ハルキなりの誠意
「この山の持ち主の人から色々昔話は聞けたけど、それだけなんだ。…本当に別に隠してる事なんか何もないんだよ」
「それじゃ俺を避ける理由にはならねーだろ?」
それはそうだ、それは俺も不思議だったんだよな。ハルキもなんだか言い辛そうに口ごもってるし。
「…隆志と話して小法師さまの話がでたら困ると思ったんだ。予感的中だけどな」
「意味わかんねぇ。なんでダメなんだ」
「あの時も言っただろ。小法師さまの事は誰にも言っちゃいけないって」
「ああ、ばあちゃんから聞いたって言ってたヤツか」
「……本当によく覚えてるな」
「当たり前だろ。小人見ただけでもショッキング過ぎて忘れられねぇのに、あれが元でお前に絶交されたからな」
タカシの記憶力にもびっくりだけど、ハルキはあんなガキの頃から言いつけを頑なに守ってたわけか。言う事聞かずにヤンチャして挙句に川に落ちた俺とは真逆のヤツだな。
「この山の持ち主にも言われたし…どんな形であれ、小法師さまの事は話題にしたくなかっただけだ」
「酷ぇな。マジで俺、小法師さまのせいで春樹に冷たくあしらわれてたのか。いるかいねぇかも分かんねぇって言ってる癖に」
「ごめん…。確かに自信はないんだけど…色々調べてる内にやっぱりこの山に小法師さまが居るんじゃないか、いや、居て欲しいって思えてきて」
「ふぅん…だから? 」
「どうしてもまた、小法師さまに会いたかったんだ。だから嫌がる事だけはしたくなかった」
そう思ってる事がタカシにバレるのも恥ずかしかったらしい。
「恥ずかしい?何が?」
「いや、ガキの頃ならまだしも、この年になってまだ本気で小法師さまに会いたいとか、普通に恥ずかしいだろ」
「いやー、恥ずかしくはねぇだろ?俺も会いたいけどな。特にあの時の小法師さまとか、ちゃんと元気にしてるのか気になるしなぁ」
どこまでもあっけらかんとしたタカシに、心配症なハルキ。正反対な性格だけど、だからこそ気があってたんだろうな。
「落ち着いたようだね」
いきなり後ろから、長の声が降ってきた。
「彼らの話で気になる点があるんだがね。特に『川で拾った小法師さま』の事なんだが…イサキ、ちょっといいかね?」
これは…ヤ バ い。
元来すばしっこくて機転もきく小人族。この2~30年で川に落ちたなんて間抜けは俺くらいだ。
その後既に何かを確信した様子の長に拉致られた俺は、当時の事を根掘り葉掘り聞かれ、報告しなかった事を叱られ、さらに小人を見た事があるハルキを観察対象に選ぶという危険を独断で冒した事をこってり絞られた。
その場に他の長老達や隊長がいなかったのは、多分長のお情けだったんだろう。フルメンバー居たら説教は日が暮れても終わらなかっただろうし、むしろ厳罰が下されてもおかしくなかったんだし。
さすがにちょっと涙が出たあたりで漸く長のお叱りも終わり、舞台は会議室に移された。
ここは、国の重要な方針を決める時に使われる、特別な場所だ。昨日と同じ、この国の重鎮達が集まっている。若いのは俺と隊長くらいだ。
「さて…皆さんにお集まりいただいたのは他でもない、あのニンゲン達の事ですがね」
長の言葉に、会議室にはざわめきが走る。ヒソヒソと交わされる長老達の会話の内容は、残念ながら聞き取る事が出来ない。
長老達の密やかな会話を抑えて長が話し始めたのは、この前俺と隊長が聞いた、代々の長に伝わる重大な任務の話だった。
その後はもう、蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
そんなバカな、と呆然とする爺さん。ニンゲンに歩み寄る必要などないわ!と吠えまくる爺さん。何故そんな重要な事を長だけで抱えていたのかと詰め寄る爺さん。
会議室は爺さん達の困惑と怒号で満ちていた。頑固でまだまだ元気な怒れる爺さん達を、長を経験した事がある数人の長老達が根気良く説得していく。俺はただ、それを身を小さくして聞いていた。
そういえば長に抜擢されてるのって、穏健派で口調が柔らかい、社交性の高い爺さんばっかりだなぁ…仲間になれるニンゲンを探すなんて任務、そりゃあ武闘派の爺さん達には託せないだろうなぁ…と現実逃避しているうちに、漸く議場が収まってきた。
俺にとって本題のハルキとタカシをどうするかの議論に移れたのは、もう夜も遅くなってからの事だった。