プロローグ
突然だが自己紹介する。俺の名前は霞創夜、しがない中学三年生だ。
両親は二人ともいない。
お袋は俺が六歳のときに死んだし、親父は七歳のときに失踪した。
当然俺は親戚に預けられる事になるんだが、どういう訳だか、俺の親戚は誰一人としていない事になってた。
いや、理由ならわかってる。俺のお袋はいいトコの娘だったらしく(しかも長女)、庶民の親父との結婚は認められなかったらしい。
それでお袋は家を捨てて、駆け落ち同然で親父と結婚したわけだが、お袋がいいトコの娘だという事実に変わりは無く、当然、遺産の相続権は俺にも有るわけだ。
要するに金の問題だ。駆け落ち同然で家を出た奴の息子とは言え、一応遺産の相続権はある。そんな奴を引き取りなんかしてみろ、そいつにも遺産の取り分がいくわけだ。
まぁ家の親戚どもに取っちゃあ面白くなかったんだろうな。結局、俺は天涯孤独の身となって、施設に預けられる事になった。
それはどうでも良い。はっきりいってあそこで引き取られてても遺産相続のドロドロした争いに巻き込まれてただろう。
そんなのは真っ平ゴメンだ。
問題なのはその後の生活で俺に向けられてくる“眼”だった。
“可愛そうな子”“捨てられた子”
どいつもこいつもそういう眼で見てくる。好奇の中に少量の同情を込めた眼。
うっとおしいったらない。別に俺はその事に対して何とも思っちゃいないのに、周りは好き勝手騒ぎ立てる。
その上面倒な事に、学校のクラスメイトにその事を知った奴がいた。中学生といってもまだまだガキだ。
「あいつ親いないんだぜ」「親戚にも見捨てられたんだぜ」
調子に乗って好き勝手騒ぎ立てる。だが、俺は別にその事に対して何も言わなかった。
そいつの言ってることは事実だし、別に親がいなかろうが親戚に見捨てられようがどうでも良かったからだ。
するとそれが気に入らなかったらしく、今度はクラス全体を巻き込んで俺にちょっかいを出してきた。
無視は当たり前。
机の捨てられる、水をかけられる、教科書・靴を盗まれる、足をかけられる、集団でリンチをかける、などなど、まぁ色んな事をされた。
俗に言う“いじめ”というやつだ。
だが、俺も黙ってそれに甘んじていたわけではない。
机を捨てられれば別の場所から持ってきたし、水をかけられそうになれば避けた。教科書・靴は自分で常に持っていた。
足をかけられそうになれば、その足を思いっきり蹴ってやったし、リンチは人数が集まる前に潰して逃げた。
“いじめ”を先導している奴と、運悪く二年間同じクラスになったもんだから、これが二年間続いた。
毎日毎日周りから浴びせられる敵意、嫌悪。お蔭でそういう負の感情に異常に敏感になってしまった。
だが、そんな生活も今日で終る。今日は中学の卒業式。今日さえ終れば、暫くは平穏な日常が戻ってくるはず……だった。
しかし、どうやら俺は、どうやっても平穏な日常というやつを手に入れることは出来ないらしい。
卒業式が終って校門を出たときだった。迂闊にも、周りへの警戒を緩めていたらしい。
突然、後ろから車道へ突き飛ばされて、走ってきたトラックに撥ね飛ばされて、俺は意識を失った。