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冒険者アル  作者: テステス
3章 家
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泥濘の奮闘と商人の信頼

護衛二日目の午後、空は急速に黒い雲に覆われ、激しい雨が街道を叩きつけ始めた。視界は最悪、乾いていた道は瞬く間に底なしの泥濘へと変わっていく。


ベック「まずいな……この先の坂道は地盤が緩い。おい、止まれ! 止ま……うわあああッ!?」


嫌な音が響いた。荷馬車の後輪が、深く抉れた泥の穴に完全に沈み込んだ。馬が必死にいななくが、重い荷を積んだ車輪は空回りするばかりだ。


アル「くそっ、このままだと車軸が折れるぞ! ガンテツ、やるぞ!」


俺は手にした槍をセシルに預けた。俺はとっさに街道脇の茂みに飛び込み、雨で朽ちていない太く頑丈な倒木を引きずり出してくると、それを車輪の下にテコとして深く差し込んだ。


ガンテツ「ガハハ! 任せろ! わしの筋肉とこの新しい胸当ての重み、泥遊びにはちょうどいいわい!」


ガンテツは躊躇なく泥の中に飛び込み、車体の後部に直接分厚い肩を入れた。


ザイン「ああ、神よ! 世界が泥という名のバグで塗り潰されていく! アル殿、倒木の角度が少し浅い! あと五センチ奥へ! ガンテツ殿は私の合図で斜め上へ押し上げなさい!」


セシル「僕が灯り魔法で足元を照らすよ! ミラ、フィオ、周囲の警戒を頼む。魔物に襲われたらひとたまりもないからね!」


激しい雨の中、ザインの的確でやかましい指示に合わせて俺とガンテツが咆哮を上げる。


アル「せーの……上がれぇぇぇッ!!」


泥を跳ね上げ、俺のテコとガンテツの馬力が噛み合い、荷馬車がゆっくりと穴から脱出した。全身泥まみれになりながらも、俺たちはなんとか立ち往生を回避した。


夕暮れ時、予定より少し遅れたが、俺たちは隣町『フィア』の門にたどり着いた。ベックは泥だらけの俺たちの肩を叩き、深く感謝してくれた。


ベック「助かったよ、あんたたち。あの状況で迷わず泥に飛び込める冒険者はそういない。……約束だ、明日の朝、報酬をギルド経由で全額支払わせてもらうよ」


泥の重みと疲労は凄まじかったが、俺たちの心には「やり遂げた」という確かな充実感があった。


サイドストーリー


宿に入る前、ザインは自分の泥だらけになった法衣を見て、今にも泣きそうな顔をしていた。


ザイン「信じられません……この清浄なる私が、豚の餌場のような泥にまみれるなど……。フィオ殿! あなたのその風の魔法で、私の服の泥を吹き飛ばしてはくれませんか!?」


フィオ「やあやあ、おじさん! そんなの簡単だよ! でも、ボクの風はちょっと『激しい』から、服ごと吹き飛んじゃうかもしれないけどいいかな? (※泥まみれのハゲを罵倒するエルフ語の歌を歌い出す)」


ザイン「ひぃっ! それは浄化ではなく破壊です! 不条理です! そもそも私はハゲていません!」


ミラ「……チッ。うるさいよ。ほら、そこの井戸で自分で洗いな。じゃないと、泥が乾いて石みたいに固まっちまうよ」


ミラに追い立てられ、ザインはぶつぶつと文句を言いながら、冷たい井戸水で必死に洗濯を始めた。

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