちのまま、ハルキの荷物の中でやきもきするしかなかった。
容赦なく山に近づいて行くハルキ。
心臓が絞りあげられるように痛い。
いきなり、ハルキの足が山から逸れた。
山の間際の家に入っていく。
ふぅーーーー………セーフ!!
なんだよ!驚かせやがって!
寿命が相当縮んだだろうがぁ!!
心の中で思いっ切り文句を言う。
本気で吐きそうだったぞ!?
やっと安心して周囲を見回し、俺は首を傾げた。
あれ…?
ここは…見覚えがあるぞ?
「すいませーん!お邪魔しまーす!!」
呼び鈴を鳴らしてはいるが、ズカズカと家の中に入っていくハルキ。なんだか慣れた様子だな…。
「いらっしゃい、待ってましたよ」
奥から上品な年配の女性が出てきた。やっぱりこの人にも見覚えがあるけど…誰だっけ。
「おーボウズ!さっさと上がってこいや!」
乱暴な物言いだが、ハルキを歓迎してるのが分かるおっさんの声。ハルキはいつになくうきうきした様子で奥の部屋に進んだ。
「こんにちは!」
部屋で待っていたのはがっちりした爺さん。日焼けした肌に豪快そうなデカい口、人の良さそうな笑顔…こいつ、俺達の山の持ち主だ!
「ボウズもあきねぇなぁ。そんなに面白いか?」
「はい、凄い面白いです!今日もたくさん話聞かせてください!」
ハルキが嬉しそうに笑うから、爺さんも豪快に笑った。てか、こんなハキハキしたハルキ、初めて見るんだが。ハルキはこの夫婦に相当気に入られているらしく、あれ食えこれ食えともてなされている。
ハルキはそりゃあもう楽しそうだが、こっちは気が気じゃない。ハルキがこの老夫婦から聞きたい話なんか、俺達の事に決まってるじゃないか…!