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第2話・覆すのは手段か意思か~代償と贖罪の狭間で望まれる~

終 章 ムゲンの護り人



     第2話・覆すのは手段か意思か~代償と贖罪の狭間で望まれる~



 前例がない。


 と言う言葉はとても都合がよくできている。



「……あん……の、クソじじい……」


「ゾナール神官長。失礼だぞ」



 手の中の書類を握りつぶさんばかりの勢いで握りしめ、今すぐ破り捨てたい衝動を必死にこらえて肩を震わすシリウムが怨嗟の籠る低い声を思わず漏らせば、気持ちはわかるが落ち着けと言わんばかりにチェスパスが宥める。



「それに、ペンティス呪師長が言ってることは正しいしな……」



 そう。この上なく正しいのは間違いない。


 同時に、「事態をちゃんと理解しているのか耄碌爺!」と思う気持ちがないわけでもない。



 さて、二人が何の話をしているかと言えば、アインの回復を進めるために必須と判明したインスに関して。



 インスが傍にいるかいないかでここまで症状に違いが出てしまうのなら、少なくとも普段通りの生活に戻るまでの間、傍に置いておく必要がある。



 しかし、インスは皇宮勤めの皇宮呪師(こうぐうじゅし)


 所属が皇宮側なので、本人の治療や療養のために必須と言う訳ではない以上、神殿に留めておくことはできない。


 そこで、一時的に「出向扱いで寄こせないか。」という相談を皇宮呪師を統括する呪師長・キプラ=ペンティスに送ったところ……



『皇宮呪師の神殿への出向など前例がない。どうしても皇宮呪師であるインスが必要だというのなら、皇宮内の医務殿に転院させ、そこで続く療養をさせるのが筋である』



 といった内容の返事が返ってきた。



『馬鹿か! アインに厳罰を要求しているファンと顔を合わせる可能性が高い皇宮で療養などできるか! そもそも、皇宮内の医務殿は一次治療用で、長期入院が必要な重篤者を収容できるようにはできてないわ!!』



 読んだ瞬間にそんな内容のことを怒鳴り散らしたシリウムに驚いて、秘書官がチェスパスを呼び出した。



「……あの御仁。そろそろ隠居させるべきじゃないか? 今、いくつだ?」


「さて? 我々よりは大分年上なのは間違いないが……」



 見た目的には三人ともそれほど変わらない。



 ちなみに、シリウムが四十代後半に見え、チェスパスが五十代前半に見え、皇宮呪師長のキプラは五十代中頃に見える。



 どうする? と視線だけで語り合って、同時に溜め息。



「……前例ってのは、新たに作らなきゃできないんだよ……」



 怒りを隠そうともしないシリウムの様子に、チェスパスはもう一度溜め息を漏らす。



「……あまり、煽るなよ?」


「向こうがゴネなければ問題ない」



 一応たしなめはするが、チェスパスも気持ちは同じ。



 だからシリウムがいきなり切り札を切るのを黙認する。



 そして……





「今日から、お前が呪師寮に戻るまでの間の世話役だ」


「よろしくお願いしますね」



 ニヤリと笑って告げるシリウムの隣で、にこやかに微笑むインスを、アインは呆気に取られて見つめる。



「腕の怪我は無理だろうが、胸の怪我を治すまでの間と、その後、体力の回復状態を確認して退院するまでの期間限定だがな」


「できるだけ早く体調を整えて授業に復帰して欲しいそうですよ?」



 まだ呆けているアインに、あくまでも期間限定。一時的なものであると念押しする。


 それに続いて、インスが事前に、他の指導役から聞かされた理由を伝えた。



「……授業……。……っ!?」



 ぽつりと、繰り返して、アッと短く声を上げる。


 思わず体を跳ねさせてしまい、怪我に響いてベッドに突っ伏す。



「アイン君!?」


「バカ! 急に動くな!!」



 慌ててインスが背を撫で、シリウムは周囲に指示を飛ばして治療の用意をする。



 涙目になって痛みを堪えるアインの体の向きをゆっくりと変えて、手早く手当てが進められた。



「まったく……いいか? アイン。お前は早いところ怪我の治療をして、呪師寮に戻らないといけない。ここまではいいな?」



 手当てをしながら、話をすすめるシリウムに、アインは無言で頷く。



 痛みを堪えるのが精一杯で、声に出して返事をする余裕がない。



「その後は、これまで通り神殿では一般常識と神官呪師(しんかんじゅし)としての勉強を。皇宮では武芸の訓練と皇宮呪師としての勉強をする。……これまで通り、だ……」



 繰り返されて、アインは少し、首を傾げた。



「……え……でも……」


「まずはお前が()()()()()()できるかを見る」



 それでは何も罰がないのではないかと思ったアインに、シリウムは三度同じ言葉を繰り返す。



 見据える目には力がこもっていて、嘘でも冗談でも、そして、何もないわけではないと伝えてくる。



 息を飲んだアインはまだ気づいていない。



 シリウムの言う『これまで通り』が実はとんでもなく難しいことだと。



 分かっているから、インスは無言でやり取りを見守る。



 その眼差しが、一瞬だけ愁いを帯びたことに気づいた者はいなかった。






「姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~」番外編・聖皇国列伝秘聞・第1弾


『皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~』(完)



番外編・第1弾「皇宮呪師は護りたい!」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


アインに課された「これまで通り」という罰。

それは、救いのように見えて、実は一番過酷な道のりの始まりでもあります。

傍に寄り添うことを決めたインスの眼差しに、何を思われたでしょうか?


番外編第1弾で描かれた出来事も受けて、

物語は再び『本編』へと戻ります。

1日のインターバルを挟み、

本編第2部の連載を開始予定です。


番外編で明らかになった事実、残された問題、そして選択の行方――


ここから先は、本編と番外編。


双方の物語をお読みいただいている方にはニヤリとできる……


けれど、それぞれ単独でもお楽しみいただけるように執筆に励んでまいります!


2026年1月15日(木)22時より、連載開始予定です。


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


次回は2026年1月15日(木)22時から、本編第2部の連載を開始します。どうぞ、お見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


近況ノートにて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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