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第1話・それはありえた未来の一つ~朱殷の闇に囚われて~

残酷描写を含みます。

一応はR-15程度(当初比)にはしてありますが、閲覧注意です。

苦手な方はスキップして下さい(*- -)(*_ _)ペコリ



















第2章 幻影(ゆめ)現実(うつつ)の狭間で惑う



      第1話・それはありえた未来の一つ~朱殷(しゅあん)の闇に囚われて~



「インス様っ!」



 喉を衝いて叫んだアインの目の前では、細い、糸のような魔力が体中に絡みつき、何もない空間に膝立ちのような体勢で磔にされたインスがいた。



 キリキリとその体を締め上げ、食い込む魔力の糸が直接触れている肌には既に血が滲みだし、より深く肉に食い込んでいく。



 その周りを取り囲む十歳ぐらいの子供たちが三人。



 目を血走らせて奇声を上げて、両手で握りしめた両刃のナイフを振り回し、インスに斬りかかる。



 彼らの周囲には更に、黒焦げになってプスプスと煙を上げる物体が十体。


 先に、インスの魔法によって焼き殺された子供たちの死体。



 苦し気に顔を顰めて息を吐くインスと、恐怖に我を忘れてひたすらナイフを振り回す子供たち。



 その様子を、ただただ見せられて、悲鳴のような声でインスを呼ぶことしかできない。



「……さて、君はどうしますか?」



 不意に、後ろからかけられた声にびくりと震えて、振り返る。



 この惨状を、まるで愉しむかのように微笑んで、穏やかな声音で呼びかけてきた黒ずんだ、血のように赤い瞳の魔族を見上げた。



 黒みがかった暗い赤色。


 朱殷色(しゅあんいろ)のその瞳は近くで見ると複眼になっていることが分かる。



 アーグと名乗ったその魔族と、アインの間にはアーグが呼び出した両刃のナイフが浮いていた。



 視線を外しても、耳には子供たちの奇声と、インスの苦し気な声が響いてきて、見下ろしてくる魔族の複眼に、全身が囚われているかのような錯覚。



「このまま、彼が子供たちに殺されるか、捕縛の糸に殺されるのを待ちますか?」


「……っ!」



 改めて突き付けられて息を飲む。



「どうやら、彼にはこれ以上の隠し玉はなさそうですし、あったとしても魔力(ちから)が足りなさそうです」



 それは、アインにもわかっていた。


 つい先ほど、呪文の詠唱も、呪印(いん)もなしで、どうやってか魔法を使っていたけれど……



(もう、魔力……残ってない……きっと、すごく、体調も悪くなってる……)



 見者(けんじゃ)であるアインだからこそ()()()もの。



 魔力切れで、意識を失う寸前。


 辛うじて留めてはいるけれど、今すぐにでも手放してしまいたいくらいに体調は悪化しているはず。



 それに、何より……



(……捕縛の、糸が……っ!)



 直接肌に触れている手首や首元ではもうずいぶん深くまで肉に食い込んで、出血量も多い。


 それ以外の場所でも、服を裂いて肌に触れている部分が増えていて、にじみ出た血が寝衣の白を染めている。


 何より、ナイフを振り回す子供たちの滅茶苦茶な攻撃でも、何度も掠められていて、切り傷も増えていた。



 咳き込み、喘ぐ声が聞こえて、震える。



「彼が死ぬ前に、子供たちが全員死んだら、彼は皇城に返してあげます。そう、言いましたよね?」


「あ……」



 繰り返された『選択肢』と、目の前に浮かぶ、明かりを受けて鈍く煌めくナイフ。



 悲鳴のような子供たちの声と、インスの声。



 吐き気を催す異臭と、面白がるように細められたアーグの眼差し。



 複眼に魅入られて、頭の芯がぼうっとしてくる。



 ダメだと、わかっている。



 分かっているのに、そうしなければどうなるのかもわかるから……



(……インス、さま……僕、は……)



 ……呑まれる。



 思わず右手で額を押さえ、息を吐いた。



 その瞬間に、今までにない引き攣ったようなインスの悲鳴が響いて、ハッとして振り返る。



 一人の子供のナイフが、インスの左足の太ももに刺さっていた。



「インス様っ!!」



 それを理解した瞬間に悲鳴を上げる。



「……ぐっ」



 次の瞬間には刺した子供が無理やりナイフを引き抜いて、噴き出した血と、甲高い悲鳴に目の前が赤く染まる。


 ぐったりとして力の抜けてしまったインスの体に、更に深く捕縛の糸が食い込んでいく。



「……っ!?」



 項垂れて、抵抗する力を失ったインスに向かって、子供たちは両手で握りしめたナイフを振り上げた。



 上から、下へと。



 これまでのように振り回して『切る』のではなく『刺す』ための動き。



 それを理解した瞬間、床を蹴って走る。


 気づいた時には口の中で呪文を唱え始めていた。



(っ。間に合えっ!!)



 けれど、止めることはしない。


 それよりも、急いで、けれども確実に、構築させていく。



(間に合え――っ!!)



 子供たちの間を駆け抜けて、インスに抱き着く。



「……っ!?アイン、く……」


回復(ルイオエル)



 驚いた様子でインスが呼び掛けてくるのを聞きながら、アインは魔法を解き放った。



 回復魔法の、白い光が、酷いケガを緩やかに癒していく。



「っ!離れて!危ないっ!!」



 掠れた声を張るインスが何を言っているのかは分かったけれども、離れる気はない。



 このまま、自分が刺されても構わないと、抱き着く腕に力を込める。



 それよりも……



(お願い!神さま……!!インスさまを助けて!!)



 心の底から願う。祈る。



 どういう訳か、子供たちは途中で不自然に手を止めたようで、ナイフがアインに刺さることはなかった。


 けれどもすぐに、インスの背中側に回り込む。



 舌打ちしたインスが首を巡らせて後ろを見ようとするが、拘束されているせいかきちんと確認できない様子だった。



(……()()()()……)



 だが、インスの正面側から抱き着いているアインには、少し距離を取った子供たちがはっきりと見える。


 しっかりと胸の前で両手で握りしめたナイフを固定し、真っ直ぐに走ってくる。



 助走までつけて、しっかりと固定して、勢いのある状態で、背中側から刺されてしまったらただでは済まない。



 しかも、位置が……



 一人は心臓の辺りに来るのが()()()()



 呪文を、唱える。



 真っ直ぐに子供たちを見据えて、右手を開いて向ける。



「っ!?アイン君!ダメですっ!!」



 その瞬間に聞こえてきた叱責に、びくりとアインは震えた。



 構成しかけた魔法が解かれ、霧散する。



 呆然として、インスを見上げた。



「……っ!!」



 インスを呼ぶ。


 その声が出る前に、ボトリと何かが落ちた。



「っ。……インスさまっ!!」



 上がった悲鳴に、悲鳴で返す。



 噴き出した血が、床を赤く染めていく。



「……あ、いん……く……っ!?」



 ビクンっ。とインスの体が震え、のけぞる。



「……ぇ……」



 顔を、インスの背後に戻す。



 血走った、泣きそうな子供の顔が目に入る。



 三人。子供が、三人。インスの背に、ナイフを突き立て……



「……ぁ……」



 迷わず、抜いた。



 反動で、体を跳ねさせたインスが血を吐く。



 降り注いだ赤が、頭からアインを染め上げ……



 ずるりとインスの体がくずおれた。



 呆然としながら、倒れこんできたインスを抱き止め、支えきれずにぺたりと床に座り込む。


 腕の中に預けられたその顔を、呆然と見下ろす。


「……いんす、さま……?」



 瞼の閉ざされたインスからの返事はない。



 悲鳴のような奇声をあげて、子供たちは残る三人でお互いを刺し、切り、殆ど同じタイミングで、床に倒れて、動きを止める。



「結局、誰も生き残りませんでしたねぇ」



 静かな声が、何でもないように言って、ごく僅かに遅く倒れた子供に歩み寄った。



 軽く開いて上を向けたその掌に、ぼっと炎が吹き上がり、細く、長く伸びて剣を形作る。


 その剣で、無造作に一人の子供の胸を突き、抜き取ると、黒く染まった呪詛の種を取り出す。



「これが()()()()()結果ですよ」



 にこやかに笑いかけてくるアーグの言葉に震える。



「……ぼ、くの……せい……?」


「ええ」



 ぺたりと床に座り込んだまま、腕の中で抱きしめたインスを呆然と見下ろす。


 ごくあっさりと、むしろ愉しそうにアーグは頷く。



 アインの『罪』を突き付ける。



「……ぼ……くの……」



 涙は、出ない。



 ただ、言葉だけが、意味をなさずに零れるだけ。



「さあ。()()どうしますか?」



 こつりと鳴った靴音が、アインの目の前で止まる。



 ゆっくりと、顔を上げ、アーグを見上げるアインの目に、光はない。



 クスリと笑って、アーグはその手の剣をアインの胸に突き刺した。



 アインの体が、微かに仰け反る。



 けれど剣はその体を傷つけてはいない。


 ただ、飲み込まれるように沈んでいって、根元まで、いや、柄の先まで押し込まれて、掌が胸に当たる。


 そこから、今度は引くようにして軽く握ったその手に、光に包まれた濃い紫色の宝石が一つ。



 宝石が抜かれると、アインの体からも力が抜けて、そのままその場に崩れ落ちる。



 クツクツと、喉の奥で笑う声だけが、深い闇に呑まれた意識に微かに聞こえた。


第2章の幕開けにお付き合いいただき、ありがとうございます。


あまりにも凄惨な、ありえたかもしれない未来。

読者の皆様にはその全貌が見えていますが、実はアインも、そしてこの後目覚めるインスも、この夢の内容を「覚えていない」状態で現実へと戻ります。


誰も知らないはずの、けれど確実に魂を削っていく悪夢の残滓。

内容を忘れてしまうからこそ、二人の間に生まれる静かな「歪み」と、理由のわからない「焦燥」に注目していただければ幸いです。


追い詰められたアインが呼ぶ「さま」の響き……。

言葉にできない彼の心の摩耗が、現実の二人にどう影を落とすのか。


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

[https://ncode.syosetu.com/n1170lj/]


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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