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第5話・知っている者、いない者~悪夢の滓に溺れる心《いのち》~

第4章 罪に対する罰と言うなら



     第5話・知っている者、いない者~悪夢の滓に溺れる(いのち)



「悪い、悪い。お前が皇宮で事故にあった日に、皇都西方で魔物の討伐が行われたらしくてさ。討伐自体は問題なく終わったらしいんだが、事後調査に行った調査隊に体調不良者が出たって聞いたもんでな」


「……ぇ……?」



 一度、バツが悪そうに頭を掻いたペルフィーの説明に、アインは驚きすぎて微かな吐息だけを漏らす。



 実をいうと、ペルフィーの知る『先日の事件』とアインが思っている『先日の事件』には大きな乖離があった。



 そもそもの話、五年前の魔族襲撃に関しても、公式発表はされていない。


 だから一般的には、現在の皇太子であるジョンも「病で臥せっている。」とされていて、その実態が魔族の呪いによるものとは知られていない。



 さすがに、正式な神官呪師(しんかんじゅし)ではあっても、同時にまだ見習いでもあるペルフィーにもそうとしか伝えられてはいなかった。



 更に、皇孫皇女で女神の巫女でもあるジャンヌが神剣の封印を解き、その使い手として契約したことも極秘事項。


 当然、騎士団長のファンや神殿護衛官のクロード、ジャンヌの悪友(しんゆう)のリオン、そして『一応』がつくとは言えアインもまた神剣の使い手として選ばれたことも極秘扱いで、ペルフィーもすべては知らない。



 ただ、同室の世話役であるペルフィーにアインの体調不良を隠せるはずも隠す必要性もないため、「事故に巻き込まれた。」と言う形で体調不良を説明してあった。



 そして、一か月ほど前の事件に関しても箝口令が引かれていて、アインの怪我も「皇宮で起こった事故に巻き込まれた。」とだけ説明されている。



 ジャンヌたちが皇都西方の廃宮殿で魔族と戦ったことも極秘。



 けれど、旧都に向けて救援を送ったため、皇都西方で何かがあったことまでは隠せない。



 だから、一般的には、「皇都近くで魔物が発見されたがすぐに討伐された。」とされている。



 ペルフィーの認識は「魔物の発生が報告されてごたごたしていた皇宮で事故が起こって、それに巻き込まれたアインが怪我をした。」で、事件そのものにアインが関わっているとは思っていない。



「や……。まだ完治してないお前に話すようなことじゃなかった。悪いな」



 ペルフィーは、それでなくても、アインは色々なことを気にし過ぎる質だと思っている。



 だから、アインが聞いたところであまり関係ないような話題や、どこからか絶対に耳に入るであろう話題の中でも、できるだけ軽い話や明るい話を選んでいた。



 それなのに先ほどは、事故に遭った日の、その原因ともいえる事件の話題を出してしまったことに気付いて慌てて口を押さえただけ。



 対して、アインが血の気を引かせたのは、自分自身がその事件にしっかりと関係していて、その『後始末』がまだ終わってなどいないことを改めて認識したから。


 ペルフィーの説明と言うか、言い訳と言うかを聞きながら、曖昧に微笑むアインは真っ青。


 今朝、ペルフィーが病室を訪れた時より顔色が悪くなっていて、さすがに眉を潜められる。



「……悪い。変な話題出しちまったな……」


「……いえ……大丈夫です……」



 軽く話を流そうとしたペルフィーは様子に態度を改め、アインは変わらず真っ青な顔で微笑む。



「一旦休め。顔色が悪すぎる」


「…………わかりました」



 真剣に言うペルフィーに頷く。



 ペルフィーは部屋付きの神官に視線を向け、既に薬が用意されていることに気付いた。


 流石は正式な看護要員の神官。


 適切な処置もタイミングもしっかりと分かっている。



 差し出された薬を素直に飲んで横になったアインは程なく眠りにつき、それを確認してペルフィーの肩からようやく力が抜けた。



「……あ~。失敗した。怒られる……」



 アインを起こさないようにと、口の中だけで小さく呟き、部屋付きの神官を見る。



 頷きで返したその神官に促されて、一旦病室を後にした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「お前なぁ……」


「申し訳ありません……!」



 報告を受けて、呆れを隠そうともしない医務殿総括、医呪(いじゅ)神官長・シリウムの前で、ひたすら小さくなって謝罪しているのはペルフィー。



 アインの病室に付いている神官の案内の下、連れてこられたのはまさかまさかの神官長室。



 医呪神官を目指して勉強中のペルフィーからすれば雲の上とも思えるトップの前に引きずり出されて普段通りでいろと言われてもさすがに無理だ。



「いや……。こちらも、どんな話題は避けろと言った指示はとくにしなかったしな」



 あまりにも恐縮しているペルフィーを見て、シリウムも溜め息混じりで許しを口にする。



 そもそも、真実を知りもしないペルフィーに対して、事前に何の注意も伝えておかなかったこちらの落ち度だろう。



「……本当に、申し訳なく……」



 そうはいっても、そんなことを知らないペルフィーには、自分が「話題選びを間違えた結果、アインの体調が悪化した。」という、医師を目指す者からしたら考えられない失態。



「もういい。今後は自分にとっては大したことがないと思うような話題でも、相手の精神状態その他によっては注意が必要だと覚えておけ」


「はい」



 これ以上言っても仕方がないと、シリウムは話を終わらせる。



「それよりも、お前を呼んだ理由についてだ」



 それから、改めて声をかけた。



 ペルフィーも、もう一度深く頭を下げて、すぐに頭を切り替える。



「アインの様子を確認しましたが、睡眠の質が悪いようでした。それと、お気づきでしょうが、左腕の怪我に残る濃密な魔力……そのせいで治りが遅いのであろうと推察しました」



 表情すらも切り替わり、普段の人好きのする雰囲気が一切消えた。



 何処までも真面目で冷静な医師の卵にふさわしい落ち着きと観察眼。



 シリウムは一つ頷いて、部屋の隅で控えていたアインの病室付きの神官を見た。



「昨夜は就寝時間前にベッドに入っていましたが、眠りが浅く、一、二時間ほどで目が覚めてしまう様子でした」



 一歩前に進み出て、一度頭を下げたその男性神官は、昨夜のアインの様子を報告していく。



 それは既にシリウムにも報告済みの内容で、今はペルフィーに情報を共有するために話している。



「その後もそれが繰り返され、深夜過ぎにようやく寝入った様子でしたが、すぐにうなされ始め、突然悲鳴を上げて暴れたかと思えば、ずっとうわ言のように謝罪の言葉を繰り返していました」



 うなされ始めたかと思えば悲鳴を上げて、突然暴れだし、ぼんやりと目を開いたまま謝罪の言葉を繰り返す。


 目の焦点も合っていなくて、起きているのか眠っているのかもわからない状態。



 暴れたといっても、暴力を振るったとかそういったものではなく、ひたすら怯えた様子でバタバタと体をばたつかせただけ。



 慌てて体を押さえつけ、動かさないようにさせたが、その結果は火を見るより明らかで、治る様子のない左腕の怪我はもちろん。


 まだ塞がりきっていない胸の怪我にも響いて、痛みに呻くことになる。



 痛みと、押さえつけられたことで動けなくなると、繰り返し繰り返し「ごめんなさい。」と呟き続けていて、明らかに正気ではない様子。



 鎮静剤を吸引させて無理やり意識を奪い取って、それでようやく朝まで眠ってはくれたが、質の良い睡眠とは到底言えない。



 報告に、ペルフィーは思わず息を飲む。



「以前からアインは夢見が悪いようで、うなされていることが多かったが……昨夜は久々に相当だったようだ」



 シリウムの言う通り、アインは保護された当初からあまり夢見が良くないようで、夜中にうなされていることが多かった。



 それでも、ペルフィーが呪師寮で一緒に生活している間に、夢見の悪さで叫ぶとか、暴れるとか……


 うわ言のように同じ言葉を繰り返すだとか言ったことはなく、夢が通り過ぎればちゃんと眠れているようだった。



「……先日の『事故』以来、アインの夢見は相当悪いらしく、内容は覚えていないようだがうなされて、ひきつけのような状態になることもあった。……ここ最近は落ち着いていたようだったが……」



 ペルフィーにはその理由はわからないだろうが、シリウムには予想がついている。



 それはおそらく、インスが一緒に寝ていたから。



 だが、インスは皇宮呪師(こうぐうじゅし)だ。


 怪我が治れば医務殿から出て皇宮に戻らなければいけない。



 だから昨日、半ば引きずられるようではあったが、皇宮護衛官に伴われて本来所属している皇宮へと戻って行った。



 もしかしたら、さっそく何らかの業務に駆り出されているかもしれない。



 では、神殿の者でアインの傍に付いていてやれる者がいるかと言うと……



「……授業の前後、呪師寮で過ごしている間だけならば、お前が傍にいてやることもできるだろうが……」



 視線を向けられて、ペルフィーは黙って頭を下げる。



 それ以上の時間は無理。


 もっと言えば、呪師寮で過ごす時間だって、ずっとは一緒にいられない。



 そもそも、学習内容や速度が違っていて、一緒に授業を受けることなどないし、呪師寮にいる間だって、それぞれにやるべきことがある。


 確実に一緒にいられる時間と言えば、消灯から起床まで。



 それだって、アインの消灯起床時刻と、ペルフィーの消灯起床時刻が違っている。



「……寝入り端の添い寝くらいでしたら可能ですが……」



 おそらく、それではダメなのだろうとペルフィーにもわかっていた。



 シリウムが頭を抱えて重い溜め息を漏らす。



「……これから皇宮の呪師寮に移す?無理だろう……」



 退院と同時に皇宮側の呪師寮に移籍させるという手段もあるが、神殿側の呪師寮の方が『安全管理』が望めるという結論から神殿側の呪師寮に入れさせたのに、わざわざ移す?ありえない。



 しかも、皇宮側の呪師寮に入れてしまうと、ファンとの遭遇率が高まりすぎる。



 どうしてだかアインを敵視し、厳罰を求めている者が近くにいて休めるはずなどない。



「……一度、検討する……夜間のアインの様子は人数を増やして見守るしかないな……一応、誰かに添い寝をさせるのも試してみよう……寝入り端だけで大丈夫そうであるなら、退院後は呪師寮の部屋に戻せる」



 ややあって、ペルフィーと部屋付きの神官に向かってそう告げる。



「「わかりました」」



 二人はそろって返事をし、アインのいる病室へと戻って行った。


第4章 第5話をお読みいただきありがとうございます。


アインが持つ「先日の事件」への認識と、事情を知らないペルフィーの認識。

その埋めがたい乖離が、図らずもアインを追い詰める結果となってしまいました。


善意で接しているペルフィーにとって、自分がアインの顔色を悪くさせてしまったという事実は、医師の卵としてなかなかに堪える失態だったようです。



そして、インスが医務殿を去ったことで露呈した、アインの夜の深刻な状態。

うなされながら繰り返される「ごめんなさい」という言葉。

アインの心に深く根を張った罪悪感が、彼の体を内側から蝕んでいるようです。



添い寝が必要なほど不安定なアインですが、はたして神殿側で彼の傍に寄り添える者は見つかるのでしょうか?



次回からは終章に入ります。

インスの「護りたい!」気持ちはアインの下に届くのか?


引き続きお付き合いいただければ幸いです!


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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