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小山での攻防

「ほら、マジで昼メシ食おうぜ。今日は先約あるから無理だけど、また今度遊びに行こうぜ。次はちゃんと予定空けとくからさ」


「…ああ…」


納得いかない顔をしつつも、ハルキにそれ以上話す気がないのを感じとったのか、タカシもさらには食い下がらなかった。


音楽室から出て行った二人を追いかけながら、俺も安堵なのか何なのかわからないため息をつく。


「二人はどうやら子供の頃に俺達小人族を見た事があるみたいだな」


隊長の言葉に心臓が跳ね上がる。

しかし!動揺を悟られるわけにはいかない。俺だって死罪とかキツい刑罰とかは勘弁願いたいんだ。


頑張れ俺!

出来るだけ自然に振る舞うんだ!


「そう…っすね。でもハルキは隠しておきたいみたいだから…口はかたいんじゃないですか?」


「そうかもな。でも気に入らねぇ」


え?


思わず二度見したら、隊長は不機嫌極まりない顔でハルキを睨んでいた。


「いくら秘密を守るためとはいえ、あのタカシってヤツがあんなに真剣に謝ってるのに、ごまかして涼しい顔してやがる。…気に入らねぇよ」


そ…そうかも、そうかもしれないけど…それはどっちを優先するかって選択であって…


「単細胞そうなタカシとやらの方がよっぽど好感が持てる」


ええ!?マジですか!?




午後の授業の時間は散々だった。


ガッツリお怒りモードの隊長の横でビクビクしながらハルキの授業を見守る。横からイライラした空気がビシビシと伝わって来て、かなり落ち着かない。


ハルキが学校から帰り、俺達の小山に足を踏み入れる頃には、既に精神的疲労はピークに達していた。


俺のそんな気持ちとは裏腹に、ハルキは昨日と同じように小山の入り口から中を覗き、ゆっくりと足を進めていく。今日はマキの木を通り過ぎ、少し中まで入っていくようだ。


昨日よりもはっきりと、何かを探すようにキョロキョロしていたかと思ったら、目を見開いて息を呑んだ後、嬉しそうに微笑んだ。




その時だ。




「よう、春樹」




後ろから、あり得ない声がした。


ハルキの気配が凍りついたように固まって、やがて錆び付いた機械みたいにぎこちない動きでゆっくりと振り返る。


「た…隆志…なんで、ここに」


「尾けたからな」


「はぁ…?」


あっけらかんと凄い事を口にしたタカシに、一瞬ポカンとした表情を浮かべたハルキだったが、すぐにザザッと後ずさり、距離をとって抗議する。


「キモい!ストーカーか!二度とするな!て言うか帰れ!!」


おお、ハルキも怒るんだな。

いつも穏やかだったからちょっと新鮮だ。声は抑えているもののちょっと珍しいくらい怒っているハルキを前にしても、タカシは一向に気にした様子もない。


むしろその目は楽しそうですらある。


「イヤだね。この山には俺だって興味があるんだ。俺と一緒がイヤならお前が帰れば?」


途端にハルキは真っ青になった。


「な…なんで、そんな。ただの荒れ山だろ」


反論に力がない。おいおい、ここには山ほど俺の仲間達がいるんだぞ?バレたらどうしてくれるんだ。…せめてあの音楽室の時みたいに冷静に対処してくれればいいものを。


「ホラ見ろ、急に青くなりやがって。ごまかしたってムダなんだよ…だってここ、お前がガキの頃に『小法師さまの山』だって言ったあの山だろ」


「…またさっきの話か?隆志も大概しつこいな。そんな昔の話なんか忘れたって、何回言わせるんだよ」


肩をすくめ、うんざりだとでも言うようにハルキがタカシに背を向ける。でも、ハルキの拳は白くなるくらい握りしめられていた。


タカシの記憶力にもびっくりだが、この様子だとハルキにもそんな話をした心当たりでもあるんだろう。それにしても、なんだってハルキはこの小山が『小法師さまの山』だなんて知ってたんだろうか。



そんな疑問も今はとてもじゃないが解消できない。ニンゲンに接触出来ない今の時点では、このハルキとタカシの攻防もただハラハラしながら見守るだけだ。


頑ななハルキの態度に、いよいよタカシが焦れてきた。


「あーあーそうかよ!あくまでシラ切るつもりならいいさ」


吐き捨てるように言って、タカシが踵を返す。ハルキは背を向けたまま、ホッとしたような悲しいような、なんだか複雑な表情をしていた。

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