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第2話・はやるは想いか焦燥か~踏み出す一歩を躊躇わず~

第2章 幻影(ゆめ)現実(うつつ)の狭間で惑う



      第2話・はやるは想いか焦燥か~踏み出す一歩を躊躇わず~




 目を覚ますと、辺りは夕日で赤く染まっていた。



「……お目覚めですか?」



 世話をしてくれている、看護要員である男性の神官呪師(しんかんじゅし)に頷き返して、インスはゆっくりと体を起こす。



 無意識に首に手を当て、軽く撫でた。



「私は、どのくらい……?」


「四時間ほどでしょうか。まもなく夕食の時間ですから、丁度良いですね」



 尋ねると、水を入れたコップを差し出しながら告げられる。



 受け取って、ゆっくりと喉を潤す。



 ……何か、嫌な夢を見ていたような気もするが、思い出せない。



「うなされていたようですが、大丈夫ですか?」



 聞かれて苦笑する。



「やっぱり、そうなんですか?残念ながら、全く覚えてはいないのですが、嫌な夢を見ていたような気がします」



 インスの返答に神官呪師は一つ頷いて、扉近くで控えている補助要員の神官を見た。



 視線を受けて、その神官は一礼をすると部屋を出ていく。



「……あの……」



 インスは飲み終わったコップを返し、声をかける。


 受け取った神官呪師は促す様に返事をしてインスを見た。


 そして、軽く息を飲む。


 インスの、赤みを帯びた紫色の瞳に、呑まれる。


 普段は緩く結んで左に流していることの多い青みがかかった銀色の髪も今は解かれ、女性的ですらある優美な顔を輪郭に沿って縁取っていた。



「……お願いが、あります……」



 何処か、真剣な様子で、真っ直ぐに自身を見て口を開いたインスを無言で見つめ返す。



 続けた言葉に、困った様子で眉を下げられて、インスも内心申し訳なさを覚えた。


 けれど、取り下げるつもりはない。



「少しの間だけで、いいのです。お願いします」



 重ねて頼み込むが、おそらく彼にはその権限がないのも分かっている。


 だから……



「……伺ってみます」


「!ありがとうございます」



 その返事を聞けただけで、ひとまずほっと、息を吐く。



「ですが、その前にお食事を召し上がって下さい。それと、もう少し、体力が回復してからでなければ無理です」



 続けられた言葉に、今度はインスが少し困ったような表情を見せる。



「もし、許可が下りるとしても、おそらくそれからになります」


「……ですよね……」



 それも、分かっている。


 だからインスも溜め息混じりに頷くことしかできない。



 先ほど部屋を出て行った補助要員の神官がワゴンを押して戻ってきた。



「まずは、先に清拭とお召替えを」



 お手伝いいたしますと言って、二人が準備を整えていくのに、礼を告げて素直に受け入れる。



 看護の神官呪師が言うように、インスはまだ、自分のことを自分でできるほどに回復していなくて、ベッドに身を起こすのが精一杯。



 そんな状態で願ったところですぐに許可が下りないのも分かっている。


 分かってはいたが……



(……少しでも、はやく……)



 自分の目で、様子を確かめたい。


 その気持ちが、溢れてしまった。



 我ながら、焦りすぎたと反省しつつ、それでも気持ちが落ち着かない。


 覚えていないけれども、先ほど見た夢が何か影響しているのかも知れないが……



 ゾワリと、急に悪寒が走った。


 鳥肌が立って、清拭を手伝っていた神官が驚いて手を止める。



「……寒いですか?」


「ああ……いえ。大丈夫です……すみません」



 同じく、清拭していた神官呪師に聞かれて、緩く首を振る。


 心臓が、急に鼓動を早めていたが、落ち着かせようとゆっくり息を繰り返す。



 丁寧に体を清めてもらい、まだ残る傷の手当てをして、寝衣を着替える。



 一通り終えるとさほど待たずに夕食が運ばれてきた。



「ゆっくりと、召し上がってください。ただし、ご無理はなさらずに」



 神官呪師に言われて頷く。


 補助要員の神官二人を残して、いったん部屋を出て行った。



 言われた通り、ゆっくりと食事をしていると、暫くして先ほど出て行った神官呪師と一緒にシリウムが部屋にやってきた。



「アインの様子が見たいって?」



 食事を終えて、薬を飲んでいたインスを見下ろす。



 無言でインスは頷いた。



 溜め息を一つ。



 シリウムは部屋にいた他の神官らを下がらせ、インスと二人きりになる。



「いきなりどうした?」


「ずっと、気になってはいたんです……」



 ベッドの横に備え付けられた椅子に腰を下ろし、向き直ったシリウムと目を合わせた。



「……アイン君は、私を助けてくれましたからね……」



 ふわりと、その女性的ともいえる優し気な風貌に笑みを浮かべる。


 様子にシリウムはこれ見よがしに溜め息を漏らした。



「……その顔やめろ。やりにくい……」



 苦り切った声で言われてふふっと笑う。


 もちろん分かっていてやっている。



「……本当に……」



 ガシガシと、銀色がかった緑髪の頭を掻き毟って、シリウムはもう一度大きく溜め息を漏らす。



「わかったわかった。明日の朝、診察した後なら連れて行ってやる」


「!……明日、ですか?」


「もっと先がいいのか?」



 ジト目で睨まれてにこりと笑顔を返す。



 また溜め息を一つ。



 これ以上の譲歩はしないとインスを睨む。



 笑顔のインスと、しかめっ面のシリウムがしばし睨み合い……



「……わかりました……お願いします……」



 ややあって、肩を落としたインスが頷く。



「素直にそう言え。バカ者」



 呆れたシリウムに若干拗ねたような表情を見せて……だがすぐにインスは眉を下げ、もう一度、今度は真摯に礼を告げる。



「……全く……無理はさせられないからな?お前の体調が悪ければ延期だ」



 仕方なさそうに言うシリウムに分かったと頷く。



「今夜は早めに休むことだ」


「……はい」



 軽く手を振って退室していくシリウムを見送って、インスは素直に頷いた。


第2章第2話をご一読いただき、ありがとうございます。


凄惨な悪夢から覚め、静かな病室での一時。

覚えていなくとも、インスの指先には悪夢の感触が、心にはアインを求める焦燥が刻まれています。


インスとシリウムの信頼関係が垣間見えるシーンでしたが、インスは無事にアインと再会できるのか……。


次回、第3話では、物語は再び「あの日、あったかもしれない凄惨な結末」へと引き戻されます。


※次回、一部残酷な描写が含まれます。 苦手な方はご注意ください。


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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