酸っぱい命綱と足りない小銭
夕食後、俺たちは宿を出て、夜の帳が下り始めた街を歩き、道具屋『鉄と金床』へとやってきた。
店内は相変わらず油と鉄の匂いが充満しており、店主のゴードンがカウンターの奥で帳簿を睨みつけていた。
ゴードン「……なんだ、オメェらか。こんな夜更けに冷やかしなら帰んな。店じまいするところだぞ」
アル「冷やかしじゃねぇよ。今日はちゃんと客として来たんだ。『粗悪な治癒ポーション』を1本頼む」
ゴードン「ほう……。やっと『薄め液』を買えるくらいには稼げるようになったか。1本で大銅貨5枚だ。耳揃えて出しな」
セシル「……アル、問題発生だ。パーティのには大銅貨4枚と銅貨5枚(4,500リア)しかない。このままじゃ銅貨5枚(500リア)分足りないよ」
アル「うっ、そういえばそうだったな。……仕方ねぇ、足りない分は俺の懐から出しておく。命には代えられねぇからな」
ミラ「……チッ。リーダーなんだから、それくらい当然さ。恩に着るよ、アル」
俺は自分の皮袋から銅貨5枚を取り出し、セシルの持つパーティ資金と合わせてゴードンのカウンターに置いた。
ゴードンは硬貨を一枚ずつ丁寧に数え、満足そうに鼻を鳴らすと、棚の奥から少し濁った赤い液体が入った歪なガラス瓶を取り出してきた。
ゴードン「ほらよ。傷口にぶっかけるか、飲むかしな。味は腐ったトマトみたいに酸っぱくて最悪だが、死ぬよりはマシな効果がある。大事に使えよ」
アル「ああ、わかってる。これを使う羽目にならないのが一番だけどな」
セシルはゴードンからポーションを受け取ると、光にかざして液体の状態を検品し、慎重に自分の鞄へとしまった。
これでようやく、俺たちのパーティにも一筋の「命綱」ができたことになる。
サイドストーリー
俺たちが買い物を終えて店を出ようとすると、ゴードンがカウンター越しに声をかけてきた。
ゴードン「おい、オメェら。最近、東の森のほうでゴブリンが妙に群れてるらしいじゃねぇか。今日、ウチで武器を新調していった冒険者もそんなことを言ってたぞ」
アル「ああ、俺たちも今日、薬草畑でそいつらの一部とやり合ったところだ」
ゴードン「そうか。……まあ、精々気をつけるこったな。オメェらみたいなお得意様が、森の肥やしになっちまうのは寝覚めが悪いからな」
ガンテツ「ガハハ! 心配すんな、親父! わしの盾がある限り、そんなことにはならんわい!」
口は悪いが、ゴードンなりの不器用な気遣いに、俺は小さく手を挙げて店を後にした。




