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原作は破滅の運命の悪役令嬢外伝〜 美羽の悪夢の数日間

掲載日:2026/04/26

 四月の教室は、まだ誰もが他人だった。 新入生たちは互いの距離を測りかねて、机の島ごとにぎこちない笑顔を交わしていた。 その中で、彼女は明らかに浮いていた。


 肩まで伸びた金色の髪。 陽射しを弾いて、教室の蛍光灯の下でさえ柔らかく光る。 綺麗な肌、大きな瞳。 何より、口元に絶やさない、屈託のない笑顔。


 「櫻井美羽です! よろしくお願いします!」


 自己紹介の声は明るく、少しだけイントネーションが揺れていた。 中学までを海外で過ごしたのだと、美羽は照れたように付け加えた。


 「パパの仕事の関係で、こっちに引っ越してきましたのよ。 日本のこと、まだ分からないことばっかりだから、いっぱい教えてくださいませ!」


 教室の空気が、揺れた。

 

 ーーパパ。


 その音が、教室の何人かの耳に、引っかかった。 教室の後ろの方で、三つの椅子が小さく音を立てた。 窓際の席で頬杖をついていた女子が、隣に座る友人に何かを耳打ちした。 耳打ちされた方が、口元を手で隠して笑った。 その向かいで、爪をいじっていた三人目が顔を上げ、つまらなそうに美羽を見た。


 「ねえ。あの子さあ」


 声は小さかった。けれど、三人にだけは、はっきりと聞こえた。


 「『パパ』だってさ」

 「うわ、高校生にもなって」

 「金髪のくせに、ぶりっ子? ウケる」

 「なんかムカつくよね」

 「イジメてやろうか?」

 「いいね」

 「賛成!」


 彼女たちがそうする理由は、暇。 ただそれだけだった。


 そして、櫻井美羽には——彼女たちがまだ知らない、もう一つの事情があった。

 櫻井家は、代々、川端家に仕える家系だった。 その川端家の本家筋に、各代必ず一人、「絶対の右腕」となる者を、櫻井家と高坂家から差し出す。 それが、櫻井家の家訓であり、矜持であり、存在意義だった。 


 そして、現代の本家筋は川端ことねだった。 櫻井美羽の、運命の主君。 美羽は、生まれたときから、その役目のために、育てられてきた。 語学はもちろん、礼儀作法、社交、護身術、経済の基礎など。


 美羽は、それを、誇りに思っていた。 でも、気になっていることもある。 ことねに、まだ会ったことがないのだ。


 ことねは、本家筋の中でも特に「特別」な扱いを受けている娘で、櫻井家のような分家筋の子供が、軽々しく会えるような存在ではなかった。 「会えるのは、お前が、ことね様の隣に立つに値する人間になってからだ」そう、パパの和馬も、海外赴任中のママ香織も、口を揃えて言っていた。 美羽は、その日を、夢見ていた。


 ーーそのために、私は、強い子でいなければならない。 それが、櫻井美羽が、屈託のない笑顔の下に、ずっと、抱えてきた覚悟だった。


◇◇◇


 月曜日朝、美羽は自分の上履きが下駄箱にないことに気づいた。 一時間目が始まる直前、トイレの個室の隅で見つけた。中に水が入っていて、つま先を入れた瞬間に、ぐじゅ、と冷たい音がした。 美羽は、深く、息を吐いた。


 ーーこんなことで、動じてはいけませんの!


 将来、ことねの右腕として、もっとずっと、巨大な悪意の中を歩いていくのだ。 それが、櫻井家の人間の役目だった。 パパも、ママも、これまでの代の右腕たちも、皆、そうやって生きてきたはずですわ!


 これは、修行だ。私を、強くするための、修行だ。 美羽は、そう、自分に言い聞かせた。 濡れた靴下を職員室で借りた予備に履き替えて、何でもないふりをした。

 その日の午後にはまた、笑っていた。


 家に帰ったらパパにと、考えかけてすぐに打ち消した。 パパは、忙しいわ。 こんなことで煩わせるわけにはいかないですわ。 ママは、地球の反対側にいるの。 電話なんて、できないですわ。


 美羽は、自分を誇りに思っていた。 期待に応えたかった。 だから、笑った。


 火曜日。 机の中に入れていたはずの教科書がなくなっていた。 放課後、ゴミ箱の底から見つかった。 表紙には黒のマジックで「死ね」と書かれていた。 櫻井はそれを、強くこすって落とそうとした。 指先が黒く汚れた。 汚れは、なかなか落ちなかった。


 その日の昼休み、トイレで手を洗っていると、隣の個室から、声が聞こえた。


 「ねー、聞いた? あの金髪、『パパ』『ママ』だってよ」

 「ヤバ。何歳?」

 「精神年齢、幼稚園?」

 「ぶりっ子も大概にしてほしいよねー」

 

 美羽は、蛇口を、強く締めた。 水が、止まった。 けれど、彼女たちの笑い声は、止まらなかった。


 私の家では、それが普通だったと、美羽は心の中で呟いた。 海外の家庭では、ほとんどの子がそう呼んでいた。 それを、急に変えろと言われても、できない。それは、自分のアイデンティティの一部だった。


 それを、今笑われている。 美羽はその日の夜、ベッドの中で、小さく練習してみた。


 「と、う……さん」

 「か、あ……さん」


 違和感が、喉に絡みついた。 それは、自分の言葉ではなかった。 美羽は、シーツを強く握った。


 ううん。 私は、私だ。パパは、パパで。 ママは、ママで。 それは、変えない。 変えたら、私が、私じゃなくなる。 そう、自分に言い聞かせた。


 ことね様の右腕になる人間が、こんなところで、自分のアイデンティティを、譲ってはいけない。


 水曜日。 休み時間に話しかけようとしたクラスメイトが、目を合わせずに席を離れた。 月曜日には、美羽の英語の発音を褒めてくれた子だった。


 その子の肩を、窓際の席の女子がぽん、と叩いて通り過ぎたのを、美羽は見た。

見たけれど、美羽には意味がわからなかった。 ただ、悲しかった。


 木曜日の昼休み。 美羽は屋上に続く階段の踊り場で、三人に囲まれた。


 「ねえ櫻井さん」


 リーダー格の女子が、にこ、と笑った。


 「『パパ』、元気?」

 「『ママ』はー? 地球の裏側? 寂しくなーい?」

 「金髪パパっ子ちゃん、可哀想ー」

 「ねえ、なんで日本来たの?」

 「えっと、パパの仕事の都合で⋯⋯」

 「ふーん。帰れば?」

 「え⋯⋯」

 「アメリカ帰れば、って言ってんの。あんた、こっちじゃ浮いてるよ?」

 「金髪、染めてんでしょ? 校則違反じゃん。先生に言おっか」

 「染めて、ませんわ! 生まれつきですの!」


 美羽は、まっすぐに答えた。 声は震えなかった。


 「は? 嘘でしょ」

 「嘘じゃないですわよ!」

 「きっも。 嘘までついて目立ちたいの? 日本人のフリして」


 リーダー格の女子が、笑顔のまま、櫻井の髪を一房、指で掬った。


 「これ、ほんとに自分の毛? ちょっと引っ張ってみていい?」

 「え? イタ⋯⋯」


 返事を待たずに、彼女は美羽の髪を強く引いた。 頭皮が引きつった。


 「ほんとだ、抜けないね~ じゃあ次は、どこまで引っ張ったら抜けるか試してみよっか?」

 「いいね! やろ~」

 「賛成!」


 三人が、声を上げて笑った。 美羽は逃げた。 階段を駆け下りて、トイレに駆け込んで、個室に閉じこもった。 手のひらに、抜けた金色の髪が、数本、絡みついていた。 それでも美羽は、泣かなかった。 涙が出そうになるたびに、奥歯を強く噛んだ。 負けたくなかった。 あんな子たちに、負けたくなかった。 こんなことで、自分を、見失ってはいけない!


 美羽は鏡を見て、笑顔を作る練習をした。 午後の授業に戻るために。 そして夜、パパの前でいつも通りでいるために。


 金曜日朝、櫻井の机に、花瓶の水が一面にぶちまけられていた。 教科書もノートも、筆箱の中身まで、全てが濡れていた。 教室には数人のクラスメイトがいたが、誰も顔を上げなかった。


 「あーあ、誰がやったんだろうね」

 「『パパ』に泣きついたら? パパっ子ちゃん」

 「ママに国際電話してみたら?」


 くすくす、と笑い声。 あの三人組だーー 美羽は、振り向いた。


 「やめてくださいませ! 大人気ないですわよ!」


 自分でも驚くほど、はっきりとした声が出た。 教室の空気が、一瞬、凍った。


 「私が何をしたんですの? 理由を教えてくださいませ!」


 リーダー格の女子は、目を丸くして櫻井を見た。それから、ゆっくりと笑った。


 「理由? ないよ、そんなの」


 そういうと三人が笑った。


 ーー理由がない。 その四文字が、美羽の中で、何かを軋ませた。


 美羽は、それでも、その日の放課後、職員室に向かった。 担任の教師は、櫻井の話を最後まで聞いた。 それから、困ったように笑って、言った。


 「うーん、でもさ、櫻井さんも、ちょっと目立つから。 もう少し、周りに馴染む努力をしてみたら? ね? 角が立たないように⋯⋯」

 「努力って、何を、ですか?」

 「だから、その、髪とかも、地毛申請はしてあるけど、もう少し、こう、自然な色に⋯⋯」

 「髪を、染めろってことですか!」

 「いやいや、そうは言ってないけど、その、雰囲気をね?」

 「ありえませんわ! ⋯⋯失礼しますわ!」


 美羽は、職員室を出た。


 土日、美羽は家から出なかった。 ひたすら、笑顔を作る練習をした。 鏡の前で。 月曜日に、また学校に行くために。 パパの前で、いつも通りでいるために。


 「ムウ。 お腹が減りましたわね。 やけ食いでもするのですわ!」


 そう美羽は言うと、部屋を飛び出すのだった。


 ーー月曜日。 下駄箱を開けた瞬間、何かがどさり、と落ちた。 死んだネズミだった。 腹を割かれていた。 そのタイミングで飛び出してきた三人組。


 「『パパ』に見せてあげなよ~」

 「あっちじゃ、ネズミも友達でしょー?」

 「うわ! じかでもってやんの! 引くわ!」

 「⋯⋯」


 美羽は、ネズミをそっと拾い上げて、保健室の先生に届けた。 先生は、困ったように笑った。


 「校外から猫が運んできたのかもしれないね」


 その日、美羽の体操服がなくなった。 放課後、校舎の裏の用水路で見つかった。泥水に浸かっていた。 胸元のあたりに、カッターで切られた跡があった。


 火曜日。 美羽のスマホに、知らない番号からのメッセージが、何十件も溜まっていた。


 「死ね」

 「きもい」

 「日本から出てけ」

 「パパっ子ちゃん」

 「お前のパパも死ね」

 「ママも一緒に、地球の裏で死ね」


 美羽は、それらを全て削除した。 精神的苦痛が美羽を襲うーー


 ◇◇◇


 その日、家に帰ると、パパは食卓で、ノートパソコンを開いていた。 電話会議の最中だった。 美羽に気づくと、片手で「ちょっと待って」のジェスチャーをした。


 美羽は、廊下で、三十分待った。 会議が終わったとき、パパは、申し訳なさそうに言った。


 「⋯⋯美羽。 どうした? 最近元気がないな?」

 「⋯⋯パパ。 お願いがありますの。 ことね様に、会わせてくださいませ!」


 和馬の手が、止まった。


 「……何?」

 「ことね様に、会いたいんです。一目でいい。一言でいい。お願いします、パパ。お願いします」


 和馬は、しばらく、美羽を、見ていた。 それから、パソコンを、ゆっくりと、閉じた。


 「美羽。それは、駄目だ」

 「どうしてですの?」

 「お前が、まだ、ことね様の前に出るに、相応しい人間じゃないからだ」


 パパの声は、優しかった。けれど、揺るぎなかった。


 「美羽がことね様にお会いできるのは、お前が、ことね様の隣に立つに値する人間に、なってからだ。 それまでは、会わない。それが、櫻井家の決まりだ」

 「パパ!」

 「美羽!」

 「お願いします。 一目でいいのですわ!」

 「美羽、何があった。今日のお前は、おかしいぞ。何かあったのか?」

 

 美羽の、心臓が、跳ねた。 パパに気づかれる!


 気づかれたら、駄目だ。 気づかれたら、私は、「強い子」じゃなくなるわ。 気づかれたら、ことね様の右腕には、なれない。 気づかれたら、パパが、もっと苦しむ。気づかれたらーー


 「パパは、私のこと、何も分かってないですわ!」

 「おい? 美羽! どこに行くんだ!」

 

 美羽は、走った。 外に、飛び出した。 四月の夜は、まだ寒かった。 パパが、「美羽!」と叫ぶ声が、背中に刺さった。 美羽は、振り向かなかった。


 美羽は、夜通し走り続けた。 ずっと涙が、流れていた。 何度、奥歯を噛んでも、止まらなかった。 数日間堪えていたものが、堰を切ったように溢れ出していた。 夜の街を、美羽は走った。 金色の髪が、夜風に揺れた。 街灯と、街灯の間の暗い道を。 コンビニの明かりが漏れる、駐車場の脇を。 誰もいない、深夜の公園の、横を。


 走って、走って、走って。 ーー気がつくと朝になっていた。


 そしてある角を、曲がった瞬間。 美羽は、誰かと、ぶつかりそうになって、立ち止まった。 正確には、誰かが、美羽の隣に、ぴたりと並んだ。


 「私と競走するつもりだね! いいよ、相手になるよ~」

 「Why?⋯⋯あの? 貴方は?」

 「坂までね! 用意、ドン!」

 「unintelligible⋯⋯え、なんですの?」


 そう言うと彼女は、スピードを上げて坂を指さした。 声をかけられた美羽は問いかけた。


 「Hey⋯⋯なぜ競走を?」

 「私のスピードについて来るだと!」

 「話聞いてますか?」

 「私は、負けないよ!」

 「a race⋯⋯勝負なら私が勝つのですわ!」


 やがて、ゴールに到着して、呼吸を整え、互いに顔を見合わせる。 そして握手。 お互いの健闘を讃え合います。 二人の間には、すでに絆が芽生えていた。 彼女は問いかける。


 「なんで、こんな朝早くに制服姿で、ジョギングしてるの? ちゃんと私みたいに走る格好をしなくちゃ!」

 「⋯⋯別に私は、ジョギングのために走っていた、訳じゃないですわ⋯⋯家出して来たのですわよ」


 美羽は、そう言うと悲しげな表情を浮かべた。


 「なになに、どしたん? 話聞こか?」

 「ちょっと、親と仲が悪くなりましたの」

 「ふ~ん、そうなんだ」

 「嫌になって、喧嘩して、家を飛び出しましたの」

 「大変だね~」

 「⋯⋯行くあてもなくて、現実逃避のために走っていましたの⋯⋯」

 「うん? それなら、ウチ来る?」

 「嬉しいけど、迷惑ですわ⋯⋯」

 「大丈夫! 広くて、ご飯付きだよ! まずはお試しで、美味しい朝ご飯一緒に食べよ!」

 「朝ご飯! 食べたいですわ!」

 「よし! じゃあ帰ろう!」


 彼女は、そう言うと、美羽と一緒に家に帰った。


 「ことね、おかえり。 朝ご飯出来てるぞ」

 「湊、ただいま。 お願いがあるんだけど⋯⋯」

 「駄目だぞ! 面倒を見るのは、結局俺なんだから」

 「そんな!⋯⋯美羽ちゃんが、かわいそうだと思わないの?」

 「さっそく、名前までつけて⋯⋯ ちゃんと一生、そいつの面倒を見る責任があるんだぞ!」

 「⋯⋯うん、わかったよ! ちゃんと面倒も見るし育てるから! だからお願い!」

 「わかったよ。 ことねがそんなに言うなら飼ってもいいよ」

 「やった! ありがとう湊! ⋯⋯入っておいで美羽ちゃん」

 「⋯⋯?」


 彼女は、美羽に手招きをして入る様にいった。 湊は頭に?を浮かべながら、様子を見ていた。 そして家の中に入って来たのは、湊の知っている顔だった。


 「紹介するね! この子の名前は櫻井美羽ちゃん。 そして⋯⋯」

 「really? 湊! え?⋯⋯と言うことは彼女は⋯⋯」

 「美羽! どう言うことだこれは!」

 「うん? 知りあい? よかった! 自己紹介の手間がはぶけたね~」

 

 困惑する、湊と美羽を気にせずに、ことねはジョギング後のシャワーを浴びに行くのだった。


 その後、湊は美羽と二人きりになる。 湊は、何度も、美羽の横顔を、見ていた。 美羽は、それに、気づいていた。 けれど、何も、言わなかった。


 「⋯⋯美羽。 お前、何があった?」

 「……喧嘩しただけですわ! パパと」

 「それだけか?」

 「⋯⋯」

 美羽は、答えなかった。 湊は、美羽の顔を、まっすぐに、見ていた。


 ーーばれてる。


 美羽は、思った。 湊には、たった、数分で、ばれてしまった。


 幼馴染というのは、そういうものなのだ。 美羽が、最も、恐れていたことだった。湊にだけは、「弱い美羽」を、見せたくなかった。


 「美羽。 俺は調べるぞ!」

「⋯⋯何を」

「お前の高校、お前のクラス、そしてお前に何があったか」

「やめて!」

「黙ってろ!」


 湊の声は、低かった。


 「俺は、お前の幼馴染だ! お前が、何も言わなくても、俺には、分かる。 だから、俺が勝手に調べる。 お前は、何もしなくていい! ⋯⋯美羽。 一つだけ、答えてくれ。 和馬さんに、話したか?」


 美羽は、首を、振った。


 「⋯⋯話してない」

 「これから、話す気は?」

 「⋯⋯ない」

 「なんでだ」

 「パパに、これ以上、迷惑かけたくないですわ」


 湊は、しばらく、沈黙した。 それから、頷いた。


 「分かった。じゃあ、和馬さんには、知らせない。 俺が、別の方法で動く」

 「湊⋯⋯」


 美羽は、川端家でしばらく過ごすことになった。 湊は学校を休んだ。 ことねは学校に向かったが、夕方帰って来て湊に抱きついていた。


 そんな様子に、美羽はほっこりする。 その夜美羽は、数日ぶりに、悪夢を見ずに眠れた。


 ◇◇◇


 湊が動き出してから、状況は、急速に、変わった。 湊の家は、この土地で、それなりに、影響力のある家だった。 湊は、伝手を、すべて使った。


 美羽の高校の、生徒の何人かに、聞き込みをした。 SNSに上がっていた動画を、入手した。 盗撮された写真の数々を、確認した。 担任の対応の不誠実さを、記録した。 そして、すべての情報を、まとめた。


 すべてをまとめた湊は呟く。 


 「美羽、お前⋯⋯」

 「ん? どうしたの湊? あ、わかった! 私とラブラブしたいんだね!」

 「ことね! 頼みがある!」


 湊は、ことねに、こう、頼んだ。


 「美羽を、転校させたいんだ! 和馬さんに理由を伝えずに、転校させる方法が、必要なんだ! ことねが、『美羽を気に入ったから、自分の通う高校に来させたい』と、和馬さんに、頼んでくれないか! 櫻井家の家訓上、川端家本家からの『お声がかり』であれば、和馬さんは、理由を聞かずに、従うからな」

 「⋯⋯ええ。 わかったわ」


 その日のうちに、ことねから、和馬に連絡が入った。 電話越しに、ことねは言った。


 「櫻井家ご当主。 貴家のご令嬢、美羽と、お会いする機会がありました。 私は彼女が大変、気に入りました。 彼女を、私の通う理想学園に、転入させていただきたい。 私の身近に、置きたいのです」


 和馬は、最初、絶句した。


 「ことね様! それは、本当に?」

 「家訓に従って、いただけますね?」


 ことねの声は、いつものジョギング仲間に対するものとは、違っていた。川端家本家筋としての、絶対の声だった。


 和馬は、震える声で、答えた。


 「は、はい。承知、いたしました」

 「ありがとう。 手続きは、こちらで進めるから。 美羽には、私から伝えるから。 後、美羽はここで暮らすから。 異論は認めないわ」


 電話を切った後、ことねは首を傾げた。


 「ねえ? これでいいのかな?」

 「ありがとう、ことね! 大好きだぞ!」


 二人はイチャイチャ抱きしめ合うのだった。


 ◇◇◇


 湊は、美羽の前に、座った。

 「お前の高校での話、全部知った」


 美羽の、顔が、青ざめた。


 「湊⋯⋯」

 「で、本題だ。 お前、俺の高校に来い!」

 「え?」

 「理想学園。俺と、ことねが、通ってる高校。 そこに、お前を、転入させる。 手続きは、俺の方で、和馬さんに、家訓を盾に、押し付けた。 和馬さんには、何も、知らせてない」

 「待って、湊⋯⋯」

 「家訓、覚えてるか?」

 

 湊の声が、変わった。


 「『川端家の本家筋からの命令には、櫻井家は、絶対に従う』。これ、効くんだろ?」


 美羽は、頷いた。


 「効きます」

 「じゃあ、命令な」

 

 湊は、美羽の目をまっすぐに見た。


 「美羽。 お前、ことねの傍に、来い。 これは、川端ことねからの、命令だ!」


 美羽の目から、涙が、溢れた。 涙が、止まらなかった。


 数日間、堪えていたものとは、別の涙だった。 喜びとも、悲しみとも、罪悪感とも、感謝とも、つかない、何かの涙だった。


 ーーその夜、櫻井美羽の、転校が、決まった。


 「ことねの、お声がかりで、転入の手続きをするから」と、和馬から学校に伝えてもらった。 担任は、それを聞いて、明らかに、ほっとした顔をしていた。


 その間、美羽は、ほとんど、ことねの家で、過ごした。 ことねは、美羽に、何も、聞かなかった。 ただ、一緒に、過ごした。 

 

 朝、一緒に、ジョギングをした。

 昼、一緒に、ご飯を食べた。

 夜、一緒に、映画を見たり、ゲームをしたりした。


 ことねは、いつも美羽に、笑い掛けた。 美羽も、何度かことねに笑い返した。


 それは、屈託のない笑顔ではなかった。 けれど、無理に作った笑顔でもなかった。 ほんの少しだけ、心の底から、口角が、上がる瞬間が、あった。


 それが、美羽には、奇跡のように、感じられた。 


 ーーことね様の、隣にいる。


 夢にまで見た、その場所に、私は今いるのですわ!


 「右腕」という、櫻井家代々の、誇り高い役目を、背負った形では、なかった。ただ、「気に入られた」という、それだけの理由で、隣にいた。


 それでも、隣に、いた。 それで、十分だった。


 そして、転校の前日。 美羽は、学校に私物を取りに行く必要があった。 


 机の中に、まだ、残っているはずの、いくつかの私物。教科書。 ノート。 海外から持ってきた、お気に入りのペンケース。 それらを、回収する必要があった。


 最後だから。最後だけ、一人で、行きたいーー 美羽の目は、真剣だった。


 湊は一緒に行くと言ってくれた。 でも美羽は断った。 湊は、しばらく、黙っていたが、それからため息をついた。


 「分かった。学校の前まで、送る。中には、入らない。だから、何かあったら、すぐ、呼べ」

「ありがとう、湊」


 ーーけれど、美羽は、決めていた。 これは、自分の戦いだった。最後の、自分の戦いだった。 ことねの隣で生きていくために、過去の自分と決着をつけなければならなかった。


 それは、誰にも、頼れない、戦いだった。


 美羽は、目を閉じた。 ーー明日で、終わる。


 そう自分に、言い聞かせて眠った。


 翌日、美羽は朝早く、ことねの家を出た。 ことねは、いなかった。 湊にも、何も、言わずに一人で。 スマホの電源も、切ったままにした。


 着いた。 たった数日しか、通ってなかった学校。 けれど二度と戻ってこない場所ーー 校門の、前に、立った。


 担任には、和馬を通じて、「私物を取りに行く」とだけ、連絡してあった。 担任は、ほっとしたような声で、了承したらしい。


 美羽は、深く、息を、吸った。 校門を、くぐった。 下駄箱ーー


 そこを通るとき、美羽は、目を伏せた。 ネズミの感触が、まだ、指に残っていた。


 長い廊下を歩いた。 靴音が、自分のものだけだった。 湊がいたら、ペースを合わせてくれただろう。 ことねがいたら、軽口を叩いて、笑わせてくれただろう。


 一人で、歩いた。 教室の、ドアの前に、立った。 ドアに、手をかけた。 引いた。 がらり、と、軽い音がした。 教室は、空っぽだった。


 夕陽が、窓から差し込んでいた。誰もいない教室は、思っていたより、ずっと、小さく見えた。


 美羽は、ほんの一瞬、息を、吐いた。 ーー終わらせよう。 自分の席に、向かった。


 机の中に、手を入れた。 教科書が、何冊か、残っていた。ノートも。 ペンケースも。 海外から持ってきた、お気に入りの。 美羽は、それらを一つずつ、紙袋に入れていった。 最後に、ペンケースを、手に取った。


 そこには、ママから貰った、銀色のシャープペンが、入っているはずだった。 海外で、美羽の十三歳の誕生日に、ママが買ってくれた。 この地に帰ってきても、ずっと使い続けていた、大切なものだった。 ペンケースを、開けた。 シャープペンが、なかった。 代わりに、何枚かの、紙が入っていた。 美羽は、その紙を、引き出した。


 ーーシャープペンの、写真だった。


 折られて、踏まれて、ぐしゃぐしゃになった、銀色のシャープペンの写真。 机の上に置かれて、上から誰かの上履きで、踏みつけられている瞬間の写真。 割られたシャープペン。 芯が何本も折れて、散らばっている写真。 ゴミ箱に捨てられた、シャープペン。 最後の一枚。 便器の中の、シャープペン。 櫻井の指が、震えた。 息が、止まった。 そのときーー


 教室のドアが、がらり、と開いた。

 

 「あれー?」


 声が、聞こえた。 美羽の、心臓が、止まった。


 「やっぱり来てたー」

 「ねえ、見て、一人だよ」

 「えー、最後の日に、一人とか、可哀想ー」


 三人組だった。 リーダー格の女子と、爪をいじる女子と、笑い声を最初に上げた女子。 三人とも、にやにやと笑っていた。 手には、スマホ。 当然のように、構えていた。


 「先生から聞いたんだー、今日来るって」

 「お別れ、しようと思って、待ってたんだよー」

 「写真、見てくれた? 大事に保管してたんだよ」


 くすくす、と笑い声。 櫻井は、立ち尽くした。 ここには、私しか、いない。


 「ねえ、なんか言ってよー」

 「無視? うわー、性格悪ー」

 「ぶりっ子だもんねー、こいつ」


 リーダー格の女子が、近づいてきた。

 櫻井は、後ずさった。 机に、背中が、当たった。


 「ねえ、櫻井さん」

 「⋯⋯」


 リーダー格の女子は、顔を、近づけてきた。


 「次の学校、どこ行くの?」

 「⋯⋯」

 「教えてよー、また会いに行くからさー」

 「やめ⋯⋯」

 「『やめてください』? また言うの~」


 三人が、笑った。


 「あんたさあ」


 リーダー格の女子の声が、急に、低くなった。


 「次の学校でも、絶対いじめられるよ?」

 「え?」

 「だってさ、あんた、いじめられる『種類』だもん!」


 リーダー格の女子は、櫻井の顎に、指を、当てた。


 「金髪で、ぶりっ子で、お嬢様口調。 『パパ』『ママ』で、自分のこと、特別だと思ってる。 そういうの、どこ行っても、嫌われるよ? 次の学校でも、その次の学校でも、絶対、同じことが起きる」

 「⋯⋯」

 「だってさ」


 リーダー格の女子は、笑った。


 「『あんた』が、原因だもん」


 それは、「いじめは、いじめる側が悪い」という、当たり前の常識を、根底から、ひっくり返す言葉だった。「私たちは、悪くない。あんたが、いじめられる存在だから、いじめられる。私たちは、その役目を、たまたま引き受けたに過ぎない」と。


 それは、明らかに嘘だった。 けれど、美羽の、二週間はーーその嘘を、嘘だと断言できる強さを、削り取っていた。


 「次の学校でも、絶対、同じことが起きる⋯⋯」


 その言葉が、櫻井の中で、こだまのように、繰り返した。


 ことね様の、隣に。 湊の、隣に。 新しい高校に、行ったとしてーー そこでも、同じことが、起きるのだろうか? 私が、私である限り。 金髪で、ぶりっ子で、「パパ」「ママ」でーー


 「ねえ、聞いてる?」

 「⋯⋯」


 リーダー格の女子の指が、櫻井の髪を、また、掬った。


 「次の学校でもさ、こういうことするの、たぶん、別の人がやるよ? あんた、知ってる? いじめられる人って、どこ行っても、いじめられるんだよ? それ、統計でもさ、そういうデータあるんだって!」

「⋯⋯」

「だから、私たちが、特別じゃないの。『あんた』が、特別なの。可哀想にね~」


 くすくす、と笑い声。


 「ねえ、最後だから、教えてあげる」


 リーダー格の女子は、櫻井の耳元で、囁いた。


 「あんたが、消えたら、私たち、別の子で、暇つぶしする。次の子。次の次の子。ずーっと、続くの。あんた一人が消えたって、何も、変わらない」

 「あんたの、数日間の苦しみとか、私たち、もう、忘れかけてる」

 「明日には、もう、忘れてる」

 「あんたのこと、『あー、いたねー、そんな子』って、それくらいしか、思い出さない」

 「あんたが、どれだけ、苦しんだか、なんて」

 「私たちには、関係ない」


 その瞬間、櫻井美羽の中で、何かが、決定的に、折れた。

音は、しなかった。


 ただ、これまで懸命に支えていた、何か巨大な柱のようなものが、すうっ、と、消えた。倒れたのではなく、最初からなかったかのように、消えた。


 美羽は、その場に、座り込んだ。 涙は、出なかった。 声も、出なかった。


 ただ、写真を、握っていた手が、開いた。 写真が、床に、落ちた。


 「あれー、座っちゃった」

 「最後の最後で、崩れたー」

 「動画、撮っとこ」

 「これでもう、私たちのこと、一生忘れないでねー」


 三人が、櫻井に、スマホを向けた。 美羽は、それを、見ていた。 ただ、見ていた。 抵抗する気力も、逃げる気力も、泣く気力も。 何もかもが、もう、なかった。


 ーーあの女の言う通りだ。 美羽は、思った。 ーー次の学校でも、同じことが、起きる。 私が、私である限りーー


 「あんた、ぼーっとしないでよ~」

 「最後の最後、つまんない反応」

 「もういいや、行こ」


 三人は、最後に、櫻井のことを、見下ろして、笑った。


 「じゃあねー、櫻井さーん」

 「次の学校でも、頑張ってねー」

 「金髪、染めなよー、似合ってないからー」


 がらり、と、ドアが、閉まった。 教室には、美羽、一人だった。 美羽は、しばらく、座り込んでいた。 夕陽が、傾いていった。 教室の影が、長く、伸びた。


 美羽は、ようやく、立ち上がった。 床に落ちた写真を、拾った。 ペンケースに、戻した。 それから、ぼんやりと、机の中の私物を、紙袋に、詰めた。


 最後に、自分の席を、見た。 数日間、ここに、座っていた、そして自分を、削られていった。 


 ことね様の隣に、こんな暗い、人見知りで人間不信の私が立ったら、ことね様まで、何かを失ってしまう。 それは絶対に、避けなければならない。


 だからこれからは、ただの影として生きよう。 ことね様の、邪魔にならないように。 目立たない。 何も、求めない。


 美羽は、教室を、出た。 長い廊下を、一人で、歩いた。

下駄箱で、最後に履いた上履きを、置いていった。もう、要らなかった。 校門を、出た。 夕陽が、もう、半分、沈んでいた。 


 スマホの電源を、入れた。 湊からの着信。


 『美羽、お前、どこにいる』

 『一人で行ったのか?』

 『すぐ連絡しろ』

 『美羽、頼むから、返事をくれ』


 美羽は、それを、見た。 そして、こう、返した。


 『大丈夫です。今、終わりました。これから帰ります』


 それだけ、書いて、送信した。 電源を、切った。 夕陽の中を、金色の髪を揺らして、歩いた。 その背中は、もう、かつての、櫻井美羽の背中ではなかった。


 その夜、美羽はことねの家に戻った。


 湊は、玄関で、待っていた。 ことねも、いた。 二人とも心配で、青ざめた顔をしていた。


 「美羽ちゃん?」


 ことねが、駆け寄ろうとした。 美羽は、頭を、下げた。


 「ご心配を、おかけしました」


 その声は、抑揚が、なかった。


 「美羽、お前⋯⋯」

 「ことね様」


 美羽は、頭を下げたまま、言った。


 「これから、よろしく、お願いいたします」


 ことねの、顔が、強張った。


 「『様』はやめてよ! 美羽ちゃん!」

 「申し訳、ありません⋯⋯」

 「美羽ちゃん?」

 「美羽⋯⋯」

 「お部屋に、戻ります。 ⋯⋯少し、疲れましたので」


 美羽は、頭を下げたまま、ことねの横を、通り過ぎた。


 ことねは、湊と、目を見合わせた。 湊の顔も、青ざめていた。


 ーー遅かった。 二人は、悟った。


 最後の最後で、櫻井美羽は決定的に折られた。


 何があったかは、分からない。 けれど、確実に何かが起きた。 そして、その何かは、湊にもことねにも、もう修復できないところまで、美羽を、追いやってしまった。

 

 その夜、美羽は、一人で佇んでいた。 ことねが、何度か、ドアの前に、立った気配がした。 けれど、ノックは、しなかった。


 湊が、何度かメッセージを送ってきた。


 美羽は、それに、返事をしなかった。 何もしなかった。 ただ布団の中で、目を開けて、天井を見ていた。 涙は、出なかった。 涙を、出す機能がもう壊れていた。 それは、長い、長い、夜だった。


 翌日、引っ越しがあった。 美羽は、ことねの家に同居することになった。


 「実家から、通学が遠いから」というのが、和馬への、表向きの理由だった。 和馬は、最初、戸惑った。「ことね様のお家に、ご迷惑が——」と、何度も、言った。


 ことねは、自ら、和馬に、電話をかけた。


 「ご迷惑だなんて、とんでもないわ。 私が、傍に置きたいんです。 許可を、いただけますね?」

「は、はい。承知、いたしました」


 電話を切った後、和馬は、しばらく、リビングで、頭を抱えていた。


 ーー美羽が、何か、隠している。 そう、感じていた。


 けれど、和馬は、聞かなかった。聞いても、美羽は、答えないと、分かっていた。


 そして、ことねが、何らかの形で、それを引き受けてくれているのも、薄々、感じていた。


 櫻井家の、家訓。


「川端家本家筋からのお声がかりには、絶対に従う」


 それは、櫻井家の、絶対の、義務だった。 けれど、今、和馬は、その家訓に、感謝していた。


 ーーことね様。 和馬は、心の中で、深く、頭を下げた。 どうか、美羽を、お願い、いたします。


 引っ越しの日、櫻井美羽は自分の部屋を、最後に片付けた。


 段ボール箱の一番底に、入学式の制服を、丁寧に畳んで入れた。 新聞紙に何重にも包んだ。 それから、その上にシャープペンの写真も入れた。 封筒に、入れて密封して。


 その上に、他の荷物を、積み重ねた。 ガムテープで、蓋を閉じた。 油性ペンで、書いた。


 『開けない』

 

 美羽は、その箱を、トラックに、運んでもらった。

 ことねの家に、運ばれた箱は、地下の、物置部屋の、一番奥に、置かれた。


 美羽は、その箱を、二度と、開けないと、決めた。


 ◇◇◇


 理想学園、一年生のクラス。 美羽は、転入生として、教壇の前に、立っていた。

教室には、四十人ほどの生徒たちがいた。 その中に、ことねや湊がいた。一番後ろの、窓際の席で頬杖をついて、美羽を見ていた。 心配そうな顔で。


 美羽は、ことねと、目を合わせなかった。


「今日からみなさんと少し遅れて、同じクラスの学生になった、櫻井美羽さんだ。自己紹介お願いします」

 「⋯⋯櫻井美羽」

 「はい。 どうぞ、続きをお願いします」

 「⋯⋯特にありません。 席に座ってもいいですか?」

 

 そう言うと櫻井さんは、川端様の隣に座った。 先生は櫻井さんに問いかける。


 「あの、櫻井さん。 なぜそこに、座るんだ?」

 「はい、簡単なことです。 私は、ことね様の世話をするために。 この学校に来たからです⋯⋯」

 「まあまあ、先生。 ここは俺に免じてどうか、お許しください」

 「高坂が言うなら⋯⋯仕方ないな」

 「ありがとうございます」


 湊が先生に向かって頭を下げると、先生は渋々と言った様子で諦めた。 ホームルーム終了後、桐原が彼女たちの所へ向かう。

 

 ーーその様子を眺める女子生徒が一人。


 このクラスの委員長ーー倉石瑞稀だった。


 彼女は興味深そうに、美羽を見つめていた。


 伊達メガネが怪しく光るーー


 それは、新しい、物語の、始まりだった。



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