story4…静止
「そう!“女神”は俺が殺したッ!!だから俺は自由だッ!!あっははははは!!」
邪神は高らかに笑い続ける。
高揚感を抑えきれず、ただただ笑い、それを満たす。
「バカな…、そんな…」
ジュリアスはますます混乱している。
頭を抱え、状況を整理しようと必死に思考を働かせている。
そして状況を理解した時、ジュリアスに過ぎったのは恐怖の色。
「…」
邪神は呆然と立ちすくむジュリアスを見て、さらに笑った。
「あっっははははは!!!なんだよその豆鉄砲喰らった顔は!!ウケるぜあっっはははは!!!」
邪神の笑い声が暗い地下室に響き渡る。
「…っ。力ずくで従ってもらう!!」
ジュリアスが額に血管を浮かべ、邪神にそう怒鳴った。
後ろに控えていた黒ローブを着た者達も、ぞろぞろと邪神を大きく取り囲む。
ジュリアスが両手を前につきだし、構えるの見て黒ローブの者達も同じように構えた。
「何だ何だ?攻撃ってか?っはははは!!」
邪神はまだ高らかに笑い続けている。
その嘲笑う邪神の態度に、ジュリアスは先ほどから怒りが絶えない。
「紅蓮の灯をその身に灯さん!!火炎!!」
ジュリアスが唱えるのに合わせて、他の者達も魔法を繰り出す。
一斉に魔法の重ね掛けで威力が増幅した炎が、邪神を包み込み盛大に燃え上がる。
「…やったか…?」
ジュリアスが燃えさかる炎の中を、目をこらして覗く。
自分の出した炎のせいで、邪神の姿が見えないのだ。
しかし、これだけの威力の炎で、生きているハズがない。
ジュリアスはにやっと笑ったその時、
「あー暑い暑い」
ジュリアスの背後から声がした。
ジュリアスは振り返ろうとしたが、振り返ることができなかった。
邪神の鋭い爪の切っ先が、自分の首筋を正確に指していたからだ。
「なっ…なぜっ……」
「何故って?そりゃあお前、俺がケツァルコアトル様だからよ。あんな魔法たやすくかわせるね」
にやにやと笑いを浮かべながら答える。
邪神は、魔法が発動する前に円の外に出ていたのだった。
「はは…は。さ、さすが覇者だ…。速さも比べものにならない…な」
ジュリアスは首筋に冷や汗をかきながら、じっとしている。
「っはっはっは!…じゃ、そゆことで…」
「待ちなさい」
どこからともなく、この場に似合わない澄んだ声がした。
凛とした、威勢の良い声が地下室に静かに響く。
その場にいた全員が、声のする方を見た。
少女が立っていた。
その声の主は、魔法陣の中心で倒れていたハズの少女だった。