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第2話・重苦しい報告会~望むは罰か回復か~

第1章 静かな戦が開幕す



        第2話・重苦しい報告会~望むは罰か回復か~




 主神殿の医務殿にはアインの他に、リオンも意識がない状態で運び込まれていた。


 とはいっても、こちらは疲労で眠っていただけ。



 リオンと共に神殿に帰還したクロードから簡単な引継ぎを受けた医呪(いじゅ)神官の診察を一応受けさせて、一般病棟で寝かせておく。


 そのクロードも、上層部への報告の後、診察を受けて一時入院となった。



 この二人には怪我もなく、ただ疲労が激しいがために休養を必要としていた。


 実際に、クロードでもこの後、二日ほど寝込むことになって、その疲労度合いの酷さが分かる。



 手術の後、集中治療室に移されたインスとアインを、現場の担当者に任せて報告に戻ったシリウム=ゾナール医呪神官長は、治療の協力を要請した大神官(だいしんかん)・チェスパス=インゼラと共に皇都西方の廃離宮で何があったのかの報告を受ける。



「「……………」」



 受けて、二人して難しい顔で黙り込む。



 同じような表情で説明をしたレイニア=ディラート浄術(じょうじゅつ)神官長も話が終わると沈黙し、室内には重苦しい空気が漂っていた。



 想像の埒外ともいえる大事件。



 五年前に皇城の皇太子宮を襲撃し、皇孫皇女で大陸の守護神・ディエルの加護を受けた巫女姫でもあるジャンヌの命を狙った魔族・アーグ。


 その事件で、アーグに呪いをかけられ、以降五年もの間、時を止めたように眠り続けているジャンヌの弟。


 皇孫皇子・ジョン。


カルロス・グラジオス・ジョーン皇子殿下を救わんとしていたジャンヌが、この主神殿に隠されて安置されていた神剣……女神の巫女とその騎士が、女神から授けられたとされる神の剣……の封印を解いて僅か二週間ほど。


 アーグは呪師の家柄の子供たちを十三人も誘拐。


 蠱毒(こどく)の呪いという、強制的に殺し合いを行わせることで呪いの素を作る魔法をかけて、その呪いの力がこもった魔剣を用意した。


 更に、その効果の増幅には五年前にジョンから奪った心の宝石を。


 ……心や精神そのものを結晶化させたもののようだということが今回の事件で分かった……


 その力の制御には、先にインスと共に連れ込んだアインから奪った心の宝石を使っていたのだという。


 まさか、ジャンヌが神剣の封印を解いた事で魔族が暗躍し、準備を整え、自分のところに呼び寄せた。


 などと……誰が考え得たであろうか?


 

 事件の発生からすでに数時間。


 皇宮側でもファンからの報告がなされており、その報告内容も神殿側に共有されている。


 同じように、神殿側からの情報も皇宮側に共有されていて、それぞれの視点から事件の概要が補完され、把握されていた。



しかし……



「……正気か?」


「ゾナール神官長。失礼ですよ」



 思わず呟いたシリウムをレイニアがたしなめる。



「だが、正気を疑う話ではある」



 けれど、チェスパスが言うように、皇宮側から……いや。


 正確に言うのなら、ジャンヌ専属騎士団長のファン卿ディアスから出された主張は正気を疑う内容だと()()()思っている。



 そう。皇宮側からでさえも、正気を疑われているのだ。


 本人が気づいているかまではわからないが。



「ジャネット皇女を危険にさらしたというなら、ラント呪師(じゅし)だって同じようなものだろう?そして、手がかりを伝えたのも彼だ」



 チェスパスが言うように、インスが、本人の意思とは関係なく、ジャンヌたちが廃離宮に転送される原因となったのは間違いない。


 それは、現場に居合わせた護衛の皇宮呪師(こうぐうじゅし)や、ファンたちと共にジャンヌの部屋まで来ていた皇宮内神殿の医務長官である医呪神官・ウスニー=メンテの証言からも確か。



 室内に広がった、赤い光が描き出した魔法陣。



 それは、インスから無理やり魔力を搾り取って……生命力を奪い取って構成されていた。


 もちろん、一瞬にして人を別の場所に移動させる魔法など、人間には使えない。


 だから、インスはジャンヌたちを一所に集め、同時に移動させるための目印として、ついでに魔力の供給源として利用されたにすぎない。



 インスの魔力と、それとは別の、インスとアインが病室から消えた時の魔法陣と同じ種類の魔力が混ざり合い、部屋中に広がり、四人をどこかに連れ去って消えただけ。



 その後、微かに意識を残していたインスが、必死に伝えた場所が、「皇都西方にある旧都の廃離宮」途切れがちの吐息のような言葉を、辛うじて聞き取ったウスニーが何を言っているのかを推察して特定したそこに、確かにジャンヌたちはいた。



 インスに場所の特定ができたのは、一度その場所に連れ込まれて、そこで魔法を使ったから。


 同じ場所に送られたかどうかまでは判断できなかっただろうが、何らかの手掛かりは得られるはずであると、そしておそらく、一緒に連れ込まれたアインがそこに残っているだろうからと伝えたのだ。



 そして、アインはインスと共に連れ込まれたその場所で、魔族・アーグに操られてジャンヌを刺した。



 心を、精神を奪い取られ、意識のなかったその体をアーグが操り、ジャンヌを刺させた。


 アインの胸に刺さっていたナイフは、その時に使われたものだったと、報告を聞いてシリウム達も知っている。



 その上で……



「……操られたままのアインが流した涙が白く光って傷を癒した。か……」



 チェスパスの隣で、シリウムが難しい顔をして呟く。



 再び室内に沈黙が落ちた。



「……どんな奇跡が起こったのでしょうね?」



 眉を下げて言うレイニアに、答えられる者はいない。



 本当に、一体どんな奇跡が起こったのか……


 クロードからの報告によると、その様子を目にしたアーグがアインの手を掴み、その手のナイフをアイン自身の胸に突き刺させたというのだから驚きだ。



「『水の神剣は使わせない』か……アインが水の神剣に選ばれたからの奇跡……と考えるべきなんだろうな……」



 報告を思い出して言うシリウムに、無言で頷きが返ってくる。



「けれど、それでアインに()()厳罰を望むのはおかしいだろう?」



 そう、正気を疑われているファンの主張と言うのは、ジャンヌを刺して重傷を負わせたアインに対しての厳罰。



 主張自体は、わからないでもないのだ。


 何も知らない者からすれば、ただ単純に「アインがジャンヌを刺した。」という事実があるだけ。



 その背景にあるものを知らなければ、皇孫皇女であり、女神の巫女であるジャンヌの殺害未遂。


 捕えられて、処刑されても当然としか言えないほどの重罪ではある。



 だが、ファンも、そして報告を受けた者たちも、皆知っているのだ。



 アインはアーグに体を操られ、その意思とは関係なくジャンヌを刺すことになったにすぎない。と。


 その上で、その負わせた傷を、きれいさっぱり治療しきっている。



 ジャンヌに何の負担もかけずに。



 どころか、ファン自身も、そしてクロードやリオンもまた、アインの流した白く光る涙によって傷を癒され、疲れを癒され、アーグとの決戦に打ち勝っている。



 ここまでの功績をあげているのに、アインに厳罰を望むと主張しているのだ。



 更に正気を疑う理由が、インスに対してはそれを望んでいないこと。



 ジャンヌたちがアーグの元に連れていかれた原因となったインスに対する罪には触れず、救援を送ることができた功績を認めている。



 その結果、四人共が無事に皇都に帰還できていて……



「……ジョーン皇子が、お目覚めになられた……か」



 感慨深げに漏らしたチェスパスの言葉に、一瞬空気が緩む。



 この五年。皇城の侍医(じい)と共に、神官呪師たちがずっと挑んでいた、ジョンの回復。



 それは間違いなく、喜ばしい知らせだった。



「……ファン卿は……」



 その空気を引き裂くように、話を戻すようにレイニアが口を開く。



 空気が再び張り詰め、重くなる。



「……なぜ、あれほどまでにアインを厭うのでしょうね……」



 困ったように微笑むレイニアの言うとおり、以前からファンはアインに対してやたらと当たりが強い。


 いや。当たりが強い。というのならリオンに対してもそうではあるのだが、それはリオンがジャンヌに「皇女相手として考えれば」悪影響を及ぼしているから。



 ファンもまだ十九歳ではあるが、若くても名門侯爵家の嫡子として、幼いころから教育を受けていて、王侯貴族……「立場ある者」に対する心構えや責任感がリオンとは違いすぎる。



 リオンは良くも悪くも平民で、まだ十七歳の青年。


 責任感がないわけではないが、その重みを理解しきれてはいない。



 だから気軽に下町の。治安が悪いような場所にまでジャンヌを連れて行ったり、夜中に皇都を徘徊させられたりできてしまう。



 その結果、当然の注意として叱ることになり、それをリオンが反発してまともに受け入れないからこその当たりの強さ。



 対して、アインに対する当たりの強さは初めから異常なのだ。



 何しろ、初対面でいきなり斬りかかり、以降も顔を合わせるたびに不快感を隠そうともしない。



 ファンは別段、権威主義と言う訳ではない。


 どちらかと言えば、出自よりも能力や人柄を重視している。


 そうでなければ、現在のジャンヌ専属護衛騎士団のメンバーに、神殿孤児院出身のクロードとリオンも加えられてはいないだろうし、個人的に嫌っている態度を隠そうとしていないアインを加えることもなかっただろう。


 この三人が護衛騎士団に加入しているのは、クロードは同時に神殿護衛官という職に就いていて、その優秀さを買ったファンが直接スカウトしたからでもあり、三人が共にジャンヌが神剣の封印を解いた時に神剣の使い手となったから。



「……そう考えると、ファン卿がアインに対して厳罰を望んでいるのは、アインがジャネット皇女を刺したから。が理由ではなさそうだな……」



 ふむ。と腕を組み少し考えるようにして言ったチェスパスに全員が頷く。



 けれど、その理由まではわからない。



「……皇宮側からの要請は?」


「今は、『二人の回復を望む。』とだけ……」



 シリウムの問いかけにレイニアが答える。



 その答えに、シリウムもチェスパスも無言で頷く。


 皇宮側でもわかっているのだ。



 重症の二人が、助かるかどうかはまだわからないのだと。



 いくらファンが厳罰を望もうとも、助かるかどうかもわからない者に望んだところで、どうすることもできない。


 いや。処刑が妥当だと考えているのであれば治療の中止を命じられるだろう。


 だが、ファン以外の誰も、処刑どころか厳罰を望んでいるわけではないからこそ、中止命令は出ていない。



 万が一、何らかの「罰を。」となったところで、ファンが望むような『厳罰』にはならないから。


 何より。



「……ラント呪師からも、アインからも、事情聴取できなければ、全容が判明しないからな……」



 そう、チェスパスの言うように、まだ事件の全容は判明していない。



 ジャンヌたちが「連れ込まれてから」の事はファンやクロードからの報告で分かっている。


 ファンではわからなかった、魔法や魔族に絡む部分は、神殿護衛官でもあるクロードからの情報である程度の補完もできてはいる。


 だが、呪師以外では「わからなかったこと」があるはずで、その情報を得るためにも、二人には助かってもらう必要があるのだ。



「とにかく、二人の治療はこのまま続ける。最優先でだ」



 シリウムの言葉に、チェスパスもレイニアも頷く。



 それを最後に今回の報告会は終わりを告げ、以降、集中治療を受ける二人の容態の変化を見守る期間が続いた。


第1章第2話をお読みいただきありがとうございます。


本編では「厳格で容赦ない騎士」という印象が強かったファン卿ですが、神殿側から見ても、彼のアインに対する態度は「異常」と映っていたようです。


彼はなぜ、幼いアインにあれほどまで厳しく当たるのか……。


そしてついに、眠り続けていたジョン皇子の目覚めという、聖皇国にとって大きな光が差し込みました。


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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