チワワな彼女の親友
「お前、告られたんだってな」
明日から定期テストを控えた週末。高校生活も後半に入り『進路』の文字がチラつき始めた。
そのせいか、何故か悪友と俺の家でテスト勉強をやることになった。
俺はどちらかというと一人で机に向かっていた方が捗るんだが、悪友が強引に決めやがったものだから仕方ない。
本当にはこないだろうと適当にあしらっていたんだが、今朝、起床と同時に「十時には行くつもりだからな」というメールを受け取ってしまい諦めた。
そして悪友が来訪し、俺の部屋でコタツテーブルを挟んで勉強を始めてみれば、一時間も経たない内にこの台詞だ。
ちっ。真面目に勉強する気あんのか? いやそれよりも、コイツは本当にどこからそういう情報を仕入れてきやがるんだ。
「どーすんの? あの子、結構可愛い子じゃん」
ずりずりと俺の隣まで移動し、馴れ馴れしく肩を組んでくる悪友を片手で去なしながら短く答える。
「断った」
「え……振ったの? マジで!? 何で?」
悪友は驚いたのかいったんは怯んだが、満足の行く回答じゃなかったらしく、さらに食いついてきた。
「お前には関係ない」
顔を逸らすも、さらに覗かれているのがわかる。耳に、頬に、首筋に、悪友の視線を感じる。
「ほーぉ。つまり、好きな子がいるのか」
「だから、何故そうなる」
頑なな俺の態度から勝手に結論付けた悪友を、ばっと振り向いて睨みつけると、悪友はニヤニヤといつもの下品な笑みを浮かべた。
「お? 図星か。へぇ、お前がねぇ……」
肩組むな。顔寄せるな。頬を指でつつくな。いちいち近いんだよお前は。人の気も知らないで……くそ。──襲うぞ。
「誰?」
ここで、この状況で、俺が惹かれてるヤツの名を言えと? ──言えるわけがないだろう。
触れられているところが熱い。こんなに密着してると危険だ。毒だ。平静を保てない。理性が焼き切れそうになる。
腕で悪友の身体を払うと、タイミング良くその手首を掴まれた。振り解こうとしても動かない。掴む力は結構強く、痛みすらある。
「放せ」
「──なんか、妬ける」
は?
冷たく突き放した直後、ぽそりと呟かれた悪友の言葉に耳を疑う。動揺して腰を浮かせたが、悪友に掴まれたままの手首を引っ張られてバランスを崩した。なんとか転ぶのは免れてベッドに腰掛けたものの、距離を詰めてくる悪友に『何か』を感じ、俺は後退った。
「お、おい……」
「……」
無言で近付く悪友から距離を取ろうとするも、狭いシングルベッドの上に逃げ場などない。すぐに背中が壁に当たった。
「お前、なんか変だぞ?」
「だとしたら、お前のせいだ」
悪友から、いつもの笑みが消えている。俺がそのことに気付いたときには、視界が反転していた。白い天井を背景に、熱い光を宿した瞳で俺を見下ろす悪友が俺に問う。
「その、お前の好きな子とオレと、どっち選ぶ?」
「お、お前、何言って……」
やっと出た声は、情けないほどに掠れていた。
「──オレを選べよ」
切なげな悪友の声に息を飲む。その隙に俺は覆い被さられ──
「んぎゃぁああああ──!!」
「うわっ!? ちょっと、ウルサいんだけど!」
私は隣から聞こえてきた煩悶の絶叫に、指で耳を塞いだ。
悲鳴の主は、私の親友だ。
同じ年齢とは思えない可愛らしいサイズと人懐っこい性格の持ち主。そのせいか、見る人に子犬とか小型犬みたいな印象を与える。本人があまり気に入ってないみたいだから口には出さないけど、少なくとも同じクラスのみんながそう思ってたりするのよね。
「何? どした?」
私が尋ねると、親友はごめんと謝った上で半ば涙目で
「こ、ここここ、これ……返上、いたします……」
と動揺しまくったまま、私に読んでいたノートを押し付けてきた。
「つまらなかった? 今度のイベントまでに作る(薄い)本のネームなんだけど、直した方がいいかな」
「そ、そういう問題じゃなくてっ! コレ、BLじゃん!」
「うん、そうだよ」
「『下読みして』って言うから読んだのに、BLなんて聞いてないよ……」
「だって聞かれてないし、言ってないもの」
そこまで会話して、ようやく気が付いた。そうだ、この親友は『腐界の民』じゃないんだっけ。
「あぁ、ごめん。ダメなんだっけ?」
「うーん、読むのは苦手だなぁ」
そう答えた親友は、本当に申し訳なさそうだ。その頭とお尻に、犬耳と尻尾がクゥンと垂れ下がっているのが見えた。もちろん気のせいだけど。
この親友は本当にいい娘だ。単純だけど純粋で、人を色眼鏡を掛けて見るってことをしない。
集団生活の中ではいつの間にか仲間外れにされがちな『普通』とは違うタイプ人に対しても、先入観なく接する。相手を認めて「そういう人なんでしょ?」の一言で済ましてしまう。
うん、そう。姿形はミニチュアサイズなのに、懐が大きいんだ。
だから私も、人とは一風違う貴腐人な趣味を臆することなくさらけ出すことができる。理解してくれる人はなかなかいないとわかってた分、親友が躊躇も狼狽もせずにアッサリと「そうなんだ」と首肯してくれたときは嬉しかったな。この娘自身は、その価値をわかっていないみたいだけど。
私にとって、何者にも代え難い大切な親友、それが彼女だ。
──そんな親友が、最近恋をした。
「それに、なんだか主人公が、その、先輩に似てるような気がして……」
親友が遠慮がちに私へと告げる。受け取ったノートをパラパラと捲りながら、私はその疑問に答えた。
「そりゃそうよ。モデルにしたんだもん。ツリ目の先輩と、そのオトモダチ」
「やっぱり……」
親友ががっくりと頭を垂れ、数秒後にガバッと起こした。
「特徴捉え過ぎだよ! 無駄に絵も上手いし」
無駄って何よ。複雑な気分になるも、唇を尖らせて文句を言う親友の頬が赤いのを見てしまうと、許したくなってしまう。まぁ、私も悪いしね。なんたって、親友の想い人をモデルにしちゃったんだから。
彼女の恋の相手、それはバスケット部に所属する二年の先輩だ。私たちの間では、通称『ツリ目先輩』。
確かに顔はそこそこカッコいい。でも目つきが鋭くて愛想がないのよね。親友によると『優しい』らしいけど、親友フィルターを通すとほとんどの人が『いい人』になるからなぁ……。
ツリ目先輩よりも、そのオトモダチさんの方がずっと愛嬌があると思う。優しいって言うよりもチャラそうだけど。
私の予想ではツリ目先輩はツンデレキャラだ。でも、デレても表情は変わらなさそう。
実は、親友の気持ちをさらっていったツリ目先輩に、ちょっぴり嫉妬している。だって私、この親友のことがとても大切で、大好きなんだもの。
このマンガは、そんな私の複雑な思いを投影した、ちょっとした仕返しみたいなものだ。親友には悪いことしたなって思ってる。ちょびっとだけ。
でもさ、腐女子が滾るようなコミュニケーションする先輩方も悪いよねー。
あ、もちろん、親友の恋が成就したらいいな、上手く行って欲しいなって、思ってるのよ?
まだ片想いらしいけど、親友の話を聞く限り、向こうも満更じゃなく思ってそうだから……くっつく日は近いかもねぇ。




