story2…邪神
「…おいおっさん」
魔法陣の中心にいる男が口を開いた。
すでに魔法陣の光はやや残るものの、ほんのりとその周辺を照らす程度だったため、
中心にいる男の表情も見て取れた。
「こ、コイツ喋れるのか!?おい!ジュリアス!!」
小太りの男は驚きの表情で叫び隣の顔を隠した男に訊いた。
「…存じ上げません。しかし彼が喋ったと言うことは、そういうコトなのでしょう」
ジュリアスと呼ばれた、顔を隠した男は静かに言った。彼も驚いているようだ。
「何ごちゃごちゃ言ってやがる、いいかおっさん」
「おっさんではない!我が輩は貴様の主のグロウだ!」
小太りの男はそう名乗った。
魔法陣の中心にいる男は、静かに立ち上がり、グロウに近寄った。
男の容姿は無造作に伸ばした黒髪、目は緋色のように赤く、肌は緑色の鱗に覆われている。
服はなんともめずらしい恰好だった。神聖的なものと言われればそうとも見れるものだ。
「へぇー、主ね。アンタが?ははっ」
男は嘲笑し、グロウとの距離をゆっくり縮める。
「そ、そうだ。我が輩は貴様の主だ。跪けい!」
近寄ってくる男に、グロウは焦り、少し後さずりをする。
ジュリアスはグロウに少し距離を取り、近づいてくる男の様子を伺うように見つめていた。
「跪く?俺が?アンタに?…くっはははは!笑っちゃうねぇ〜?」
「な、何だと!!貴様我が輩を嘲笑うか!!?」
男とグロウの距離が数センチに縮まった。
男はグロウを見下ろし、にやにやと笑っている。
「貴様!!主を見下すか!?!無礼も…」
グロウの言葉は、男の右手によって制された。
男の右手の長く鋭い爪が、グロウの額に突き刺さっている。
「ぐ…バ、バカな…そんな…」
グロウは僅かに残るかすかな意識で、呻いた。
男は右手をグロウの額から引き抜く。
その刹那、額からプシューッと血が噴き出す。
ドサッと倒れるグロウ。意識はもう無かった。
グロウの額から流れる血が、床にゆっくりと模様を描くように広がる。
「俺の主なんかいねぇよ、バーカ」
男は右手の血を拭い、長い爪を引っ込めた。
そして大声で、高らかに叫んだ。
「俺は、邪神ケツァルコアトル様だ!!」