表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第一話「滅びの使者」



「……どこだ、ここ」


 目を覚ましたら、見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。

 確か俺はトラックに撥ねられたはずなんだが、なぜか外傷は見当たらない。それどころか……


「身体が……軽い」


 そう、身体が異様に軽い。まるで自分の身体の重みを感じない。どこか浮いているような感覚がある。


「おお、起きなさったか。大丈夫かね?」


 自分の身体の異変に戸惑っていると、部屋のドアが開いて、老人がひとり入ってきた。

 優しそうな老人だ。少なくとも俺に対して敵意や害意はない。


「大丈夫かね? 気絶しとったようだが……」


 ベッドの横に置いてあった椅子に座り、心配そうに聞いてくる。


「ええ、大丈夫です。あの、ここは?」

「ん? ここは私の家じゃよ。たまたま君が村の近くで倒れとったんでのぉ、運んできたんじゃ」

「そうですか、ありがとうございました」


 そう言ってふと気付く。一体何年ぶりだろうか、「ありがとう」なんて言ったのは。

 使う場面に恵まれなかったせいで(半分自分で放棄していたが)長いこと忘れていた言葉だ。


「いやいや、構わんよ。しばらくゆっくりしていきなさい」

「すみません、ご迷惑をおかけしたようで」

「構わんよ、このくらい。ところで……君はどこの国の人かね? 見慣れん服を着ているようだが」

「は?」


 一瞬意味がわからなかった。どこの国って、ここは日本じゃないのか?

 それに見慣れない服って……こんな制服ぐらいどこにでもあるだろ?


「え、と、日本ですが」

「ニホン? どこかねそれは、聞いた事の無い地名だが」


 俺は、自分の耳を疑った。日本がわからないって、しっかり日本語で会話しているんだが。


「あの、ここは日本じゃないんですか?」

「何を言っとるんだ? ここはカスカ村じゃよ」


 どこだよ、それ。少なくとも俺の頭の中には、そんな地名はない。

 だが、この老人が嘘をついているようには見えない。少なくとも、ここは日本ではないようだ。


「……カスカ村って、どこの国なんですか?」

「サン・ド・クルス王国じゃが」


 そんな名前の国は無いはずだが……。いや、俺が知らないだけかもしれない、聞いてみよう。


「それって、何大陸にあるんですか?」

「何を言っとるんだねさっきから。アルテリア大陸に決まっているだろう」


 決定的だった。地球上にそんな大陸は存在しない。となると、導き出される結論は一つ。


「異世界……なのか」


 認めたくは無い、余りに非現実的な事だ。しかし……


「どうかしたのかね? 気分が悪そうだが」


 俯いて考えているのを、気分が悪くなったと勘違いしたらしい。心配そうに聞いてくる。


「あ、いえ、大丈夫です」

「ふむ、そうかね。無理しなさんなよ」

「ええ」


 さて、どうするか。何かしようにもこの世界の事を知らないし、頭も混乱してる。

 この老人に話してみるか。悪い人じゃ無さそうだし、力になってくれるかもしれない。


「お爺さん、実は……」


 俺は、目の前にいる老人に異世界から来たのかもしれない事を話した。


「……!」


 一瞬、強烈な敵意……いや、殺気を感じた。老人は笑顔のままだが、間違いなく、先程の殺気はこの老人の物だ。


「……そうかね。わかった、協力しよう。少し待っていたまえ」


 そう言い残すと、その老人は部屋を出て行った。部屋が静寂に包まれる。

 それにしても、先程の老人の様子は明らかにおかしかった。一体どうしたんだ?


 十分後、再び、今度は大量の殺気を感じた。明らかに様子がおかしい、老人も返ってこない。

 恐らく、殺気の対象は俺だろう。理由はわからんが、どうやらやばそうだ。


 幸い、部屋には窓があった。ここは一階のようだし、ここは逃げよう。

 俺は、ベッドから這い出ると、窓から部屋を抜け出した。


「……しまった! 滅びの使者が逃げ出したぞ!」


 窓から出た後直、部屋の中からそんな声が聞こえてきた。

 滅びの使者って……俺のことか、やっぱり。


「いたぞ、窓から逃げやがった!」


 窓から顔を出した男に見つかってしまった。相当殺気立っているようだ。

 しかし、幸い距離が離れていたので、何とか逃げられたようだ。追っ手の姿は見えない。


 それにしても、身体が軽い。さっきだって、いつもよりもずっと速く走れた。一体どうなってるんだ?


「来たぞ! 殺せ! 奴は滅びの使者だ!」


 くそ、待ち伏せか。村の出口のような場所まで来ると、数人の男たちが待ち構えてきた。

 全員、桑などの凶器を持って向かってくる。しかも後ろからは追っ手が迫ってきた。


「くそ、挟み撃ちか」


 どうする? 後ろは数が多い、前は凶器持ちだが数は少ない。それに門があるのは前だ。ここは……


「正面突破だ」


 俺は、門に向かって走り出した。目前に凶器を持った男たちが迫る。


「喰らえ、悪魔め!」


 男たちの内のひとりが、桑を振り下ろしてきた。何の躊躇も無い、本当に殺す気のようだ。


「このぉ!」


 だが、俺もまだ死ぬ気は無い。振り下ろされた桑を受け止めようと、手を出した……その時だった。

 バキッという音がしたかと思うと、俺が掴んだ桑は、木の枝か何かのように簡単に折れてしまった。

 何なんだ、今のは。俺はただ握っただけなんだが。


「ひ、ひぃぃ、化け物だ」


 桑を振り下ろしてきた男が腰を抜かしながらそう言う。化け物……か。

 この間までただの中学生だったんだが。


「くそ、滅びの使者め」


 近くにいた男が叫ぶ。滅びの使者って一体何なんだ?

 その男を問いただそうとしたが、後ろから追っ手が迫ってきたため、そのまま門を潜って外に出た。


「ハァ、ハァ、ハァ」


 どのくらい走っただろうか、村を出た後も、暫く村人たちは追ってきた。

 しかし、なぜかいつもよりも速く走れたお蔭で、追っ手は直に振り切れたのだが、何となくそのまま走り続けた。

 今は草原のど真ん中にいる。


「ハァ、ハァ……ふぅ。それにしても、一体滅びの使者って何なんだ?」

「フフ、教えてあげましょうか?」


 振り返ると、そこには角と翼の生えた女が、微笑みながら立っていた。


 何だ、この女は?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ