巷で噂の「小さなおじさん」
またテレビで「小さなおじさん」が話題になっている。
俺は頭を抱えて呻いた。
身長10cm前後、スーツ姿だったりジャージを着てたり…ドジを踏んでいる場面を目撃されがちな、ちょっとマヌケな小人。
『都市伝説』と言われるそれは、ぶっちゃけ実在している。
しかも、俺の仲間達だ。
どうしてこんなに頻繁にニンゲンに見られちゃってるんだよ!皆体が鈍り過ぎなんじゃないのか!?
腹立ち紛れに椅子を蹴っ飛ばしてみたものの、悶絶するような痛みが俺を襲っただけで、気分は一向に晴れない。
ニンゲンの技術の進歩と共に俺達の暮らしも豊かになって、昔より全体的に運動能力が落ちた事は認めよう。中年になるとさらに鈍くなるのも仕方ないだろう。
でもさ!?
何もことごとくニンゲンにガッツリ目撃される事ないだろう!
おっさん達のうっかり連発のおかげで、国の守備任務についたばっかりの俺は、護国の任務より先にニンゲンの国の偵察任務につく事になってしまった。
俺達は基本、少しだけ人里離れた小山に住んでいる。
ふもとにはところ狭しとニンゲン達の家々が建っていて、俺達の小山は街中に取り残されたような状態だ。小山の持ち主がこの小山を売らないでいてくれるから、俺達はこれまであまり苦労もせずに暮らしてこれた。
だが、国によって事情は様々だ。
日本全国津々浦々に広く分布している俺達小人族は、地域地域で小さな国や村を作り、時には交流しながら暮らしてきた。
国独自の法律もあれば、服装や料理、言葉や考え方まで国によって違う。どの国もさほど変わらないのは、ニンゲンに対する接し方くらいじゃないだろうか。
ニンゲンは便利だが、危険だ。
暮らしの役にたつ技術や資材を手に入れるには、ニンゲンの住まいが一番適している。ちょいちょいお邪魔しては、必要なものを貰ってくる…豊富な戦利品をもたらす優秀な狩り場だ。
だが一方で、俺達はガキの頃から「ニンゲンには決して姿を見せるな」と、厳しく叩き込まれる。
その昔ニンゲンに囚われ、酷い扱いを受けた仲間が何人もいたようで、その教えだけはどれだけ代が代わっても、最重要の教えとして受け継がれてきた。
それなのに、だ。
おっさん達のこのていたらく。
全く、嘆かわしい。
相次ぐ不祥事に頭を痛めた長老会から、俺に与えられた任務は2つ。
頻繁に姿を見られた事で、ニンゲン達の間でどれくらい騒ぎになっているかを探る事。
そして、それに対してのニンゲンの考えや、不穏な動きがないかを探る事。
俺がもたらす情報で、国の指針が変わると思うとかなり恐ろしい。俺は慎重に調査し、誤りのない情報を提供する義務がある。
ぶっちゃけ今、長老会でも意見は大きく割れている。
片方は昔ながらの考え方で、ニンゲンを敵と捉え姿も見せなければ一切関係を持たないというものだ。
そしてこのところ台頭してきたのが、ニンゲンと友好的な関係を結べないか、という考え方。
ニンゲンの家で狩りをしていれば、自然ニンゲンの情報にも詳しくなる。
昔なら捕らえられ見世物にされたような病や未知の生物は徐々に解明され、知能が高い動物さえ愛護される時代に、同じ人型である小人族が迫害される事はないのではないか…長老達の中でさえ、そう考える人もいるのが現状だ。
おっさん達がニンゲンにちょいちょい目撃されるのは、単に運動不足なだけでなく、もしかしたらニンゲンへの警戒心が急激に薄れているせいなのかも知れないな…。
俺はテレビを見ながら、そんな事を思っていた。テレビでは、仲間達の失態が次々と報じられる。
「うちのワンちゃんがあんまり吠えて暴れるから、様子を見に行ったら…背中に、小さいおじさんが乗ってたんですぅ!!」
……知ってる。毛を分けて貰おうと思ったら意外と抜けなくて…って言ってたわ。
「鴨居に座って、テレビ見てたんですぅ!」
……それも知ってる。最終回だったんですぅ~!とか、おっさん、長老達に泣いて謝ってたわ。そのせいで居合わせた俺、この調査に派遣されたし。
テレビの中には興味津々といった様子で語り手の話に聞きいるコメンテーター達。ちくしょう、人の失敗をそんなにあげつらって何が楽しいんだよ!
仲間達の失態を赤い顔で見ながら、俺は心の中で思いっきり悪態をついた。
目撃談はまだまだ続いている。
「仕事が辛くて自宅で泣いていたら、元気出せよ、って励ましてくれたんです」
……それ誰!?話しかけちゃってるじゃん!
「仕事が終わらなくて…泣きながら徹夜で作業してたら、緑色の小人達がわらわら出てきて、手伝ってくれたんです」
組織ぐるみ!別の国のヤツらの仕業か!?
俺は驚愕した。