いい風呂の日(11月26日)
twitterネタその2。ドベ君視点。
十一月も終わりに近づくと、五時過ぎにはもう外が暗い。部活が終わる頃にはもう真っ暗だ。
今日の部活も、終わった時間には既に星が輝いていた。晴れているのはいいが、風が冷たい。汗をかいた後の肌にこの風はそこそこ堪える。
これは気を付けないと風邪を引くな。
そう思って家路を急いでいたんだが、もう少しで家に着くというところで突然肩に重みが加わった。その原因に心当たりがありすぎて振り向くのも億劫だ。が、原因の方は俺を開放する気はないらしい。
「お、奇遇だな。一緒に銭湯行こうぜ☆」
慣れたくもないのに聞き慣れてしまった悪友の声が、耳元から聞こえてくる。肩を組まれているから当然なんだが、重いし、何よりウザい。俺が部活で疲れてるのがコイツは何故わからないのか、まったくをもって謎だ。
「断る」
最も短く、かつ、ハッキリと意思表示できる言葉を選んで悪友の腕を払うと、悪友はスッと素直に離れた。
──ん? 素直に? いつもはなんだかんだと絡んできやがるヤツが、今日に限って何も抵抗しないなんて不自然だ。おかし過ぎる。
俺が悪友の行動に『何か』を感じてそちらの方へと振り返ると、にやにやと下品な笑みを浮かべる悪友がそこにいた。
「へぇ……いいのか? チワワちゃん達がいるらしいんだけど」
悪友の言葉に僅かに眉が寄った。それは本当に一瞬だけだったはずだが、無駄に付き合いの長い悪友は俺の表情の変化を見逃さなかったらしい。俺が反応したことに満足したのか、俺に対する優越感からか、笑みがますます下品になる。にたにたと緩む自らの頬を撫でているところからして、碌でもない想像をしてることは簡単に予想がついた。
「ほら、今日は『十一月二十六日』だろ? すぐそこのスーパー銭湯が入浴料半額キャンペーンやってるんだよ。で、チワワちゃんが親友ちゃん誘って二人で行ってるんだってさ。
風呂上がりのチワワちゃん、可愛いだろうなぁ……。ほこほこにほっぺたが上気して、髪がしっとり濡れてて、ちょっと目が潤んでて、胸元とか項とかが少しハダケてt……!?」
頼んでもいないのに勝手に俺への情報提供を始めた悪友が次第にネジの飛んだ思考を垂れ流し始めたところで、俺は悪友の頭をガシリと掴んだ。
お前は本当にまったく何の反省もしてないようだな。ついこの前、余計なことはするなと釘を刺したつもりだったんだが。刺し足りなかったらしいな。そうかそうか。じゃあ望み通り追加しといてやる。
「ごめんなさいすみません放してください反省してます」
悪友が何か言っているが無視するに限る。
俺は悪友の頭を掴んだまま、件のスーパー銭湯の方角へと足を向けた。
【元ツイート】
悪友「お、奇遇だな。一緒に銭湯行こうぜ☆」
ドベ「断る」
悪友「へぇ…いいのか?チワワちゃん達がいるらしいけど」
ドベ「!?」
悪友「風呂上がりのチワワちゃん、可愛いだろうなぁ…ほこほこにほっぺた上気して、髪がしっとりで、胸元とか項とかが少しハダk…ぐぇ!」